「月面着陸船」変更! 大きな危機を乗り切った

写真拡大

チームHAKUTOでは、ビジネス面と組織設計を担うispace社の中村貴裕。実は、この半年間、彼らの「月への挑戦」は、かなりの危機に直面していた。どのように乗り切って、どう軌道修正したのか、中村の口から初めて真相が明かされる。

「まだ修正は間に合いますか?」

au×HAKUTO MOON CHALLENGEを特集した『Forbes JAPAN』の見本誌を手にしたispace社の中村貴裕が、そう尋ねてきた。8ページにわたる『Forbes JAPAN』の記事には、8月にサカナクションやKDDIらパートナーも参加して催した「ローバーフライトモデル発表会」の写真なども掲載されている。

「間違いがありましたか」と担当者編集者が聞くと、中村は首を横に振りながら、写真のキャプションを指さした。

そこには、”月面までは「相乗り方式。HAKUTOはアメリカのチーム「アストロボティック」のランダー(月面着陸船)に同乗する”といった内容が記されていた。

「いいえ、そうではないのですが……。実は今日、契約の内容変更を発表しようと考えているんです」

中村が言う契約とは、月面に探査用のローバーを送るための相乗り契約のことだ。Google Lunar XPRIZE(グーグル・ルナ・エクスプライズ)には、2016年末までに各チームが打ち上げ契約を結べなかった場合、レース自体を失格になるという規定がある。もともとHAKUTOはアメリカの参加チームであるアストロボティック(Astrobotic)のランダーに相乗りして、月面をめざす予定で調整を進めてきた。そんなHAKUTOのメンバーを戸惑わせるきっかけは、ある「噂」だった。

「アストロボティックは2017年のレース期限内での打ち上げにコミットしないのではないか……」

実際、Forbes JAPAN編集部も、海外の宇宙業界を取材中、同じ噂を耳にしていた。そうであれば、HAKUTOはどうなるのか。そんな疑問が浮かんだ。

アストロボティックの作業がはかばかしくないと思われていた理由は、実は彼らが顧客とのビジネスに重点を置き始めており、2019年に向けた技術開発に舵を切りつつあったからだ。

新契約はインドのチームと

当初、Google Lunar XPRIZEに参加を表明したチームは、全世界で34チームあった。各チームは数年間、技術開発とともに、資金調達面でも鎬を削ってきたが、15年末の段階では約半数の16チームにまで絞られていた。

「各チームともそれぞれ技術や資金調達面の事情もある。16年末のロケットの契約期限をクリアできるのは、おそらくは5〜6チームになるはずです」(中村)

Google Lunar XPRIZEは、各チームがその技術力とビジネス面での威信をかけて挑む世界初の民間月面レース。ライバルのリタイアはHAKUTOにとっては大きなチャンスのはずだ。しかし中村は「他のチームのリタイアは素直に喜べなかった」という。その理由は大きくふたつあった。

まずひとつは、チームHAKUTO自体の存続も大きく揺れ動いたからだ。打ち上げ契約をXPRIZE財団から2016年内に承認される必要があった。HAKUTOはアストロボティックとすでに相乗り契約を締結していたが、XPRIZE財団から承認を受けていたわけではなかった。

そこで、HAKUTOはアストロボティック以外のチームと交渉を始める。相乗り契約方式の打ち上げ契約を他のチームとあらためて締結し、12月21日にその内容を公表した。

冒頭で中村が「修正したい」と話したのは、その「相乗り契約」の件であった。そして偶然にも同じ日に、アストロボティックはレースからのリタイアを表明したのだった。

「今回、新たに契約を結んだのはインドのチームインダスです。彼らはPSLVという、インド政府が開発しているインド国産ロケットと契約を結んでいます。PSLV自体は国がつくっていますが、お金を払うのは民間ということでGoogle Lunar XPRIZEのルールには抵触しません。チームインダスもHAKUTOと同じく中間賞を取った有力チームのひとつ。技術力、とくに設計力とシミュレーションの能力においては、レース参加チームのなかでもトップクラスです。エンジニアも100人ほどおり、レースが終了した後は宇宙開発や衛星事業に乗り出そうとしています」(中村)