(左から)「蒸し雑煮」、「うちちがえ雑煮」、「常陸太田雑煮」

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■全国に100種類以上あるお雑煮

正月のご馳走といえば、お節料理とお雑煮。

お節料理は、もともと季節の変わり目の5つの節句(五節句)に神様に供えたご馳走のことを指した。節句の中でも一番重要な正月のみにその風習が残った形だが、料理は総じて縁起の良い“ご馳走”であれば、そう細かいルールはない。そのためか、昨今では家でつくらず、デパートや贔屓の飲食店で好みのお節料理を買う家庭も増えている。

転じてお雑煮はといえば、いたって“普通”なものであるから家でつくる、と考える家庭がほとんどだ。ところが、雑煮好きが高じて起業までした株式会社「お雑煮やさん」代表の粕谷浩子氏によれば、日本全国に代表的な雑煮だけで100種類以上もあるという。

「大きくポイントをわけると、お餅の形の違い、醤油味か味噌味か、だしを何でとるか、そして具材の違いがあります。なぜそのようなお雑煮が食べられているのかにはその土地の歴史的、地形的な背景が必ずあります。さらに、そこに各家庭の家系的な背景が加わり、驚くほどの多様性があるのです」

関東近郊に住んでいれば、角餅を焼いて、鰹と昆布だしで醤油とみりんで味をつけた汁に、鶏肉や小松菜を入れた江戸風雑煮がベースの家庭が多いだろう。このタイプは日本でも一番広範囲にわたって食べられているため、この雑煮が“普通”な人にとっては、ほかに100種類もあるとは信じられないかもしれない。

そこで、365日雑煮を食べている粕谷氏でも「ひっくり返りそうなぐらい驚いた」というお雑煮を紹介しよう。まずは、福岡県朝倉市、筑前町、東峰村の一部で食べられている「蒸し雑煮」。これは、茶碗蒸しの中に丸餅を入れてそのまま蒸したような雑煮。食べてみれば、茶碗蒸しのだしの利いた卵と餅がなんの違和感もなく、普通においしく頂ける。

次は徳島県祖谷地区の「うちちがえ雑煮」。なんとこれには餅が入っていない。代わりに、この地区特産の岩豆腐(ものすごく固い木綿豆腐)が十字に組まれてどん、と乗っかっている。インパクトもすごいが、実はヘルシーなのでもしかしたら今後、流行るかもしれない。

最後に、茨城県の「常陸太田雑煮」。豆腐をすりつぶし、砂糖を加えた真っ白な汁に餅が浮かんでいる。甘いが白味噌とだしが利いていて、なんともほっとする味。粕谷氏のお気に入りだそうだ。

■家庭の味、雑煮はみんな違ってみんないい

さて、ここに挙げた雑煮ほど変わっていなくても、各家庭の雑煮にはさまざまなバリエーションがある。基本的に年一度しか食べられず、家族で食べるものなのでその多様性が外で語られることはめったにない。だからこそ、皆がそれぞれその雑煮が“普通”だと考えている。そこが雑煮の魅力だ。雑煮は、みんな違ってみんないい、の代表だ。それぞれの家庭がそれぞれの味を守りつつも、環境にあわせて変化させていくものなのだ。

ただし問題は、結婚した時だ。相手が全く違う雑煮を食べて育ってきた場合、どうするか。たとえば江戸風雑煮の男性が、蒸し雑煮で育った女性と結婚したら……。

「新婚家庭で、どちらの育った環境の雑煮を食べるか喧嘩になった、という話はよく聞きますよ。結果は、そうですねえ〜……」(粕谷氏)

時を重ね、正月にどちらの出身地の雑煮を食べているのかを聞けば、その夫婦の力関係がおのずと伺い知れるというわけだ。

(dancyu企画編集部 杉下春子=文 大塚七恵写真事務所=写真)