生理学研究所教授・神経内科医 柿木隆介氏●神経内科医として大学病院に勤めたあと、脳の機能をより深く研究するために脳科学者となる。ロンドン大学医学部神経研究所などを経て、現職。著書に『どうでもいいことで悩まない技術』『記憶力の脳科学』など。

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人生を左右するような大きな選択で悩み、決断することで、人はどんどん成長していく。だから、考えること自体は決して悪いことではない。無理難題を押し付けられたり、予想外のことでパニックに陥ったとき、思考を整理するために「一度立ち止まる」、直感で「これだ」と思っても罠がないか「確認する」。これも重要なことだ。

問題なのは、日常的な悩みのほとんどが「時間をかけて悩んでも仕方がないこと」だということだ。それなのにすべて平等に悩んでいると、せっかくの成長チャンスがただの「ストレス」になってしまう。悩みを先延ばしするのではなく、逃げるのでもなく、進んで解決のために動き出すこと。これが悩みを「いいストレス」として成長の糧に変える唯一の方法なのだ。

とはいえ、日本人は世界的に見てもプレッシャーに弱い。そのせいで、少しでも不安があると決断できない。最近の研究で、「セロトニントランスポーター(「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンの量を調節する役割)」の遺伝子タイプが不安に関係することがわかってきた。長さによって、短いS型と長いL型にわけられ、S型が多ければ多いほど内向的で従順、不安を感じやすい性格になる。逆にL型は自主独立型で社交的、活動的になる。日本人は世界一S型の比率が高く、アメリカ人にはL型が多い。つまり、私たちは放っておけば悩み、失敗すればクヨクヨする人種だということだ。

だからこそ私たちは、自分を信じて、意識的に即決していく必要がある。もし失敗しても、「もっと経験を積もう」と前向きに考えること。後悔すると、嫌な記憶が脳に残り、次の選択で迷いが生じる。また、不安を抱えると、物事が前に進まないどころか精神的な余裕までなくしてしまう。それなら、信頼するプロに「決めてくれ」と頼んだほうがいいだろう。それくらい、人生には重要なことが少ないのだ。横暴になる必要はないが、自分を一番に信じる。結果も他人の言葉も気にしない。これが悩まない最大の方法だ。

(生理学研究所教授・神経内科医 柿木隆介 構成=大高志帆 撮影=加藤ゆき)