子供がいる家族が「完成形」とは限らない【山本ゆり×こだま対談】

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 その衝撃的なタイトルと、ひとりの女性の切実な半生を描いた中身とのギャップで、来年1月18日の発売前から大きな話題を呼んでいる私小説『夫のちんぽが入らない』著者のこだまさん。

 そして、料理ブロガーとして人気を博しながら、家族や友達との愉快な毎日を描いたブログも評判となり、エッセイ集『syunkon日記 スターバックスで普通のコーヒーを頼む人を尊敬する件』が好評発売中の山本ゆりさん。

 一見、性格も作風もまったく違う2人には、“普通”の夫婦、家族でいることに苦しんでいたという共通の悩みがありました。

◆レシピブロガーでも悩まされる夫の好き嫌い

――こだまさんは、実は以前から山本さんのレシピ本『syunkonカフェごはん』を持っていて、料理の参考にされていたとか?

こだま:そうなんですよ! 今回、対談のお話をいただいて「聞いたことのあるお名前だな……」と思っていたら、うちの本棚にあったレシピ本の著者だったのでびっくりしたんです。

山本:ご存知でいてくださったとは、恐縮です。

こだま:でも、申し訳ないことに最近は全然料理をしてないんですよ。というのも、この春に引っ越した家がとても古くて、「カビや排水のにおいがするから、この家では料理しないでほしい」と夫に頼まれているんです。「ここで作ったものは絶対食べないから」って。

山本:え、じゃあどうされているんですか?

こだま:春からはずっと外でお惣菜を買ってます。主婦なのにずっと家にいてすることがないというのが今はつらいですね。夫はこだわりが強くで、一度嫌だと思ったことは曲げないので。

山本:そうなんですね。うちの夫も嫌いな食べ物が多くて、レシピ本の料理も家では作らないものが多いです。一度、夫が嫌いな大根おろしを生地に混ぜて、チヂミのように焼いたものを出したら食べてくれたんですよ。「それ、実は大根おろしやで」と言ったら、「そうなん!? これやったらいけるわ!」じゃなくて、「大根おろしを食べさせるなんて……」とけっこう本気で怒っていて(笑)。

 味とかじゃなくて存在が嫌いなん!? どういうことやねんと思って、それからはがんばって食べさせようと思うのはやめました。

こだま:これだけお料理ができる山本さんでもそうなんですね。うちの夫は「カブトムシみたいだから」という理由でナスが嫌いで、旅先の旅館でナスが出てきたときに、「これは違うよ」とだまして食べさせたんですけど、20年前のことなのにいまだに恨み言を言われます。それ以来、私の言うことをあまり信用しなくなりました。

山本:お互い、夫の好き嫌いには苦労してますね。

◆“普通”の母性を抱けないことに悩んでいた

――こだまさんは本の中で、「夫のちんぽが入らない」ことや、それによって子供ができないことなどで、世間から肩身の狭さを味わったと書いています。逆に、山本さんは妊娠や子育てを経験したことで、かえって“普通”や“当たり前”の押し付けを感じたことはありますか?

山本:周りというより、私自身が自分で「母親ならこうあるべき」という“普通”になれないことに悩んでいましたね。というのも私、そもそも新生児を見慣れていなかったこともあって、子供が生まれたときに全然かわいいと思えなかったんですよ。それよりも、こんな小さい生き物を死なせずに生かしておけるだろうか、という恐ろしさのほうが勝ってしまって。

こだま:ああ、怖いですよね……。

山本:でも、LINEでもメールでも、友達のお母さんからはみんな「生まれた瞬間からかわいくて天使みたいだった」みたいな声しか聞こえてこない。自分はそんな風に思えなかったので、母性が欠けているのかと病院でひとり泣いてました。こだまさん、本の中で“女として生まれ、ベルトコンベアに乗せられた私は、最後の最後の検品で「不可」の箱へ弾かれたような思いがした”って書いてらしたじゃないですか。