イ・ボミ(28歳/韓国)が2年連続賞金女王に輝いて幕を閉じた2016年の日本女子ツアー。今季も韓国勢をはじめ、外国人プレーヤーが賞金ランキングの上位に名を連ねたが、賞金ランク3位の笠りつ子(29歳)とともに、日本人プレーヤーで気を吐いたのが、鈴木愛(22歳)だった。

 ツアー本格参戦3年目で、獲得賞金は1億円を突破(1億2493万9506円)。シーズン2勝を飾って、賞金ランク5位という好成績を残した。

 LPGA(日本女子プロゴルフ協会)が発表している公式記録のスタッツには、8つのカテゴリーがある。そのうち、今季は5部門でイ・ボミが1位を獲得したが、残りの3部門のうち、「平均パット数」と「平均バーディー数」で1位になったのが、鈴木だ。

 そうした記録を見ても明らかなように、2016年シーズンの鈴木は飛躍的な進歩を遂げた。一昨年、メジャーの日本女子プロ選手権でツアー初優勝を飾って一躍脚光を浴びた鈴木が、2年の時を経て、ここまでの成長を果たした要因はどこにあるのか、その理由を探ってみた。

 2013年3月に高校を卒業し、その年の夏にプロテストで一発合格を決めた鈴木。ツアー本格参戦となった翌2014年シーズンには、前述のとおり、いきなり日本女子プロ選手権を制してプロ初勝利を挙げた。このときの、20歳と128日での優勝は、宮里藍の21歳83日という日本女子プロ選手権における最年少優勝記録を更新する快挙だった。

 その年、鈴木はおよそ賞金6000万円を獲得。賞金ランク13位となって、プロとして最高のスタートを切った。だが、プロ入り早々にメジャー大会を制覇したことが翌年、大きな重圧になったという。

「あの年(2014年シーズン)、日本女子プロ選手権で優勝した翌週から、最終戦までは一度も予選落ちがなくて、ほとんどトップ20を外さないほど調子がよかったんです。日本女子オープンでも最終日最終組で回ったので、メジャー2連勝もあるんじゃないかと、周囲の期待も大きくなっていました(最終的には5位)。

 そうした中、シーズン終盤に地元の四国(香川県)で開催された大王製紙エリエールレディスでは、『絶対に優勝したい』と思ったんですが、勝ち切れずに2位タイで終わってしまいました。さらに翌シーズン、同じく四国(高知県)で行なわれたヨコハマタイヤ PRGRレディスでも、再び2位。40位とか、もっと成績が悪ければ諦めがついたのでしょうが、地元の得意コースでより強い気持ちで挑んだのに、両方2位で終わってしまったことが、(精神的に)大きなダメージとなりました。

 そこからですね、なんか気持ちが乗っていかなくて、頭では『優勝したい』って思うんですけど、本当の気持ちと自分の体がついてこない感じでした。(考えていることに対して)体がだいぶ後ろのほうから追いかけているみたいな......。

 今思えば、最初に勝った試合が日本女子プロ選手権で、宮里藍さんの記録を塗り替えたということもあって、周りから騒がれ、自らも自分に期待してしまったんです。最初は、初優勝がメジャーでよかったなって思ったんですけど、よくよく考えると、それが自分にとって、大きなプレッシャーになっていたのかな、と思います」

 その2015年シーズンは、結局優勝することができず、2位が3回もあった。「私には運がないというか、勝てる要素がないのか」と思って落ち込んだりもしたという。

 それが一転、今季はツアー2勝。賞金ランク5位と大躍進した。きっかけとなったのは、ツアー2勝目となった5月の中京テレビ・ブリヂストンレディスだった。

 この試合、2日目を終えて永峰咲希(21歳)、酒井美紀(25歳)とともにトップタイに立った鈴木は、ラウンド後に囲み取材を受けた。そのとき、ある記者のひと言が、鈴木の気持ちに火をつけた。

「どこかのメディアの方が、『(3人の中では)鈴木さんが優勝争いを一番経験しているんですよね』と言ったんです。それを、私は『優勝争いにはよく加わっているけど、勝ち切れませんよね』と、遠まわしに言われたんだなって受け取ったんです。周りの人たちも同じように『(鈴木は)また勝てないんだろうな』と考えていると、勝手に思い込んでしまったんですね。それで、この試合は『必ず勝ってやる』と。"また負けるだろう"と思っている人たちの見込みを『絶対に裏切ってやろう』という気持ちが、自分の中で湧き上がってきたんです」

 そんな強い気持ちで迎えた最終日、鈴木は10アンダーまでスコアを伸ばして、2位に1打差のトップに立って最終ホールを迎えた。しかし、そこでもまた試練が待ち受けていた。

 パーでも優勝という状況にあって、セカンドショットでは安全にグリーンの中央を狙うつもりが、打つ直前、「ピンに寄せたい」と一瞬思ってしまったという。結果、中途半端な気持ちで打ったボールは、池のある左のほうへ引っかけてしまった。ボールは何とか池の縁ギリギリに止まっていたが、ボギーなら先に9アンダーで上がっていた上原美希(28歳)と藤本麻子(26歳)とのプレーオフへ、ダブルボギーなら3位転落という状況に追い込まれた。

 さすがに鈴木は「正直、『ああ、また優勝できないのかな......』って思いました。勝ち切れるとは、とても思えなかった」という。

 重要な第3打のアプローチ。絶対にやってはいけないのは、ピン手前の傾斜を超えず、ボールが戻ってくることだった。そこでグリーンに乗せることを最優先し、ボギー覚悟でやや強めに打ったボールは、ピンを20mもオーバーした。見た目には、もはやボギーで上がるのも厳しい状況で、鈴木自身、「これは2パットでは無理かな、と思いました」と言う。

「それで、最初のパットは"なんとなく"打ちました。大事なパットだと思いすぎると、変に緊張してすごくショートとかしてしまいそうだったので。だから練習のように、とりあえず見たままの距離と、見たままのラインで打っていきました」

"なんとなく打った"という20mのパットは、カップまで1m強を残して止まった。それを入れれば、プレーオフ。ここまでくると、鈴木の中から悲観的な感情や後ろ向きの思いは消えていた。

「『嫌(な距離)だ』と思ったけど、外す気はしなかったです。パッティングに自信があるわけじゃないんですけど、『練習は誰よりもしている』という自負があるので、その思いだけで打ちました」

 1m強のボギーパットを見事に沈めた鈴木。プレーオフに臨むと、上原とふたりに絞られた2ホール目で難なくバーディーを奪って、約1年8カ月ぶりの優勝を飾った。鈴木にとっては「長かった」という"不調の時期"をついに脱したのだ。

 勝負の決め手となったのは、プレーオフ1ホール目だった。上原はバーディー確実という1mにつけていた。一方、鈴木のバーディーパットは6m。決して簡単ではないパットを、鈴木は気合いでねじ込んだ。鈴木が語る。

「正確なことは知らないのですが、あのとき上原さんは初めての優勝争いではないかと思ったんですね。それで(バーディーパットを打つ前に)、私は初優勝してから、どれほど苦しんできたかということを思い出して、そんなに簡単に優勝は渡せないって思ったんです。長い間、めちゃくちゃ苦しんできたから、もうこれ以上は苦しまないぞ、絶対に入れてやる、と思って打ちました」

 それにしても、この中京テレビ・ブリヂストンレディスにおける、鈴木の気持ちの移り変わりを見ているだけでも、実に興味深いものがある。

 試合前は「もう勝てないのでは......」というマイナス思考が先行していた。それが、試合途中の記者の言葉によって、「なにくそ!」という気持ちが燃え上がった。だが、最終日最終ホールで再びピンチを迎えると「またダメなのか......」と意気消沈する。そこで自ら窮地を逃れると、最後は「絶対に優勝を渡さない!」と気迫で勝利をもぎ取ったのである。

 人というのは、たった3日間でここまで成長し、強くなれるのだ。そして、この優勝を機に、鈴木は完全復活を果たし、9月には再び日本女子プロ選手権で優勝、2度目のメジャータイトルを手にした。

 獲得賞金が1億円を超えて、賞金ランクはトップ5入り。いよいよ女王の座も見えてきた。今後の目標を聞くと、鈴木はこう答えた。

「そうですね、国内では日本女子オープンを勝ちたいです。あと、現在の目標はアメリカに行くことなんですね。そのためには『賞金女王になってから』と思っていたんですが、その実現があまり遅くなると、年齢的に(アメリカ挑戦も)厳しくなってくるので......。できれば、早く賞金女王になりたいです。でも、25歳を超えても賞金女王を獲れていなかったら、(その前にアメリカに行くかどうか)ちょっと考えます(笑)」

 今季、公式記録のスタッツ8部門の中で、パーオン率だけが29位とふるわなかった。来季の課題で、アイアンショットの正確性がより求められる。このオフ、その課題を克服できれば、来季はさらに上のステージに行けるはずだ。そこで見据えるのは、当然"賞金女王"となる。

古屋雅章●文 text by Furuya Masaaki