伝統工芸のイノベーションを起こす/マザーハウス山口絵理子

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2006年に起業し、バングラデシュの天然素材ジュート(黄麻)やレザーを使ったバッグを中心に日本でのアパレル事業を展開してきた山口絵理子が、次に選んだのはジュエリーだった。『輝ける場所を探して』(2016年12月発売、講談社)を出版したばかりの彼女に、ジュエリー事業や今後のビジョンについて語ってもらった。

-山口さんは起業されてからバッグのデザインと生産を続けていらっしゃいましたが、ジュエリーにも着手されたのはどのようなきっかけがあったのですか?

山口絵理子(以下、山口):ジュエリーで何かをしたい、と最初から考えていたわけではなかったんです。それに、本来ならば、既存のバッグの事業をさらに大きくしていくべきでしょう。

ただ、私の目標はバッグを売ること自体ではないんです。「途上国からブランドを作ること」と、「働ける国を増やすこと」。この二つが、私の事業の目的です。その上で、途上国の中には鉱物や石など、ジュエリーの資源を豊富に持っている国が多いだろうと考え、インドネシアとスリランカでのジュエリー事業にたどり着きました。

-バッグやジュエリーの素材以外でも、事業ができるかどうか調査した資源はありますか?

山口:検討し、現地調査にも行ったけれど事業に結びつかなかったものもたくさんあります。実際にやるかやらないかは、職人さんに会って、話してみて判断しています。

-山口さんが考える、いい職人さんの条件とはどのようなものですか?

山口:「素直さ」ですね。バッグも、ジュエリーも、伝統工芸であればあるほど、年配で頑なな職人さんが作っているイメージがあります。しかし、ビジネスとしてゴール思考で考えるならば、お客様が何を求めているかを考えなければいけない。伝統を守ることも大切だけれど、職人さんには、お客様に必要とされる商品を作ろうとする柔軟性も必要です。

-新刊『輝ける場所を探して』をはじめ、山口さんの著書を読んでいると、どの職人さんもユニークで懐に入るまでが難しそうな方が多いですよね。素直さのある職人さんは、どのようにして見抜いているのですか。

山口:外見や第一印象ではわからないので、作業場に張りついて、製品を通じてコミュニケーションをとるんです。そのなかで、私がきちんと素材について勉強していて、技術についても学んでいることをアピールして、職人さんに信用してもらう。

職人さんにプロだと認められると、私が製品に対してあれこれリクエストしても「この人の意見なら聞いてあげよう」と心を開いてくれる人もいるんですね。そういう職人さんとはビジネスができる。

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-ご自身は、どのようにして勉強しているんですか?

山口:現場で作業を横で見ながら教えてもらうんです。子どもみたいにしつこく「どうして?」って質問する。

「ただのデザイナーなのに、こんなこと聞いてどうするんだ」と呆れられるんですけど、そう呟く職人さんの表情は嬉しそうなんです。彼らは、日本人に教えるというだけで誇りに感じるんですね。職人さんは先生で、私は生徒。そういうスタンスで接して、作品のリクエストをする時にも、生徒として提案するつもりでお願いをしているんです。

-インドネシアやスリランカで作るジュエリーでは、どのようなことを表現したいとお考えですか。

山口:国の個性を投影した作品を作っていきたいですね。インドネシアは”繊細さ”や”優しさ”、スリランカは”ワイルドネイチャー”が、その国のイメージです。途上国のものづくりで私が大切にしているのは、現場に行って自分自身が感じたその国の魅力を作品として光らせる、ということです。現場に行くと、経済指標ではわからない、自然や文化面での豊かさを肌で感じられます。

-山口さんのビジネスに憧れる人もたくさんいます。革新的なデザイナーは、どのようにして生まれると思いますか?

山口:デザイナーは絵を描いているだけではだめです。ものづくりの現場にいき、生産過程や素材そのもののことを知らなくてはいけない。たとえば、グラデーションのあるバッグを作りたいとする。デザイン上でならいくらでも表現できますが、一枚の皮でそのグラデーションを出せるのか、出せるとすれば、どのような工程を加えれば可能になるのか、ということを覚えなくてはいけません。

-ソーシャルビジネスの第一人者でもある山口さんにぜひお聞きしたいのですが、ソーシャルビジネスの現在をどのようにご覧になっていますか。

山口:ソーシャルビジネスという言葉が一人歩きして、ビジネス、利益、継続性がきちんと揃っているのかを見つめることを忘れるようになってしまってはいけないな、という思いはあります。

私は今でも、自分のしていることがソーシャルビジネスという言葉にフィットしているかどうか疑問に感じている部分はあります。YKKのような大きな会社が途上国に工場を建てて雇用を創出しているのと比べたりすると、なおさら、自分のビジネスの規模でソーシャルビジネスと呼べるのか、と。

ただ、私たちが自信を持っているのは、現地の職人さんたちがベストな状況でものづくりができるように、全力を尽くしているということです。例えば、職人さんが「こんな道具があればもっといいんだけど」と何気なく呟くのを耳にしたら、次に日本から現地に行く時には、必ずそれを持っていく。ジュエリー制作は細かい作業で目が疲れるから目薬を用意する、照明器具を整える、などです。いい作品をつくるための環境づくりも、途上国で仕事をする上では大切です。

-最後に、今後はどのようなことをモチーフにして事業を展開していきたいか、教えて下さい。

山口:お客様のライフプランに沿った品物を提案できるようになりたいですね。マザーハウスのコンセプトは、家族みんなから記念日の贈り物に選んでいただける作品づくりです。父の日の贈り物であったり、母娘の結びつきなど、そういうコンセプトに現地の素材をどう結びつけるか、結びつく素材が現地にあるのか。今後も模索し、お客様の話からインスバイアされながらものづくりを続けていけたいと思います。

山口絵理子◎マザーハウス代表兼チーフデザイナー。慶應義塾大学卒業。バングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程入学。現地で2年間、日本大手商社のダッカ事務所にて研修生を勤めながら夜間の大学院に通う。2年後帰国し株式会社マザーハウスを設立。