札幌ドーム(「Wikipedia」より)

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 2017年も押し迫った12月19日に「ファイターズ新球場建設へ」というニュースがかけめぐった。今年のプロ野球日本一に輝いた北海道日本ハムファイターズ(以下、球団)が、親会社の日本ハム(以下、日ハム)と協働で、現在の本拠地である札幌ドームに代わる新球場の検討を始めると発表したのだ。

 春に新球場建設が報じられた際には、球団は否定していたが、どのような変化があったのだろうか。実は、球団は10年近く前から、札幌市が所有して市の第三セクターが運営する札幌ドームに不満を持ち、近年は新球場について検討していた。今回の決定は、ようやく第一歩を踏み出したにすぎない。

 そこで今回、新球場建設決定に至った経緯や今後の見通しを分析してみたい。

●選手総年俸に匹敵する球場関連費

 16年のファイターズ主催試合の観客動員数は207万8981人(71試合、1試合平均2万9281人)と、04年の北海道移転後、初めて200万人を超えた。この間の13シーズンで4回のリーグ優勝(うち日本一2回)、Aクラス10回とチーム成績は素晴らしい。

 だが球団経営では、非常に難しい局面にある。収入面で「大幅な収入増が見込めない」、支出面で「球場使用関連費が高すぎる」という2つの大きな課題を抱えているからだ。

 そもそもプロ野球球団の総収入は、平均で100億円といわれており、ファイターズは120億円(14年12月期)となっている。その収入内訳は、大きく次の5つに分けられる。

(1)主催試合の入場料
(2)公式グッズの販売収入
(3)球場内の広告料、売店や飲食店売上の一部
(4)スポンサーからの広告料
(5)試合の放映権料

 特に球団が主導権を握れる(1)と(3)を伸ばしたい。一方、主な支出の費目は、つぎのようになる。

(6)選手の年俸
(7)フロント職員の人件費
(8)球場使用料・関連費用
(9)ビジター試合やキャンプの遠征費用

 今回の新球場問題で浮き彫りとなったのは、(3)と(8)だ。球場を所有している球団にとっては収入源となる球場内の広告料は、ファイターズの場合はほとんど入らず、逆に球団の広告料を球場に支払う立場だ。また、売店など付帯施設からの収入も球団には入らず、これも球場側の収入となる。

 一方、(8)の球場使用料は約9億円、その関連費用が約17億5000万円、合計約26億5000万円の支出といわれる。これは16年の選手総年俸(約27億円)に匹敵する数字だ。

●稼働・集客に貢献しても「使用料値上げ」

 札幌ドームでの公式戦で、球団が球場側に支払う使用料の基本は、かつては1試合につき800万円(入場者2万人以下の場合)。2万人を超えると、入場者1人につき400円ずつ追加で支払っていた。それが16年4月から値上げされた。観客が入れば入るほど球場の使用料が増えるのは、一見当たり前に思えるが、実はそうではない。

 かねてから、球団幹部は札幌ドームの使用料に関してこんな不満を示していた。

「ファイターズは、札幌ドームの稼働率や収益に貢献していると自負していますが、どんなに多く試合を開催しても、観客動員数を増やしても使用料の基準は変わらない。一般の取引でいえば、集客力のあるイベントを数多く実施した企業にはスケールメリットが働き、料金割引も受けられると思いますが、条件交渉をしても不調に終わりました」

 それに加えて、コンサートなどドームで開催されるイベントのために、一部の客席や、球場内のトレーニング器具などを撤去・再設置する場合の費用も球団負担だ。それも上記「関連費用」に含まれる。

 球団は、約27億円といわれる親会社・日本ハムからの広告料があって黒字経営が成り立っているが、広告料を除いた真の黒字経営をしたい球団にとっては、球場問題が重しとなっていたのだ。

 札幌市側の歴史的経緯や事情も紹介しよう。札幌ドームは02年のFIFAワールドカップ(W杯)日韓大会の試合会場となることも見越して設計された多目的スタジアムだ。建設当時の同市の幹部・関係者は、W杯後の健全運営を見越して、試合数が多いプロ野球の全球団を回り、札幌ドームで試合開催を打診した経緯があるが、その本音はプロ野球球団の誘致だった。

 そうした紆余曲折の末、条件に合致したのが、当時の球団本拠地である東京ドームからの移転も考えていたファイターズだった。つまり、北海道日本ハムファイターズ誕生時は、札幌市も球団も、お互い「困っているのを助けた」との思いがあったのだ。

 だが、それから十数年でビジネス環境も変化した。現在のキーワードのひとつは、「対立」ではなく「協調」だ。プロ野球の球場はリゾート施設などと同じで、お客さんにその場所に来てもらうことで成立するビジネスだ。冒頭に記した「協働」にはさまざまな意味がある。

●「北海道の球団」の軸足は崩せない

 最後に今後の見通しを記しておこう。04年に球団名を「北海道」日本ハムファイターズに変更した際、「札幌」にしなかったのも、広く道民に愛される球団をめざしたからだ。ちなみに、球団のマスコット「B・B」の背番号212は、移転当時の北海道の市町村の数にちなんでいる。その意味で、道外への移転は現実的ではない。ただし、それも口にした時期があったほど、球団関係者は札幌ドームの使い勝手の悪さを嘆いていた。

 ファイターズは、早くから選手の年俸査定に大リーグ方式を取り入れるなど、最先端の球団経営に熱心だ。野球観戦以外も楽しめる本場型のスタジアム「ボールパーク」を実現したいと考えている関係者もいる。総合食品メーカーである日ハムのノウハウを駆使して、球場内で多彩な飲食店を運営することも可能だろう。

 新球場の候補地は、道内の自治体からも候補先を募っている。球団の公式発表翌日に、札幌市に隣接する北広島市の上野正三市長が島田利正球団代表に会い、「ボールパーク構想」の提案書を手渡すなど、新球場建設計画が水面下で進んでいたことを裏付ける。

 一方で、新球場の建設費用は約400億円ともいわれる。これだけの金額を売上高100億円規模の1球団が負担することは現実的ではなく、売上高1兆円企業の日ハムにとっても巨額投資となる。建設後の運営、地域との共生のためにも、札幌市を含めた関係者を巻き込んだ活動が欠かせない。繰り返すが、それも含めて「協働」なのだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)