『写真:AFLO』

 昨年は男女アベック優勝、そして男子の優勝回数は全国最多となった世羅高校で、陸上競技部の監督をしているのが岩本真弥氏だ。岩本氏が、駅伝チームの強豪「中国電力」「青学大」「世羅高」に共通する指導方法を指摘する。

 世羅高校卒業生で指導者として陸上界に貢献している方が多数いることをみなさんはご存知だろうか。今の生徒たちの活躍はもちろん嬉しいが、OBたちの活躍も私には嬉しく感じられる。

 その筆頭格は現在も中国電力陸上部を率いておられる坂口泰監督と、今やテレビを通じて一般の方々にまで広くその名前が知られるようになった青山学院大学陸上部の原晋監督であろう。

 2人とも世羅高校陸上部のOBであり、坂口監督は私の4つ先輩、原監督に至っては私の1学年下で2年間一緒に汗を流した仲間である。

 坂口監督は1989年、中国電力陸上部の創部にコーチとして参加し、3年後に監督に就任。ゼロからチームを作り上げ、2004年の全日本実業団駅伝(通称・ニューイヤー駅伝)で初優勝、2007年には2度目の優勝を果たすという快挙を成し遂げた。

 中国電力は2000年代に黄金時代を築き、油谷繁、尾形剛、佐藤敦之などのオリンピック選手も輩出した。

 それを成し遂げたのは坂口監督の力であり、今回のリオオリンピックでの惨敗を受けて、再度日本陸連の男子マラソン部長に就任された。

 一方の原監督の活躍はすでに多くのメディアで語られている通りだ。2004年に青山学院大学陸上部の監督に就任すると、2009年にチームを33年ぶりとなる箱根駅伝出場に導く。

 そして昨年の第91回大会では初となる総合優勝を達成、その勢いのまま今年も連覇、それも今度は全区間トップを守っての完全優勝である(39年ぶりの偉業!)。

 その坂口監督と原監督には興味深い共通項がいくつもある。

 坂口監督が中国電力陸上部の立ち上げに参加したとき、原監督が選手として在籍していたこと。お二方ともほぼゼロの状態からチームを作り上げ、坂口監督は12年、原監督は11年と双方10年近い年月をかけて優勝に辿り着いたこと……など不思議と重なり合う部分がある。

 しかしお二方の共通点はそれだけではない。僭越ながらそこに私も加わらせてもらうなら、私たち3人の指導法にはどこか似通ったところがあるように思うのだ。

 選手の自主性を重んじること、選手自身に考えることを求めること、生活態度や人間性を重視すること、選手を型にはめず個々の力を伸ばすこと……つまり選手を厳しく管理して精神論をふりかざす「古い陸上体質」とは真逆のスタイル。これはただの偶然だろうか?

 私は偶然だとは思わない。ある意味、私たちは世羅のDNAをそれぞれが引き継ぎ、独自のやり方で発展させていった結果、今のスタイルに行き着いたのだ。それが高校/大学/社会人という異なるカテゴリーをすべて制覇し、陸上界の異端の潮流になろうとしている。

<『駅伝日本一、世羅高校に学ぶ「脱管理」のチームづくり』(光文社新書)より>