20年前、遠隔から自販機の中身を0.1度単位でモニターしたいと考える自販機メーカーから問い合わせを受けたことがあった。誰だってぬるいソーダは嫌だろう。しかし、メーカーが求めてきた精度は問題を解決するにはあまりに細か過ぎた。

自販機が通信するのは、温度が推奨する3度より高くなるか低くなるかの時だけでいい。0.1度単位で通信を要するというのは“やりすぎ”なのだ。我々は自販機メーカーのデータサイズをより小さいものにするよう提案し、自販機メーカーはお金と通信量を削減しつつ、冷えたソーダを提供できるようになった。

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私がこの話を持ち出すのには理由がある。IoTにおいて物事を決定する際に自問されるべき問題、「必要としている以上のデータ転送はその出費に見合うものか」ということを読者の方々にも考えて欲しいからだ。もし答えが“NO”であれば、停電力広域ネットワーク(LPWA)の利用を検討するべきだろう。

データが増えると多くなる問題

コンシューマIoTと工業や社会IoTで必要とされるデータ量のギャップは、これまで以上に広がっている。セルラー網はIoTにおけるデファクトスタンダードになっているが、これらはより多くの通信を高速におこなうスマートフォンユーザのニーズに合わせて作られたものである。そのためにコンシューマはデータプランのみならず、ハードやバッテリーにも高いお金を払っている。そのネットワークをそのまま利用するというのはあり得そうな選択肢だが、利用料は携帯の進歩とともに上がっていくため工業や社会IoTの場合は見合わないだろう。

Syed Zaeem Hosain, Chief Technology Officer, Aeris

工業/社会IoTにおける第一の問題は、その長期性だ。セルラー網のLTEの進歩についていくため、企業は設備を携帯のように3-4年ごとにアップデートしなければならない。数千、数万のコネクテッドデバイスを抱える場合、高くつくだけでなくロジスティック面でも大問題を抱えることになる。

第二の問題は、セルラー網が必要とする消費電力だ。スマートフォンの場合、どれだけ高性能でも1日使えば充電が必要になる。このバッテリーの短さの主な原因は、セルラー網を通じて大量のデータを送るための電力消費だ。コンシューマならすぐにこれらを充電できるが、IoTで使われるものの場合、マシンよりも長持ちするバッテリーが必要となる。

多くの工業/社会IoTにおいて、セルラー網の速度は手に余る。少量のデータを送るためのネットワークを別途LPWAで作ることにより、セルラー網に起因する上記の問題の多くは解消されるだろう。

データが減ればコストも減る

では、工業/社会IoTでLPWAを導入する最大のモチベーションとは何か。コスト削減である。

LPWAで別のネットワークを作ることによりセルラー網で起こる問題の多くが解消することは書いた。たとえば、携帯のLTEネットワークと異なり、データ量増加対策のためのアップデートを必要としないし、LPWAを使うよう設計されたセンサーなどのデバイスが使えなくなることはないのだ。デバイスに接続されているバッテリーもセルラー網を使う時よりずっと長持ちし、物によっては15年持つケースもある。デバイスをより長く使えることとバッテリー寿命の増加により、無数にあるデバイスのハードやバッテリー交換の作業コスト削減につながるだろう。

LPWAにより実現されるものとして、「バッテリーの長寿命化」と「データ転送速度の低下」が挙げられる。だが、その一方でレイテンシの問題もある。LPWAにおける遅延はプロトコルやデータ量にもよるが、数秒から数分といったところだ。つまり、LPWAは水漏れ検知や交通パターン監視などのタイムクリティカルではないものには向いているかもしれないが、心拍モニターなどの命に関わることには向いていないと言えるだろう。

データ転送に使える時間の減少が電力のセーブにつながっているため、結果として送られるデータ量は少なくなる。LPWAは、数バイト程度で収まるようなシンプルな情報を送るために設計されたものだ。自販機の例にあったような、単純なオペレーション情報をやり取りするだけのM2M通信にはもってこいだ。

価格面でLPWAに対抗できる数少ない無線通信といえばBluetoothになるが、その通信距離は大規模なIoTオペレーションには不足している。LPWAの場合は最大5マイルまで届くが、Bluetoothの場合は100m程である。複数の町や現場、工場にまたがるIoTインフラには不適切だ。

限られた予算内で将来への手を打つ

どの業界や都市においてもIoTを導入するうえで、その「コスト」について考慮しなければならない。バッテリー寿命とデバイスの長期使用のメリットについて触れたが、コスト面での利点はもう一つある。

LPWAネットワークの方が、電波環境をずっと安価に整えることができる点だ。LPWAの発振器やモデムは$5以下だが、これがセルラー網の場合だと$15-$25ほどする。モジュール単位でこれだけ節約できることは、大規模な工業/社会用途にIoTを導入するうえで大いに魅力的なことだと言える。

LPWAネットワークとプロトコルは、IoTインフラでゼロから生まれたことやモニタリングが念頭に置かれて作られていることから、工業/社会用途のニーズに応えられるものとなっている。これから作られる工業や街にとっては、LoRa Allianceのシステムの方に利があると考えるかもしれない。だが、都市がすでに携帯網を使ったセンサーを導入しており、LPWAへの移行を考えているのだとしたら、その既存のIoTセンサーや設備とやりとりできるLPWAインフラを作った企業の選択を考慮するだろう。やらなければいけないことといえば、プロトコルを利用するためのライセンス料のみだからだ。

こういったIoTインフラの展開において、広いカバー範囲は必要要件になりつつある。LPWAはIoTネットワークの一種に過ぎないのだが、Machina Researchは2023年までにLPWAのコネクションは30億を超えると予測している。もしそれが正しいのなら、LPWAは広域M2Mコネクティビティを担う主要な技術となる。

IoTとLPWAを受け入れる工業や都市は、将来この2つの技術が互いに素晴らしく相性がいいものだということを知ることになるだろう。

著者:Syed Zaeem Hosain, Chief Technology Officer, Aeris

SYED HOSAIN
[原文4]