編集者/ライターの池田園子が、週末起業家や個人事業主、経営者など、さまざまなスタイルで起業している女性にインタビューする連載です。

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年代にかかわらず、不妊に悩む人が少なくない昨今。10月に発売されたコミックエッセイが話題を集めました。「自分は不妊や不妊治療とは関係がないと思っていたけれど、そこに描かれていたのは“そうだったかもしれない自分”だった」といった感想を寄せる人も。そう、誰もが不妊とは無縁、とはいえないのです。

著者はイラストレーターの佐木ひな子さん。親しみやすく、かわいらしいタッチのイラストで、自身が39歳のときに始めた不妊治療の様子がていねいに綴られています。書籍発売によって、イラストレーターの枠を飛び越え、活動の領域を広げた佐木さん。今回は、そんな佐木さんの起業ストーリーを覗いてみましょう。

高校生のとき、漫画家になる夢を一度あきらめた

Q. イラストレーターになったきっかけはなんでしたか?

A. 物心つくころから絵を描くのが大好きで、将来の夢は漫画家だったんです。でも、コンテストへ応募するために、いざ描いてみたところ、全身のバランスが悪かったり、背景をうまく描けなかったり。漫画家を目指すのは無理かもしれないと気づきました。同時期に親からの反対にもあい、長年の夢を断念したんです。

高校卒業後は事務員として、一般企業に就職するという堅実な道を選択したものの、相変わらずイラストを描くのは大好きでした。アニメもマンガも大好きだったので、事務員の職を離れ、バイトを転々とするうちに、休憩時間に描いていたイラストを評価してもらったんです。その後、フリーペーパーのカット描きを依頼してもらえるようになり、そこからイラストレーターにのキャリアがスタートしています。

自分だけでは成し得なかった作品ができるとうれしい

Q. 大好きな「絵を描くこと」を仕事にされています。働くなかで喜びややりがいを感じる瞬間は、どんなときですか?

A. クライアントの社内で使われるイラストを描くのが、現在の私の主な仕事です。クライアントの担当者と話を進めながら、希望に沿う絵が描けるよう、工夫したり日々練習したりするうちに、自分ひとりでは思いつかなかったものが完成するとうれしいですね。

クライアントから喜んでいただけたときも、この仕事をやっていてよかったな、と心から思います。これは母親になってから、より一層感じるようになったことですが、リピートしていただけると、自分が社会から必要とされている気がして、喜びを感じます。

自分にできること・できないことを客観的に知ることが大事

Q. 一方で、フリーランスのイラストレーターとして活動するなかで大変だと思うのは、どんなことですか?

A. 「とりあえずこんな感じの絵がほしい」とざっくりな依頼をいただき、ラフ案をお渡ししたところ、「こういうテイストじゃないんだよね〜」と言われたことがあります。当時は焦りましたね。

クライアントが希望するテイストに、できる限り近づける努力はしますが、もともとテイストがカッチリと決まっていて、私の描くものとかけ離れている場合は、お断りするしかありません。

納期は決まっていますから、なるべく早めにできる・できないの決定を下す必要があります。自分を客観視して、自分にできること・できないことを知っておくのが、一番大変なことかもしれませんね。

書籍化のきっかけは地道に続けていたブログ

Q. 日々企業からイラストの依頼を受けるなか、コミックエッセイ『ひなこの39歳から始める不妊治療日記』を出版されます。普段のお仕事とはやや毛色の違う、ご自身のことを赤裸々に綴られたものですが、出版にいたったきっかけはなんでしたか?

A. 昔、不妊治療をおこなっていて、何度もくじけそうになって、もうダメかもと思ったとき、こんなことを考えていたんです。

「赤ちゃんができてもできなくても、これまで治療の軌跡を残さなくちゃダメだ。きっと私と同じような不安を持つ人も、同じようにつらくてくじけそうになる人もいる。だって、Web上で私自身、こんなにいろいろと情報を調べているわけだから」

時間ができたときにブログに描き残そうと決めていました。ブログ開設前は自分がつけていた日記をそのまま出す予定でしたが、文字だけだと感情が伝わりにくいと思い、Webマンガとして公開することにしたんです。

ブログをコツコツと続けるうちに、それが編集者さんの目に留まって、書籍化の依頼をいただき『ひなこの39歳から始める不妊治療日記』出版にいたります。

不妊治療に悩んでいる人の心を楽にしたい

Q. 『ひなこの39歳から始める不妊治療日記』や今後の仕事を通じて、どんなことを伝えていきたいですか?

A. 私は4年間に及ぶ不妊治療中、つらいことや不安なことと向き合っていて、自分を嫌いになってしまった時期があります。でも、振り返ってみると、さんざんもがいて苦しむなかで、いろいろな感情の自分を認めてあげなくては、という教訓も得ました。

不妊治療のSNSを覗くと自分と同じように葛藤する人は多かったです。不妊治療のことを綴るブログでは「私の日記みたい!」と錯覚するくらい、自分と近い状況にある人もたくさん見かけました。

そういう意味で、私自身の不妊治療日記は1例ではありますが、もしかすると同じ状況の人には有益な情報があるかもしれないですよね。だから、今現在、治療をがんばっている人の抱える不安やつらい気持ちを和らげたい。

不妊治療日記を描くのは私のライフワークだと思っていますから、書籍に収まりきれなかったことを重点的に、ブログでこれからも発信していきたい、と思っています。

▽ 佐木ひな子(さき ひなこ)さん

イラストレーター。2016年にコミックエッセイ『ひなこの39歳から始める不妊治療日記』(彩図社)を出版。一児の母。