米国のドナルド・トランプ新大統領が、金正恩政権の崩壊を念頭に置きながら北朝鮮に対して強硬な政策を打ち出す展望が明らかになってきた。

 トランプ氏は1月2日、ツイッターで「北朝鮮は、アメリカに到達する核兵器の開発の最終段階にあると言うが、そんなことは起きない」とコメントした。

 その前日の1日に、北朝鮮の金正恩労働党委員長が演説し、北朝鮮が核強国になったと主張した。金正恩委員長は演説で、米国本土まで届く「大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験の準備が最終段階に入った」とも述べていた。トランプ氏のツイートはそれを受けての反応だった。

 トランプ氏はこの2日のツイートで中国の対北朝鮮政策も激しく非難した。「中国は一方的な貿易で米国から巨額の金と富を吸い上げているが、北朝鮮をめぐっては米国に協力していない」という。

北朝鮮を封じ込めるために「中国にも圧力」

 トランプ氏の北朝鮮に対する発言をさかのぼると、金正恩政権の核兵器や長距離ミサイルなどの開発を正面から批判し、開発を阻止するために金政権を崩壊させるシナリオさえも検討するという強硬な姿勢が浮かび上がる。

 2016年1月に北朝鮮が核実験を強行した際には、トランプ氏はオバマ政権の北朝鮮に対する「戦略的忍耐」政策を非難し、金正恩氏を「マニアックだ」(=常軌を逸している)と一刀両断にした。

 また同年5月には、「中国にも圧力をかけて、北朝鮮の核兵器開発を止めさせる。なぜなら、米国は中国に強い圧力をかけられる立場にあるからだ」と発言した。トランプ氏は、北朝鮮のあり方を根本から変えさせるには中国との対決も辞さないという覚悟を見せた。それだけ北朝鮮の存在を問題視、敵視しているということだ。

 トランプ氏のこうした強硬な北朝鮮政策は、選挙キャンペーン時の外交・防衛の政策顧問、ジェームズ・ウールジー元CIA長官やアレックス・グレイ前下院軍事委員会補佐官といった対北強硬派により支えられ形作られてきた。ウールジー氏は北朝鮮の核開発阻止には拠点爆撃が唯一の実効的な方法だと主張してきたことでも知られる。

米国の議会や政府が金政権崩壊を視野に

 米国では、共和党多数の連邦議会だけでなく、任期終了を迎えたオバマ政権までが金正恩政権崩壊の可能性を考慮するようになっている。

 トランプ氏当選後の2016年11月末、米国連邦議会上下両院の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」が2016年度の年次報告書を公表した。その中で、米国の議会や政府が金正恩政権崩壊は現実に起こり得ると認識していることが明らかにされたのだ。

 報告書には以下のような趣旨の記述があった。

・米国当局は北朝鮮の金正恩政権が複数の条件下で崩壊する可能性があるとみて、政権崩壊の際に北朝鮮へ介入する準備に着手した。

・米国の政府も議会も、金正恩政権崩壊の際に北朝鮮に介入するのは米国のほかに韓国および中国だとみている。中国当局には事前協議を申し入れてきたが、中国政府はそれにまだ応じていない。

・中国は北朝鮮の対外貿易額の91%を占め、エネルギーの供給国としても北朝鮮の生殺与奪の権を握っている。だが、金正恩政権を危機に追い込むことはためらっている。

・中国が金政権の崩壊を避けたがっているのは、北朝鮮領内に米韓軍が直接駐在する可能性と朝鮮半島全体の不安定化を懸念していることが主な理由である。だが、金政権がこのまま存続すると朝鮮半島はますます不安定化し、危機を深めることになる。

強硬な対北朝鮮政策を進めるトランプ新政権

 トランプ氏は、議会で強硬策を主唱する共和党議員たちとのつながりが深く、大統領選ではオバマ政権の「戦略的忍耐」という朝鮮政策を激しく非難してきた。そのトランプ氏が大統領に就任したら、以上の報告書の内容を基に、金政権崩壊を視野に入れながら強硬な対北朝鮮政策を進めることはほぼ間違いないとみられる。

 実際に、前出のアレックス・グレイ前下院軍事委員会補佐官は、「トランプ氏自身の考え」として、新政権が「北朝鮮の政権変更(レジームチェンジ)」を含む対北朝鮮政策をとることを明らかにしている。

 トランプ新政権のこうした北朝鮮との対決の構えは、当然ながら日本の安全保障にも激動をもたらすこととなる。

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筆者:古森 義久