声かけがぎっくり腰を防ぐ(shutterstock.com)

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 どっこいしょ――。椅子に座るときや立ち上がるとき、重いモノを抱えたり、運んだりするとき、ついつい口から出てしまうこのかけ声。

 無意識に出るかけ声は、重いモノを抱えるときの、ちょっとしたコツだ。今回は、「どっこいしょ」が医学的にどのような効果をもたらすのかを解説したい。

 ぎっくり腰になったり、腰を痛めるケースで多いのは、無意識での動作の最中だ。これには、脳のメカニズムが関係している。

 私たちは体を動かすとき、無意識に脳が「これから体を動かすぞ」という指令を出して準備をしている。

無意識の「準備」のアテが外れてぎっくり腰に

 体が動く前に、関連する筋肉がその直前に反応して準備をしている。これを専門用語で「フィードフォワード制御」と呼ぶ。

 たとえば、階段を降りていて、最後の一段があると思っていて実はなかったとき......。虚をつかれて「ガクッ」となって踏み外しそうになったことはないだろうか?

 脳では「階段がもう一段ある」という無意識の「準備」をしていたところ、アテが外れてしまい体をうまく反応できず、踏み外しそうになってしまうのだ。

 このことは、ぎっくり腰にも当てはまる。ぎっくり腰は、重いものを抱えすぎて発症するよりも、予期せぬ何気ない動作のなかに潜んでいることが多い。先ほどの「準備」が外れた状態だ。

 我々が重いものを抱えるとき、持つときには、「よし、これから重いものを持つぞ」と、声には出さずとも脳内ではそのようにイメージしている。それに対応して脳が指令を出して、体にも準備をさせるのだ。
自分自身に<声をかける>

 それを踏まえて、「どっこいしょ」の効果について再考すると、かけ声は「これから体を動かしますよ」という自分自身への合図であり、スイッチになのだ。

 自分自身に<声をかける>ことで、体が動く準備を無意識にしている。よって、声かけをすることによってぎっくり腰などのケガを防ぐ効果につながるのである。逆にこれを怠ると、どんなに筋力がある人でもぎっくり腰になることがある。

 余談だが、空港で見かける、荷物に貼られた「Heavy(重い)」のシール(タグ)。あれは荷物を運ぶ従業員のためだ。

 これは「この荷物は重いから気をつけて」という注意である。先ほど説明したように、このシールを目にすることで「重い荷物をこれから運ぶ」という準備を体に促すのだ。

 つまり、荷物を持ち上げるために脳と身体が準備をする<かけ声>の役目も担っている。

 見た目は同じようなスーツケースでも中身の重さはそれぞれ違う。このシールがなければ、運ぶ前、抱える前に脳が準備ができない、つまり「フィードフォワード制御」が働きづらくなる。これがケガの原因のひとつになる可能性がある。

 「どっこいしょ」をはじめとする<かけ声>には、このような役目を秘めている。人前でかけ声を出すのは気恥ずかしく感じるかもしれないが、せめて心の中だけでも、自身に<声をかけて>準備をしよう。これが、ぎっくり腰を防ぐコツのひとつである。


三木貴弘(みき・たかひろ)
理学療法士。日本で理学療法士として勤務した後、豪・Curtin大学に留学。オーストラリアで最新の医療、理学療法を学ぶ。2014年に帰国し、東京の医療機関に理学療法士として勤務。現在は札幌市の整形外科専門の医療機関に勤務。その傍ら、一般の人に対しても正しい医療知識をわかりやすく伝えるために執筆活動にも力を入れている。執筆依頼は、"Contact.mikitaka@gmail.com"まで。
 
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