土佐のお菓子「ケンピ」は物騒なほど堅い【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」】

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【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」 Vol.2 高知「ケンピ」】

 さて次回からテーマとなる銘菓は編集部側から送られてくる、ということになったのだが、その際、私の好み的なものに関しては一切質問がなかった。そこは最初から度外視というわけである。

 好き嫌いはあまりない方だが、あからさまなゲテモノは苦手である、臓物的なものを原型で送るのはやめろ、と言っておけば良かったかもしれない。

 ほどなくして編集部から荷物が届いたわけだが、幸い、袋から謎の液体がしみだしているとか、開けた途端スプリンクラーが作動したということもなかった。

◆堅い。そしてパッケージは坂本龍馬である

 では何が送られてきたかというと、結論から言うと堅いものが送られてきた。

 前回の最後「多分堅いものが送られてくるだろう」と書いたらマジで堅いものを送ってきたのである。底抜けの素直さだ。おそらく京都で茶づけを出されても笑顔で完食して6時間は居座るタイプだ。

 ただ当方も堅い食べ物が嫌いなわけではない。ただ顎関節症で口が2センチしか開かないだけだ。嗜好と体質というのは必ずしも一致しないのである。

 それでその堅いものが何かというと「ケンピ」である。

 私は地元どころか部屋からもろくに出ないので、各地の名物などには全く明るくないし、当然この菓子も初見であった。しかし、このケンピは、一目でどこの銘菓かわかった、高知県である。

 何故なら、パッケージに思いっきり坂本龍馬の写真が使われているからだ。これが誰かわからないとなると、いよいよだが、ご親切にも「土佐銘菓」とも書かれている。もちろん漢字が読めないという恐れもあるし、読めたとしてもそのぐらいのレベルになると土佐が何県かなんてわかるはずもない。

 しかし、坂本龍馬を知らなくても、漢字なんか読めなくても、箱を開けて中の菓子を食うことはできる、だから食い物というのは尊いのだ。

◆そんなに美味しくないところがいい

「ケンピ」と言うと芋けんぴを想像するかもしれないが、このケンピの原材料は小麦粉で、見ため的には、シンプルなスティック型のビスケットだ。

 しかし、その堅さは、スーパーなどで売れているそれの比ではない。何の予備知識もなく一口目でかみ砕けたという奴は猛禽類か何かだろう。

 これは前歯でかみ続けると、最悪の事態が想定されるので、もう最初から奥歯でいった方がいい。奥歯で砕いてから、食うという感じだ。

 食い物の話をしているはずなのに「まず足を狙って、動きを封じてからボコる」みたいな物騒な話になってきた。

 味はというと、実に素朴な甘味である。率直に言うとすごく美味いわけではない。

 だが、このすごく美味いわけではないというのはこの場合美点である。

 とおりもんなど、旨みが過剰な菓子は「なんだこれ、うめえ」と次から次へと食ってしまうため、すぐになくなってしまう、その間大体30秒ぐらいだ(もちろん一箱にかかる時間)。

 別にそれが一心不乱にとおりもんを食う時間なら良いが、例えば原稿中、つまみとしての菓子としては、30秒でなくなるのは困る、原稿を45秒ぐらいで終わらせなければならなくなる。

 その点このケンピはいい。美味さも控えめでさらに堅い、すごく長持ちなのだ。それにこういう菓子こそ長く愛されるというか「なんとなく買っちゃう」ものなのだ。前に福岡に行った時、とおりもんではなく、堅パンを買ってしまったのも、そんなに美味いわけではないとわかっているが、見たらなんとなく買っちゃうからなのである。

◆うちが元祖だ、パクリは許さない、という迫力

 このように一見、昔から愛される素朴なお菓子「けんぴ」だが、やはり土佐というか幕末ロックな部分が随所に見受けられる。