日本国内に自動車市場に限っても、2016年には様々なニューモデルが登場しました。

運転することができなクルマの中で記憶に残るのは、スーパースポーツカーであるホンダNSXだったりもしますが、今年も「CCOTY(クリッカー・オブ・ザ・イヤー)」に投票する際に基準としたのは、「市場に与えた影響の大きさと今後の可能性」です。

言い方を変えると、数年後に「●●というトレンドを生み出したのは2016年に誕生した■■だったねぇ」と振り返ることができるようなクルマに点数(持ち点20点)を振り分けさせていただきました。

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というわけで、1位の10点を与えたのはダイハツ・ムーヴキャンバス。運転してしまうと1トン近い車重にNAエンジンを組み合わせた軽自動車というプロフィールから想像する通りの走りなのですが、そのスタイルに新提案を感じるのです。

プロモーション的には『30代の独身女性、親と同居中』というターゲットを前面に押し出していますが、そのターゲットに対してこのスタイルを提案するという理由のひとつに「現在の30代の子供時代からのカーライフを考えると(親と同居しているような背景も含め)、幼少期からスライドドアに馴染んでいる」ことがあるそうです。

日本的ミニバンの代表格として2016年にフルモデルチェンジした日産セレナも5代目で25年の歴史を持っています。たしかに30歳の人にとっては物心がついたときから家にはミニバン(スライドドア車)があったというケースも少なくないのでしょう。

スライドドアの利便性を肌で感じているユーザーにとっては、コンパクトカーであってもスライドドア車に乗りたいというニーズがある。それが、ムーヴキャンバスが生まれた理由だとすると、ミニバンブームの中で育ってきた世代がそのまま運転免許取得世代となる今後は、もっとこうしたクルマが求められるのではないでしょうか。

軽自動車に限らずコンパクトカーも含めて、パーソナルカーへのスライドドアニーズが増えてくるきっかけになる可能性を感じたことが10点を投じた理由です。

続いて6点を投じたのがスバル・インプレッサ。新世代プラットフォームによる走りの良さは著名モータージャーナリストの方々も認めるところでしょうが、6点の理由に走りの要素はありません。

このクルマのポイントは、全グレードに先進安全技術「アイサイト」と「歩行者用エアバッグ」を標準装備したことです。

この10年ほど、国産車の評価ポイント、選択基準としては燃費性能が最優先されてきた印象があります。しかし、スバルがアイサイトを全面展開することで「ぶつからない」という機能がユーザーの選択理由としてプライオリティを増してきた印象があります。

新型インプレッサが、ターボエンジンでもなく、ハイブリッドでもなく、ごくごく標準的なNAエンジンにも関わらず、すばらしいスタートダッシュを切ったことは、パワートレインに由来するパフォーマンスよりも、ぶつからないこと、ぶつかっても攻撃性を抑えることという安全性能に着目するというユーザー意識の具現化と感じるのです。

そうした安全性能を重視したクルマ選びが、トレンドに主流になりつつあるのを感じます。そのきっかけを作ったのがスバル・インプレッサだとなれば、まさに歴史に刻まれるべき一台となりそうです。

さて、ムーヴキャンバスの開発陣にインタビューしたときに、ダイハツの市場調査力の鋭さに感心させられた2016年でしたが、もう一台のニューモデルである「トール」が、「軽自動車の技術を活用したコンパクトカー」といったアピールをしたときにも時代の変化を感じさせられました。

というのも、かつては「軽自動車は生理的にイヤだからコンパクトカーを選ぶ」という嫌軽的なユーザーマインドが明らかにあり、同社のブーンのようなリッターカーは、そうした”嫌軽派ユーザー”に向けた商品企画という印象があったからです。

一方で、増税の影響もあり軽自動車のシェアが下がっているとはいえ、この10年間で乗用車全体における軽自動車比率が上がったことで、相対的に嫌軽派が減り、軽自動車をポジティブに捉えるユーザーが増えたという印象もあります。

ダイハツが「トール」において軽自動車の発展形とも捉えることができる表現を使ったのは、そうしたユーザー意識の変化を示しているのかもしれません。

トヨタではタンク/ルーミーという名前で販売されるこのクルマはトヨタ系販売網だけで3.5万台の初期受注を集めるほど評価されているのですから、まさに時代の変化を感じます。

そうした理由で、トール/タンク/ルーミー/ジャスティという兄弟車に2点を投じたのでした。

最後に1点ずつ投じたのが、日産のノートe-POWERとセレナです。この2台についてはハードウェアとしてではなく、ピーアール面での反面教師的な評価となります。

業界団体といえる自動車公正取引協議会が「完全自動運転」、「自動運転機能搭載で安全」などの文言が広告でNGワードとするよう自主的な規制を始めたというニュースもありました。

そのきっかけは、日産セレナのドライビングアシスト『プロパイロット』を、あたかも自動運転と感じさせるようなプロモーションをしたことにあるといえましょう。

たしかに自動運転というのは各メーカーが目指している技術ですし、自動車事故を低減する効果もあります。しかし、時期尚早で技術レベルが伴わない状態でのアピールは、自動運転へ懐疑的なユーザーの反発も招きますし、なによりユーザーの期待を裏切る結果になってしまう可能性もあります。

役に立つ技術であるからこそ、信頼を第一に考えてピーアールすべきという風に、業界全体が襟を正すことができたとしたら、日産がセレナ『プロパイロット』で行なったプロモーションというのは逆説的ですが、価値のあることだったと思うのです。

ハイブリッドカーであるe-POWERを「電気自動車」と分類しているのも同様で、外部充電機能を持たないシリーズハイブリッドである限りは、ほぼ排ガスを吐き出しながら走行しています。

あたかもハイブリッドカーをゼロ・エミッション車と思わせるようなアピールは、本当にゼロ・エミッションであるクルマの価値を貶めるように思えます。

はたして電動車両=電気自動車と表現できるのか、それとも走行時の排ガス有無を重視すべきか。そうした疑問を生み出し、環境技術の現状を整理するきっかけになるという点で、ノートe-POWERのピーアール手法が2016年に生まれたことには歴史的な意味があると感じたのです、もちろん逆説的な意味で。

以上の理由で「クリッカー・オブ・ザ・イヤー2016」に投票しました。その未来予想については、当たるも八卦当たらぬも八卦であります、あしからず。

(山本晋也)

【クリッカーオブザイヤー2016】マーケットの変化を実感する象徴的存在のムーヴキャンバスこそ年クルマに相応しい(http://clicccar.com/2016/12/31/431211/)