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By Philip Bond

2014年から2016年にかけて日本および日本出身の科学者がノーベル賞を獲得したことで、基礎研究の重要性を再認識する議論や報道が起こりました。すぐに結果につながらない、さもすれば「地味」な基礎研究には研究機関や国などからの予算が付きにくいという状況は日本だけでなく世界的に見ても同じ状況があるようで、アメリカでも「基礎研究にお金を使おう」という議論が起こっています。

Let’s waste more money on science - The Boston Globe

http://www.bostonglobe.com/ideas/2016/12/11/let-waste-more-money-science/afvbusk8G5T5IcrgldkmJJ/story.html

「現代物理学の父」とも呼ばれる物理学者、アルベルト・アインシュタインの科学における功績を疑う見方はほぼ存在しないと言っても過言ではありませんが、まだ相対性理論が研究段階にある時点では、その意味を正しく理解できていた人はそれほど多くありませんでした。

1913年、スイスで研究生活を送っていたアインシュタインのもとに、後に両名でノーベル賞を獲得する物理学者のマックス・プランクヴァルター・ネルンストが訪れ、母国であるドイツのベルリンに戻るように説得にあたりました。その当時にアインシュタインが取り組んでいたテーマは「一般相対性理論」で、その内容をプランクに尋ねられたアインシュタインは、「この理論が構築されたら、ニュートンの万有引力の法則に取って代わるものになるでしょう」と語ったとのこと。その話しを聞いていたプランクは、耐えかねてアインシュタインの話に割って入り、「年上の友人として言うが、私は反対だ。それを実現するのは無理だろうし、仮に実現できたとしても、誰もそれを信じることはないでしょう」と反対したそうです。

結果的に、プランクの判断は間違いであったことは言うまでもありません。1916年には一般相対性理論が発表され、その3年後の1919年に行われた皆既日食の観測では、アインシュタインが予言していた「重力レンズ効果」の存在が確認されました。とはいえ、プランクの考え方もある意味では間違いでなかったとも言えます。一般相対性理論の確立までに、アインシュタインは8年という長い年月を要しており、その中では数え切れないほどの失敗も経験しているとのこと。また、アインシュタインは1921年にノーベル物理学賞を獲得していますが、その受賞理由は一般相対性理論とはことなる「光電効果の発見」というもの。当時の物理学では相対性理論に懐疑的な見方も多かったこと、そしてユダヤ人であるアインシュタインに対する批判もあったことから、ノーベル賞委員会は受賞事由を変えたとも言われています。



By ThomasThomas

その後、相対性理論はさまざまな物理学の礎とも言えるものとなりました。相対性理論により宇宙の誕生が説明可能になったことや、今や誰もが使っているスマートフォンのGPS機能も、アインシュタインの功績なしには実現しなかったと考えられています。一方で、その重要性が広く認識されるのは1940年以降であり、それまでの約20年間は主流から一歩置かれた存在とみなされていたといいます。現代では量子力学と並んで「物理学史上の2大革命」とされる相対性理論も、最初はあまり相手にされなかったという不遇の時代を経験していたとのこと。それでもなお、アインシュタインの理論に意義を見いだす支持者がいたからこそアインシュタインは研究に必要な環境を整えることができたというわけです。

このように、現在の世の中で「常識」とされている理論の多くは、最初はあまり誰にも見向きされなかったというケースは少なくありません。さもすれば、基礎研究の分野は「すぐに結果が出ない」「何をやっているのかよくわからない」などといった評価のために軽視されることも起こりがちで、そのために研究に必要な予算を十分に得ることが容易ではないという現状も存在しています。

しかし、科学における功績の多くは、純粋な好奇心から始まったものも少なくありません。何かの目的のために行われる研究も重要なものではあるのですが、世の中の現象の原理を究明するという基礎研究は、いわば「科学の基礎体力」となるものであり、これをおろそかにするとその上に立つ研究の信頼性そのものが損なわれることにもなります。2016年のノーベル医学生理学賞を受賞した東京工業大学栄誉教授の大隅良典氏は、短期的な成果に直結しない基礎科学を追究する科学的精神の重要さと、それがなかなか許されなくなっている社会への憂いをインタビューで語っています。

「社会がゆとりを持って基礎科学を見守って」ノーベル賞の大隅良典さんは受賞会見で繰り返し訴えた

http://www.huffingtonpost.jp/2016/10/03/osumi-press-conference_n_12309182.html

背景には、政府による学術研究予算の削減が続いていることがある。

東大、筑波大、早稲田大など日本の主要11大学でつくる「学術研究懇談会」は2016年7月、国公立大学の運営費交付金と私学助成の削減が10年以上続き、「成果目標が明示的である競争的な事業補助金への移行が強まっている」と指摘。その結果、「短期的成果を求めて出口指向を強める方向の研究に過度に傾きつつある」と警鐘を鳴らしている。


アメリカでも近年、基礎研究に対する予算は削減の方向が続いており、その影響を危惧する声が物理学の世界で起こっています。さらに、2017年にはドナルド・トランプ大統領が誕生することになりますが、これまでのトランプ氏の発言や、副大統領に就任するマイク・ペンス氏の反物理学的ともとれる発言などから、はたして十分な予算が基礎研究の分野に注がれるのかは不透明な状況であると言えます。2017年は科学の世界でも注目すべき一年になると言えそうです。