「日本に旅すれば、食べ物で飽きることはないだろう」海外の観光ガイドブックにはこんな言葉も並ぶほど、美食大国として知られる日本。食にうるさいのは今に始まったことではない。江戸時代に発行され、当時バカ売れとなった料理本のレシピがこのほど「クックパッド江戸ご飯」で公開となった。

江戸で花咲く美食日本

今回、現代語訳や作り方が紹介されたのは、当時の甘味「冷やし卵羊羹」など20点。「冷やし卵羊羹」は黒糖の甘さがほんのりと際立つ和スーツ。原本には作り方のほか、どんな器に盛りつければよいかなどテーブルコーディネート的な要素も書かれていたことから、食文化が華やかに開花していたことが伺える。また、別の文献には、江戸時代の女性たちが大福やだんごについて話していたことも残されており、今と変わらない食への関心の高さが見えてくる。

『江戸料理レシピデータセット』(CODH制作)

卵料理を現代のレシピに復元

レシピのもととなったのは国立情報学研究所と国文学研究資料館が共同で研究、情報を公開した「江戸料理レシピデータセット」。歴史的な資料をデータ化して一般の人にも利用してもらおうと、これまでも『源氏物語』などさまざまな文献をデータ化し、閲覧できるようにしてきた。古典に興味がある人だけでなく、広く一般に利用されるデータを目指して作られたのが今回のセット。

江戸時代後期のレシピ本『万宝料理秘密箱(まんぼうりょうりひみつばこ)』の中に収められた『卵百珍』から実際に作れそうなものを紹介している。くずし字で書かれた原本から現代仮名遣いに直して翻訳、現代の調理器具、調理法にアレンジしたレシピ5点の他、15点の現代語訳レシピがデータセットとして公開になっている。

原本のレシピ手順はそれほど詳しくなく、数行で簡単に書かれたものがほとんど。だが「土用見舞いに最適」や、「刺身を盛る器がよい」など用途や盛り付けに関する表記もあり、ただ食べるだけのものでなく、目でも楽しめ、人を喜ばせる品として、料理が扱われていたことがわかる。

「豆腐百珍がオススメです」と話す山本副センター長

国文学研究資料館古典籍共同研究事業センターの山本和明副センター長は『卵百珍』について「卵だけで100個ものレシピを思いつくこと自体がすごいことです。当時の卵は高価でしたから、これだけ作らせることができたということは、本の作者は身分もそれなりの人だったのでしょう。また、流通の面から考えても面白いです。街中で卵がとれるとは思えませんから、流通網も確立されていたと予想できます」と話す。

豆腐の“ミシュラン”も!

また、同じように人気の出た文献『豆腐百珍』は各料理に「尋常品」「通品」「妙品」「絶品」など、評価が加えられ、まるで“豆腐ミシュラン”のような状態。この本が重版のベストセラーとなっていたことから、江戸時代の人々も現代人さながら「食への関心が高かったことがわかります」(山本副センター長)と分析する。こちらは現代語訳はされていないが、原本の画像データをネット上でダウンロードすることができる。

文献には「菓子」や「大福餅」の文字が見て取れる『浮世風呂』

銭湯での会話を収録した文献『浮世風呂』も面白い。文献のあちこちに、大福やゆで卵、おでんなど食べ物の名前が見て取れる。

「この文献は、食とファッションと役者についての会話が実に多いです。どこそこの〇○さんの髪型が素敵だとか、あの役者がカッコよかったとか、読み解くと当時の女性の関心ごとがよくわかります。古典籍は難しいと敬遠される方もいますが、くずし字を読むアプリの開発も進んでいますから、いろんな人に楽しんでいただけたら嬉しいですね」と山本副センター長、今後もこうした文献を順次データとして公開していくという。

まずは親しみやすいレシピから読み解いてみるのも面白い。お正月に江戸スイーツを作ってみるのもまた一興だ。

(Smart Sense 宮本)