「レストラン列車」という編集力

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■「??×食」で広がる可能性

前回は「マンションの居住者専用レストラン」についてご紹介しました(http://president.jp/articles/-/20749)。この数年急速に増えた「手ぶらバーベキュー(店側が器材や食材をすべて準備してくれるスタイルのバーベキュー)」や、その進化形とも言える「グランピング(贅沢なキャンプ)」なども含めて、これらの現象は「飲食店の拡張」と表現できるでしょう。店という「箱」に閉じていた飲食店が、他の機能を付加したり、別の空間へと乗り出したりすることで、これまでの枠をはみ出していっているのです。

このことは飲食店側が新たなビジネスチャンスを求めた結果であるのは言うまでもありません。しかし同時に、異業種が「食」を取り込むことで、ターゲットやシーンを広げようという動きともリンクしています。例えば、商業施設では建物への集客のために、レストランフロアやフードコートを充実させる動きが活発化しています。こうした傾向は以前からありましたが、「モノが売れない」という今の時代環境がそれをさらに強く後押ししています。

また、ゴルフ場やアミューズメントパークといったエンタテインメント施設においても食に注力するところは増えましたし、これまでさんざん「まずい」と酷評されてきた病院でも、患者の満足度アップや「集客」のために食事を見直すところが増えています。さらには「地域活性」のようなテーマにおいても、食が代表コンテンツに選ばれることは極めて多いものです。つまり、異業種にとって「本業×食」というのは、ユーザーに非常にわかりやすく魅力的な形で新たな価値を提案する方程式になっているのです。

■鉄道列車内での「至福」

先日、実際に体験してきた「レストラン電車」は、「鉄道×食」によって新たなシーンを生み出そうという試みです。西武鉄道が開業100周年の記念事業として昨年スタートさせた「旅するレストラン 52席の至福」は、東京・池袋と埼玉・秩父を結ぶ、週末限定の観光電車です。レストラン電車自体はすでに各地でいくつか展開されていますが(そもそも「食堂車」の歴史は古い)、池袋という大都市を起点にしていることが大きな特徴でしょう。

4両編成のコンパクトなサイズですが、そのうち2両が客席で全52席あります。驚いたのは1両分を使用している厨房が、オープンキッチンになっていることです。スペースや器材などで大きな制約がある中で、スタッフが可能な限り車内で調理を行っているのです。私が乗車した際にはパスタが出されましたが、麺を茹でる工程もその場で行っていました。

ランチコースで1万円、ディナーコースは1万5千円(いずれも乗車チケット込)と決して安い金額ではありませんが、ランチで100%、ディナーでも90%以上の予約率というから驚きです。私が乗車した際の客層を見ると「年配の夫婦」「シニアの母とその娘」など、さすがにその金額もあって年齢層は高めでしたが、乗客が楽しそうに食事をしていたのが印象的です。

通常1時間半程度で到着する道のりを、2時間半から3時間かけて進むのですが、窓外の景色を眺めたり、音楽の生演奏があったりと、優雅な時間を過ごすことができるため、満足度も高いようです。何より、この存在によって「母娘で食事をする」「秩父へ観光に行く」など、普段とは違う行動を取っている人が多いでしょうが、この電車がその「きっかけ」として機能しているようです。

■「体験」を重ねる方法論

「電車×食」のケースで言えば、まるで屋台のようにおでんが味わえる「おでん電車」や、生ビールが飲み放題の「ビール電車」など、ユニークな事例もあります。また電車ではなく、観光バスで食事が楽しめる「レストランバス」も登場するなど、移動と食の組み合わせは広がっています。いずれも目的地への単なる移動ではなく、気の利いた食を絡めることで、「総合的な体験」に仕立て上げているわけです。

高価格帯のレストランでは、この数年「ペアリング」が一気に広まりました。ペアリングとは、コース料理の一品ごとにあわせて、それにふさわしいドリンク(主にワイン)を少量ずつ提供するスタイルです。もちろん好きな飲み物を頼むのも良いですが、ペアリングによって店側の「こうやって味わってほしい」という想いをより受け取りやすくなっています。味わっているのは料理や飲み物というよりも、より「体験」に近づいていると言えるでしょう。

また、コンテンツの世界では、近年ますます「編集力」や「プロデュース力」が問われるようになってきています。ユーザーにどのような「唯一無二の体験」を提供できるかを考えていくときに、「食」と「食以外の何か」を掛け合わせるという方法論は、大きなヒントになるのではないでしょうか。

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子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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(子安大輔=文)