オバマ米大統領が大統領として最後のクリスマス休暇を過ごしている間に、中国人民解放軍海軍の空母艦隊が南西諸島ライン(中国が言うところの「第一列島線」の一部)を越えて西太平洋に進出した。

 1996年に勃発したしたいわゆる第3次台湾海峡危機の際は、中国海軍はアメリカが台湾周辺海域に派遣した2つの空母艦隊(第7空母戦闘群、第5空母戦闘群)に威圧され、全く手も足も出なかった。その姿を思い起こすと、(依然として中国空母艦隊は米海軍空母打撃群に比べると戦力的に大きく後塵を拝しているとはいえ)過去20年間における中国海洋戦力の強化ぶりには目を見張らざるを得ない。

20年前に着手した中国海軍の近代化

 1980年代半ばに臂平が推進した経済発展政策と連動して、中国共産党は臂平の片腕であった海軍司令員劉華清提督が立案した海軍戦略に基づき、人民解放軍海軍の近代化をスタートさせた。

 しかしながら、陸上戦力強化と違って海軍建設には25年はかかると言われる。そのためアメリカ空母艦隊による恫喝の前に為す術がなかった1996年当時は、中国海軍はまだ旧式艦艇・航空機を取りそろえただけの弱体海軍であった。当時と現在の戦力を比較してみよう。

【戦略原潜】

 1996年当時、中国海軍は一応核弾道ミサイルを搭載した092型戦略原潜を保有していた。しかし、原潜もミサイルも、アメリカにほんのわずかな脅威も与えられない代物であった。

 現在、すでに092型戦略原潜は退役し、094型戦略原潜4〜5隻が就役しており、さらに新鋭096型戦略原潜が開発中である。

【攻撃原潜】

 中国海軍は、戦略原潜と同じく“一応”攻撃原潜も保有していた。しかし、当時5隻運用されていた091型攻撃原潜は「騒音をまきちらして」潜航することで勇名を馳せる代物であった。そのため、原潜を保有していない海上自衛隊にとってもさしたる脅威ではなく、まして米海軍にとっては玩具のような存在だった。

 現在、091型攻撃原潜は全て退役し、093型攻撃原潜4〜6隻が就役あるいは試験運用中である。さらに新型の095型攻撃原潜も就役し追加建造中といわれている。

【水上戦闘艦】

 第3次台湾海峡危機勃発時期に中国海軍が保有していた駆逐艦17隻のうち16隻の051型駆逐艦は、当時の水準でも旧式艦であった。そして、そこそこ近代的な軍艦である052型駆逐艦1隻が、ようやく就役した。駆逐艦より小型のフリゲートも、当時中国海軍が保有していた36隻のうち30隻が旧式の053型フリゲートで、やや改良型の053H型フリゲートがようやく誕生したといった状況であった。

 現在、中国海軍から老朽駆逐艦は姿を消し、1996年当時新型艦として誕生した駆逐艦は最も旧式の駆逐艦となっている。国際水準に照らしても新型艦と見なせるものを含めて駆逐艦28〜30隻、フリゲート45隻が就役している。

【航空母艦など】

 潜水艦や主力水上戦闘艦だけでなく、小型水上戦闘艦や水陸両用戦用艦艇、それに補給艦などの補助艦艇に関しても、20年前は「多数の旧式あるいは老朽艦」という表現が当てはまる状況であった。

 それらが現在は一新されている。そして、空母運用訓練用とはいえ、航空母艦「遼寧」を運用し、2隻の新型航空母艦を建造しているのに加えて、強襲揚陸艦や揚陸輸送艦の建造も急ピッチで進められている。

【海軍航空機】

 各種艦艇と同じく、20年間での中国海軍航空戦力も大幅に近代化されている。第3次台湾海峡危機当時、中国海軍航空隊が保有していた戦闘機・戦闘攻撃機の数はおよそ700機であった。だが、全て当時の水準においても旧式あるいは老朽機であり、アメリカ空母が艦載していた100機ほどの戦闘機に全て撃墜されてしまう程度の戦力に過ぎなかった。

 また、中国海軍は爆撃機も155機ほど保有していたが、そのうちの130機は骨董品のような代物であり、残りの25機も旧式航空機だった。とてもアメリカ海軍や海上自衛隊に脅威を与えるような能力は持ち合わせていなかった。

 現在、それら全ての旧式機・老朽機は姿を消した。そして中国海軍航空隊は、航空自衛隊の戦闘機に勝るとも劣らない新鋭機を含めて、322機の戦闘機・戦闘攻撃機と50機の爆撃機を保有している。

 なお、中国空軍は海軍航空隊よりも最新鋭の戦闘機を保有しており、700機以上の新型戦闘機、300機ほどの戦闘攻撃機に加えて80機の爆撃機を運用している。

臥薪嘗胆の成果

 アメリカ海軍空母艦隊による威圧の前に惨めに屈せざるを得なかった中国海軍は、上記のごとくまさに臥薪嘗胆し、強力な海軍の建設に邁進している。

「アメリカ海軍の接近を中国沿岸域からできるだけ遠方で阻止し、中国の近海域でアメリカやその同盟国の海軍には自由な行動をさせない」という、劉華清が打ち立てた中国海軍戦略の目標を達成できるだけの戦力にはまだ到達していると言えない。だが、20年前の惨めな「闘わずして完敗した」状況に比べると、かつてはアメリカ海軍が完全に取り仕切っていた西太平洋に自前の空母艦隊を繰り出すだけの実力を手にしたことは事実である。

 過去20年間における日本の海洋戦力の推移と比較すると、(実際に戦闘を交えなければ真の実力は分からないとは言うものの)中国海洋戦力を侮るような態度は、明らかに捨て去らねばならない。

中国空母艦隊が持つ強力な攻撃力

 今回、いわゆる宮古海峡を通過して西太平洋に繰り出した中国海軍空母艦隊(空母1隻、駆逐艦3隻、フリゲート2隻、コルベット1隻、補給艦1隻)の戦闘力は以下の通りである。

・空母に艦載されるJ-15戦闘機24機(敵航空機や、敵艦を攻撃する)
・空母や水上戦闘艦に搭載される各種ヘリコプター16機(敵潜水艦を攻撃する)
・対空ミサイル244基(敵のミサイルや航空機から味方艦艇を防御する)
・対艦ミサイル52基(敵水上艦艇を攻撃する)
・対潜ミサイル16基(敵潜水艦を攻撃する)
・対地ミサイル16基(敵地上目標を攻撃する)
・魚雷32基(敵水上艦艇や潜水艦を攻撃する)
・機関砲6門

 また、海上自衛隊に視認され公表された8隻の水上艦艇以外にも、1〜2隻の攻撃原潜(魚雷、対艦ミサイルを装備)が同行していると考えられる。

 これらの装備の搭載数は、あくまで搭載可能最大数であり、フル装備で行動することは戦時でない作戦行動ではほとんど考えられない。とはいうものの、これだけ強力な攻撃力を有する艦隊が、南西諸島ラインを横切って日本周辺海域で行動するようになることは、日本にとっては大いなる軍事的脅威となることは言を待たない。

中国艦隊を心理的に圧迫する策とは

 日本としては、アメリカに縋ってアメリカ海軍が息を吹き返すのを気長に待ち、場合によってはアメリカ海軍も中国海軍に歯が立たなくなってしまうという他力本願の危険を冒すのではなく、自らの力で中国海軍空母艦隊の行動をある程度は牽制する態勢を固めなければならない。

(もっとも、日本が核武装をしない限り、中国に核恫喝されないためには核を保有する同盟国の抑止力を期待するしかない。よって自主防衛態勢の効果はあくまで限定的とならざるを得ないことは念頭に置いておくべきである。)

 どんなに強力な攻撃力を備えた中国艦隊といえども、宮古海峡を通過しなければ東シナ海と西太平洋を行き来することはできない。そして、宮古海峡の両端は日本の領域である。したがって日本側が宮古海峡両端に、中国艦隊に大いなる脅威を与える戦力を配備すれば、中国海軍艦隊が宮古海峡を通航する際には心理的な圧迫を受けざるを得なくなる。

 ただし、海上自衛隊の水上戦闘艦や潜水艦や哨戒機、それに航空自衛隊の戦闘機や警戒機などを多数急造して宮古海峡周辺の海域や空域を埋め尽くすことは、予算的にも、人員的にも、時間的にも不可能に近い。2017年からでもすぐさま実行できる現実的な防衛策は、宮古海峡の両端に強力な地対艦ミサイル部隊と防空ミサイル部隊を配備し始めることである。

宮古海峡を通航する中国艦艇を心理的に圧迫するミサイルバリア


 宮古島などにはこの種のミサイル部隊を配備することになっているが、数年後から実戦配備する、といった悠長なテンポでは話にならない。すでに中国空母艦隊が通過しているのだ。また、現在予定されている程度の小規模なミサイル部隊では中国艦隊に心理的脅威を与えることはできない。上記のように、今回通過した空母艦隊だけでも少なくとも244基以上の防空ミサイルを携行することができる。ということは、陸上自衛隊地対艦ミサイル部隊も、200基あるいはそれ以上多数の地対艦ミサイルを装備する必要があろう。万一の場合は中国艦艇に向かって連射し、中国艦隊の対空ミサイルを撃ち尽くさせた後に、さらに攻撃を加えて中国艦艇を撃破させられるだけの能力を見せつけなければならない。

 幸いなことに、陸上自衛隊には地対艦ミサイル運用に特化した世界でも稀な「地対艦ミサイル連隊」が存在する。また、日本独自で高性能地対艦ミサイルを開発製造しているため、装備の輸入といった頭の痛い問題も生じない。そしてなによりも、軍艦や航空機に比べると地対艦ミサイルシステムや地対艦ミサイルそのものの価格は極めてリーズナブルである。

 宮古海峡で中国海軍に心理的プレッシャーをかけ、日本周辺海域を我が物顔に動き回らせないためのミサイルバリア構築に必要なのは、安倍政権と国防当局の覚悟だけである。来年こそ、日本防衛の切り札としてミサイルバリア構築元年にしなければならない。

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筆者:北村 淳