極私的! 月報・青学陸上部 第21回
■原晋監督インタビュー 前編

 箱根駅伝3連覇という偉業達成に向けて1月2日、大手町のスタートラインに立つ青山学院大学陸上部。すでに出雲駅伝、全日本大学駅伝を制するなど圧倒的な強さを見せ、箱根を取れば、史上4校目となる3冠、トリプルクラウンも達成することになる。

 一方、他大学は「青学の独走を許さない」と緻密な戦略を立て、青学包囲網を敷く。徹底的にマークされる中、原晋監督の勝算、そして箱根の先に目指すものとは......。緊張感が高まるこの時期にじっくり話を聞いた。

――12月10日、箱根駅伝を走る16人のエントリーリストが発表されました。青学大のリストにはほぼ予定通りの選手が名をつらね、大きなサプライズはありませんでした。メンバーを決める時点で悩むこと、あるいは誤算はあったのでしょうか。

「夏季合宿から継続的にいい練習ができて、その中で実績のある選手が選ばれているので、『こいつ、外れたな』っていうのはないですね。ただ、ひとつだけ山登り要員と考えていた内田(翼)が故障してしまったことが残念でした。4年生で最後の箱根になり、ポテンシャルの高い選手だったので、出られれば活躍してくれたと思うので......。
 
 あと、2年生の山田(滉介)、富田(浩之)がメンバーから外れたけど、彼らは今後につながる外れ方なんでね。今年から主力メンバーに絡んで夏季の選考合宿や強化練習などすべてをやり切って、勝負してきたことは決してムダにはならない。そりゃ本人たちは悔しいと思うけど、彼らは来年、重要な戦力になっていきますからネガティブではなく、ポジティブにとらえてほしいなと思います」

 今年の箱根駅伝は4区が2.4km増えて20.9kmになり、5区が20.8kmに短縮される という変更があった。4区は最後に登りが加算されるなど難易度と重要性が増した。5区は短くなったとはいえ、タイム差がつく区間としての重要性は変わらない。駒澤大の大八木弘明監督、早稲田大の相楽豊監督、東海大の両角速監督らが5区を重視する中、原監督だけは見ているところが違った。

――5区ではなく、1区を重視するのはどういう理由からでしょうか。

「1区は、昨年の久保田(和真)にみたいに抜け出てくれると非常にラクです。あとが余裕をもって走れるので。ただ、今年は"そうはさせじ"と他大学が1、2、3、4区まで速い選手を順に並べてくる可能性がある。そこで青学を前に行かせないっていうのは、ひとつの作戦だと思います。それでもうちは、往路はもちろん、復路にも絶対的な強さがある。

 それを踏まえて1区の役割はブレーキになることなく、先頭集団の輪の中に入っていくこと。そこで前が見える範囲、30〜45秒ぐらいの差でいけると2区に一色(恭志・4年)がいるのでリセットできるし、3区以降のメンバーで差を広げることができる。1区でドカーンと離されなければ勝てるんです。だから重要なポイントなんですよ」

 原監督は、他大学が重視する5区については早い段階から「今年は耐える区間」としていた。今年のチームには箱根2連覇に貢献した山の神・神野大地(現・コニカミノルタ)のような存在がおらず、夏季合宿から山登りの選考に苦労した。ようやくメドがついた内田がエントリー前に故障し、青学にとっては唯一のアキレス腱になっている。だが原監督の表情に深刻さはない。

――短縮された5区は特別視しないという考えですか。

「5区はもちろん大事です。でも、神の出現を待っていても仕方ない。うちの神の存在は昨年で終わり。だから区間5位以内に入ればいいと割り切っている。そして、他大学を見て、山の神がいるのかっていうと昨年の神野みたいな存在はいない。早稲田や駒澤を見ても、今年からいきなり神になれる存在はいないし、急に神になることもないんです。

"神"になれる選手って最初からすごいんですよ。今井くん(正人・順天堂大OB)も柏原くん(竜二・東洋大OB)も1年から強かった。その観点でいうと、東海大学だけが不気味ですね。5区は舘沢(亨次・1年)くんが走るという話が出ているけど、未知数の1年生が山を登った時、いきなりドカーンとくる可能性がある。でも、そこで神が出て来たらもうしょうがない。国民的ヒーローなわけだし、それが箱根駅伝なんですよ。ただ、山を含めて往路で仮に1分半負けていても復路で絶対に取り戻せる。うちにはそれだけのメンバーがいるからね」

 たしかに復路にも青学には、他大学なら往路のエース区間を走れる強力なメンバーが揃っている。6区には山下りに強い小野田勇次(2年)がおり、キャプテンの安藤悠哉(4年)が9区か10区を走るだろう。3区を秋山雄飛(4年)が走れれば、復路に来季のエース候補である下田裕太(3年)か田村和希(3年)を起用できる。原監督が往路で1分半以内の差なら勝てると言う言葉を裏付けるだけの選手が揃っているのだ。

 その中で、原監督が今年の箱根のキーマンに挙げたのが下田だ。昨年の箱根駅伝8区で鮮烈なデビューを果たし、人気者になった。今年は同学年の田村和とともにチームを支える存在になりつつあるが、出雲駅伝、全日本大学駅伝と本来の力を発揮できなかった。それでもあえて下田にかける原監督の狙いはどこにあるのか。

――キーマンに下田選手を挙げたのは、なぜでしょうか。

「下田はね、高校時代は実績のない選手だった。昨年、サブグループから箱根で活躍してスターになったけど、今年は出雲、全日本とエース級のところで起用したら壁にぶち当たった。周囲からは不発に終わったと思われているけど、私は下田がちょっと過大評価されていると思っているんです。だから『それが今の実力。でも、2つの大会はよくやったよ』と彼に伝えました。下田は、まだ3年生なので苦しんでいい。苦しみを経験することで本当の力をつけることができるし、4年生で主軸になれると思う。今年の駅伝に限っていえば、下田が主軸として走れれば、おのずと結果がついてくるでしょう」

 現在、原監督は他大学を含めてタイムと実績などから、選手をSSクラスからBクラスまで区分けしている。SSは「強さ」と「速さ」を兼ね備えた流れを変えられる選手であり、Sもゲームチェンジャーで「強さ」を持つ選手。Aは「速さ」を持つ選手、Bは「普通レベル」になっている。

 青学ではSSが一色、Sが下田、田村和、小野田で、Sに近いA+が梶谷瑠哉、森田歩希、鈴木塁人ら1、2年生だ。

――カードを改めて並べると、層の厚さが違いますね。

「実績や持ちタイムを見てクラス分けをするけど、単純に記録だけで判断はしない。たとえば11月の学連10000m挑戦記録会と12月の日体大競技会(10000m)で28分台が結構出たけど、誰かの後ろについていっての28分台なのか、自分でレースを支配してリードし、競り合いながらの28分台なのかではタイムの意味と価値が全然違う。後者のような選手はなかなかいない。それができるのがSS、Sの選手。うちにはS以上のカードが4枚あるけど、他の大学にはないでしょう。しかも、その4枚をポイントになる区間で起用できる。そのアドバンテージはすごく大きい」

 青学大は選手層が分厚い上に絶対的なエースがおり、SS、Sの選手をはじめ、各区間に実力的にそれほど差異がない質の高い選手を配置することが可能だ。5区は苦戦しそうだが、他区間でタイムを取り戻せる。
 
 つまり穴がほとんどないのだ。4年生の個の能力は2016年のチームの方が高かったが、総合力で見れば昨年以上のチームが完成したと言える。その手応えが原監督の充実した表情にあふれている。

(つづく)

佐藤 俊●文 text by Sato Shun