この連載では、IoTに必要な要素や、身近に増えてきた商品、サービス、そしてIoTを支える通信――といったさまざまな側面から、IoTってどんなものだろう? ということを理解する基礎を見てきました。

これまでコンピューターの世界からすれば寡黙で孤立していたモノが、雄弁に言葉を発する時代になるのですから、変化の兆しを感じるのは自然なことです。

IoTには実際には多くの意味が含まれますし、必ずしも定義も一様ではありません。そうした意味で「もっともらしいが定義があいまいなバズワード」だとして、「そのうち消えてなくなるよ」と斜に構えた見方をする人もいます。確かに「IoT」という言葉自体は、時間をかけて耳にしなくなっていくかもしれません。

しかし、もうIoTの入口をのぞいてしまった私たちにとって、モノがネットワークを介してコンピューターと話を出来るようになるという世界が「来ない」と断じることは難しいでしょう。

10年後、20年後、すべてのモノとまでは言わないまでも、多くのものが今よりもネットワークに参加して、情報を交換している社会がやってきていると考えるほうが自然ですよね。

モノを「情報インフラ」に乗せるためのツール

連載の第2回「IoTを実現するには何が必要?」で見てきたように、IoTとは、モノのある現実世界と、コンピューターが形作るサイバー世界との間を橋渡しする概念です。現実世界とサイバー世界は対等な存在で、相互に作用をし合うことができるわけです。

ですから、「うちにあるエアコンや冷蔵庫がインターネットにつながったからといって、そこでWebサイトを見るわけではないもんなあ」という発想は必ずしもIoTの本質を突いていません。

これまでのパソコンやスマートフォンでイメージするように、インターネットに蓄積した情報を一方的に引き出してくるという使い方ではないのです。パソコンやスマートフォンからイメージするとしたら、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)のほうが、IoTには近いかもしれません。

SNSでは、多くのユーザーが自分から積極的に情報をサイバー世界にアップロードしています。センサーで取得した情報がクラウド上のコンピューターに集められる姿と似ていますよね。

SNSに集まった書き込みや写真を見ていくと、どこに人が集まっていて、どんなイベントが起こっていて、人々が何に興味を持っているのかが、リアルタイムにわかります。

そして、現実世界を分析した情報をもとに、私たちは「混んでいない道」を選んだり、「きれいなイルミネーションを見に」行ったり、知り合いが勧める「面白い映画」を楽しんだりするわけです。

IoTでも集めたデータを分析して、その結果から現実世界のモノが制御されて動いたりするのです。とても似ていると思いませんか?

 

IoTによって、現実世界とサイバー世界の間が情報で結ばれ、モノを情報インフラに乗せることができるようになった


SNSでは、人間が積極的に情報をアップロードして、その情報を活用して動くのも人間でした。それがIoTでは、モノとコンピューターが相互に影響しあって、新しい価値を生み出してくれます。

これまで、情報インフラの上で構築されてきたサイバー世界は、多くの場合はサイバー世界で閉じていました。そして必要に応じて、人間が現実世界との間を取り持っていました。それが、IoTという橋渡し役の登場によって、現実世界のモノが持つさまざまな情報をサイバー世界と自動的につないで、情報インフラに乗せられるようになるのです。

 

所有から利用への流れを加速

それでは、現実世界のモノの情報とサイバー世界が結ばれると、私たちの生活はどのように変化するのでしょうか。IoTの実現がもたらす新しい価値は、さまざまな方向性を持っています。

企業や国家による産業の構造の変化といった大きな枠組から、私たちの家庭の中のモノがちょっとずつ賢くなっていくような身近なことまで、千差万別です。でも、対象は違っても1つの流れは確実です。それは、モノの情報を継続して得られるようになることで、さまざまな事象がサービスへと変化していくということです。

自動車を例に考えてみましょう。自動車はほんの少し前まで、単体としては情報を処理していたとしても、ネットワークに常につながっている存在ではありませんでした。自動車という現実世界のモノがいつどこを走り、どのように使われているかは、サイバー世界からリアルタイムに把握することができませんでした。

自動車の現在の情報を共有する手段はないため、法人であれ個人であれ、自分で所有して自分で管理しなければならなかったのです。

ところが、自動車は急速に「コネクテッドカー」のようにネットワークに直接つながったり、自動車に装着するIoTデバイスや運転者が持つスマートフォンなどを介してインターネットにつながったりすることで、自らの情報をサイバー世界に送り出すようになりました。

今、使っていないクルマが特定の場所にあること、近くを走っているクルマがあること、渋滞に巻き込まれていること、そしてどのような走り方をしているのか――そうしたことが、リアルタイムにサイバー世界でわかるようになりました。

すると、自動車が所有するモノから利用する「サービス」へと変化が始まりました。自動的の利用状況がわかれば、空いているクルマをシェアリングサービスに提供することができます。

Uberのように、近くを走行しているクルマに乗せてもらうことも可能になります。リアルタイムの走行情報から渋滞を回避してナビゲーションするサービスもありますし、安全な走り方をする人には保険料金が安くなるといったサービスも提供されるでしょう。

モノの情報がサイバー世界に提供されることで、モノそれ自体に付随していた価値が、モノが与えてくれる時間や空間がもたらすコトの価値へと変化できるようになるのです。

これまで、快適なエアーコンディショニングがなされた環境が欲しい場合には、高機能・高性能なエアコンを購入するという「モノ」への投資が必要でした。ところが、IoT化が進むことによって、必要なのは高機能・高性能な「モノ」から、必要な環境を提供してくれる「サービス」へと変わる可能性があります。

室内に多くのセンサーがあり、温度や湿度の状態は常にサイバー世界に情報として送られています。冷暖房した空気を送る機能としてのエアコンのハードウエアは家に備え付けられています。

すると、高度なエアーコンディショニングをするために必要なのは、センサーの情報を読み解き、エアコンのハードウエアを適切に制御するソフトウエアであり、それは「サービス」として提供されるというわけです。

低料金のエアコンサービスだとあまり快適でないけれど、ある程度高い料金のサービスを利用すると快適な空間が得られる。そんな、世界がやってくる可能性があるわけです。

単体の「モノ」から、モノと情報処理するコンピューターを結びつけた「サービス」へと、変化が生じる


すべてのモノがサービスになるかどうか、何をもってサービスと言うかは、今後の私たちの選択によって変わってくるでしょう。しかし、IoT化のほんの入口に立っただけで、自動車が所有するモノから、利用するサービスへと急速に変化していっていることを目の当たりにしています。そこから、身の回りのさまざまなモノがサービスとセットになったハードウエアへと変化していく可能性を感じると思います。

IoTをわざわざIoTと呼ばなくなる時代が来たとき、それはIoTが失敗だったとか、間違った概念だったということではなく、身の回りの多くのモノとそれに関連したサービスが当たり前のようにIoTの仕組みを利用しているということなのかもしれません。

だから、「IoTゴミ箱なんて、いらないよ」と頭から決めつけるのではなく、ゴミが溜まったら回収してくれるサービスへと変化していく――そんな世界の入口をのぞいてみるつもりで、IoTに興味を持ってもらえたらいいなと思います。

【連載】いまさら聞けないIoTの基本のキ
第6回 「モノ」を「サービス」に変えるIoT

第5回 「通信」はIoTを支える縁の下の力持ち

第4回 クルマも家もみんなIoT

第3回 IoTは身の回りにも急接近中

第2回 IoTを実現するには何が必要?

第1回 IoTってどんなもの?

筆者:Naohisa Iwamoto