みなさんは、タデという植物をご存じでしょうか? 今回取り上げるそばは、「あいつは物好きだ」「人の好みはいろいろだ」という意味で使われる「タデ食う虫も好きずき」ということわざで名前だけはよく知られているタデ科の植物です。

 そばの原産地は中央アジアで、食料としての栽培は1000年ほど前から中国やインドで始まったと考えられています。やせた土地でも生育し、生育期間も2カ月程度と短いため、冬が長く農耕に適した季節が短いアジアの高地やヨーロッパ北部で、貴重なたんぱく源としてさかんに栽培が行われました。

 タデは葉を香辛料として使用しますが、そばは長さ1cm弱の小さな実を食用にします。実の80%がでんぷん、残りの多くがグロブリンというたんぱく質です。さらに微量に含まれるフェノール類、アルデヒド類、ピリジン類などの天然化学物質が調理で加熱されることにより、そばの趣深い味やちょっと生臭い感もある独特の香りを生み出します。

「江戸店や 初そばがきに 袴客」

 これは、江戸時代を代表する俳諧師の小林一茶が1821年(文政4年)12月に詠んだ句です。その年の新そばを楽しみにして袴の正装でそば店を訪れた客が、そばがき、つまり練ったそばを麺にせずに塊のまま食べている様子を詠んだものです。

●つなぎなしの「十割そば」はなぜ可能?

 そばを麺にして最初に食べたのは、14世紀ごろの中国の北部地方でした。穀物を練って食べることは太古からされていましたが、麺や団子にできる木の実の多くは、グルテンというネバネバしたたんぱく質を含んでいます。ところが、そばのたんぱく質はほとんどがサラサラのグロブリンです。

 そこで、そばを麺にするためにいわゆる“つなぎ”、つまり小麦粉を添加するのですが、つなぎを入れないそば粉10割のそばがきは、江戸時代から食通の好む食べ方として広く知られていました。生地を上手につくれば10割の麺にすることも可能ですが、その際はそば粉にわずかに含まれる炭水化物がグルテンの代わりとなってそば粉同士をつなぎ合わせます。

 海外では日本同様に小麦粉でつないで麺にするほか、パンのように丸めたり、フライドポテトのような形状に加工したりして食べます。イタリアには、ピッツォッケリという有名なそばパスタ料理があります。

●そばの抗酸化作用で糖尿病などの抑制も

 そばは、ルチンやポリフェノールを含む健康食品として注目されています。ルチンは1930年代にハーブの効能成分として発見され、当時はビタミンPと呼ばれていました。その後の研究で、当時ビタミンPと呼ばれていたものはルチンを含む複数の成分が混ざり合ったものであったことがわかっています。現在はルチンをビタミンPと呼ぶことはありませんが、ルチンにビタミンのような作用があることは確認されています。

 ルチンの生理的な機能については21世紀になって発見が続いていますが、いずれも基本作用は抗酸化です。酸化とは、鉄でいえばさびること。酸素は呼吸に必要なものですが、非常に有害な化学物質でもあります。細胞は酸素によってダメージを受け、それがきっかけでさまざまな病気を発症してしまうのです。

 抗酸化作用のある食品で細胞の酸化を防ぐことは、ピカピカの釘をさびさせることなく美しいまま保つことと同じであり、心疾患、糖尿病、認知症、全身の老化の抑制につながるとされています。また、ルチン特有の作用として毛細血管の強化があり、動脈硬化や脳血管疾患の予防や高血圧の改善などに効果があるという動物実験の結果が出ています。

 さらに、抗がん剤としての可能性も見いだされています。がん患者の体内では、がん細胞が無限に増殖するために栄養を大量に必要としています。その栄養を供給するために、がん細胞は自らの周辺に新たに血管をつくり出すのですが、ルチンにはがん細胞が新たな血管をつくることを妨害する作用があるらしいことが、試験管内の実験でわかり始めています。

 ルチンの構造の一部分を変更することによって、作用が大きく変わることもわかっています。そのため、今後のさらなる研究によって、ルチンを基本的な構造としてがん細胞を効果的に餓死させる抗がん剤が開発できるのではないか、という期待があり、その有効性の検証が続けられています。

 年末年始は食べすぎや飲みすぎで体に負担のかかる季節です。ビタミンや抗酸化の作用があるルチンを含むそばをしっかり食べて、健やかに過ごしたいものですね。
(文=中西貴之/宇部興産株式会社 環境安全部製品安全グループ グループリーダー)