撮影が厳しかったステージショー

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 カンボジアの首都プノンペンにあるレストランでは中国語が飛び交い店内は盛り上がっていた。ここは、プノンペンを南北に貫く幹線路モニボン通りにある北朝鮮レストラン(以下、北レス)「平壌レストラン」だ。大通りに面しているため、タクシーやトゥクトゥクの運転手なら誰でも知る場所だ。11月末の国連による北朝鮮に対する新たな制裁が決議された後も営業していた。

 カンボジアと北朝鮮の関係は良好で、シアヌーク前国王がポル・ポト政権(クメール・ルージュ)誕生前に平壌へ亡命していた歴史もある。経済や安全保障面での依存という歪な関係の中国と違い、カンボジアと北朝鮮は、元首同士の信頼が深い関係と言える。

 11月30日に国連安全保障理事会で決議された北朝鮮に対する新たな制裁の18項目目には、

 ”全ての加盟国に対し、北朝鮮が自国の領土内に所有・借用する不動産を外交活動や領事活動以外の目的で使用することを禁止することを決定する。”(参照:「国際連合安全保障理事会決議第2321号和訳」※pdf)

 と記載されている。上記内容を文面通りに解釈すれば、アジア中にある北レスは、営業できなくなるはずだ。しかし、新たな制裁決議後もカンボジアはもちろん、中国、タイ、ベトナムなどの北レスは営業を続けている。

 なぜ営業を続けることができるのだろうか。その理由は、各国の北レスは北朝鮮独資ではなく、現地企業との合弁で営業されているからだ。そのため、営業許可や賃貸契約などは現地パートナー名で認められている。つまり、契約上の運営者は現地ローカル企業となり制裁内容に抵触していないと認識されているからだ。

 北朝鮮はかなり前から国連など国際的な締め付けが強まることを予想して抜け道となるような対策を練ってきたフシがあり用意周到に準備をしてきた結果なのだ。

 プノンペンには北レスなど北朝鮮関連の飲食店が2、3店舗ほど確認されている。平屋の平壌レストランは、円卓などで80席ほどあり、訪れた日は平日にもかかかわらず8割ほど埋まっていた。興味深いことにお客の7割は中国人団体客で占められおり、他には白人やアジア系の客などが飲食していた。

 午後7時からは北レス名物のステージショーが20分ほどあり中国の北レスと同じような中国語の歌も披露された。一方、ショーへ出演しない北朝鮮女性スタッフが客へ目を光らせており、スマートフォンをステージへ向けた瞬間に飛んできて注意していた。ある若い中国人女性は何度も注意され店側と揉めていた。そんな光景も中国と似ている。

 北レスでの撮影は禁止という店が多い。以前、撮影が緩くなった時期もあるが、今年4月、中国での集団脱走事件以降、監視が強化されたのか撮影が厳しくなり、スタッフとの雑談も減った印象がある。

 メニューは各国で似たような感じだが、看板メニューである平壌冷麺は7ドル(約820円)。北朝鮮ビール「大同江ビール」は置いていない。予算は1人20ドル(約2350円)くらいと中国の北レスよりやや高い。

◆朴槿恵スキャンダルで北レスも復調

 そんな北レスを巡る環境は今年一変した。4月に中国の北レスから前代未聞の集団脱走、韓国入国と韓国が発表。それ以降も韓国発で北レスが何店閉店したなど苦戦を伝える発表を相次いで発するなど韓国は3月に決議された国連制裁を積極的に履行した成果だと強調することで朴槿恵政権への支持獲得に利用していた。

 しかし、朴大統領のスキャンダルで、実は、朴大統領の北朝鮮に対する強い態度や言動は、崔順実容疑者一族による入れ知恵で、さしたる根拠がないとの疑惑が持ち上がり大きくトーンダウン。しかもその前の今年7月ごろからは、韓国が閉店続きだと主張してきた北レスに復活の動きが見られ、バンコク(タイ)、大連(中国)、丹東(中国)などで新店舗がオープンしているのだ。

◆減った韓国人客に変わる中国人客

 15年以上も北レスへ通い続けるウォッチャーは、「現地国の発展により飲食店のレベルも上がり北レスモデルが飽きられただけで、価格や味、サービス内容の見直しをする単なる転換期への差し掛かりであって韓国の主張は見当違いでは?」と指摘する。

 プノンペンの平壌レストランにいた中国人客に話を聞くと、彼らは、十数人での湖南省からのビジネス視察ツアーだそうだ。「なぜ北レスへ来たのか?」と尋ねると、中国語が通じるからという。「地元の街にも北レスがあるのでは?」と重ねて尋ねると、彼の拠点の街には北レスはないとのことだった。

 かつて確かに韓国が主張してきたように韓国人客が北レスのメイン客である時代が続いた。しかし、今はアジア中へ盛んに進出する中国人がメイン客となりつつあり、韓国人客が減っても北レス経営へのダメージには必ずしもならない状態が生まれつつある。

<取材・文・撮影/中野鷹>