上海の大江戸温泉物語


 12月21日のオープン以来、施設名称の使用権を巡り日々ニュースを騒がせ続けている上海の「大江戸温泉物語」。商標権の使用許諾を得ているとする中国の運営会社に対し、日本のレジャー施設運営業の大江戸温泉物語は海外企業との一切の資本・業務提携を否定し続けており、両社の主張は今もなお平行線をたどり続けています。

 そこで今回、筆者は、商標権の議論はひとまず置いといて、実際の施設の内容はどうなのかを確かめるため、雨が降りしきる早朝の上海で件の施設へ潜入、もとい、ひとっ風呂浴びに赴きました。

靴箱を開けられない・・・

 朝から地下鉄を乗り継いで約1時間、7号線場中路駅近くにそびえる上海の「大江戸温泉物語」に到着したのは午前10時半頃でした。

 入り口手前で写真を撮り終え入場すると、係員から靴をビニール袋に入れるよう指示されました。指示された通りに靴を袋に入れて靴箱へ向かうと、なぜか靴箱が開かない。

 というより、どう見たって靴箱に鍵がかかっていて開けようがありません。仕方なく施設内に入ってぶらぶらし、受付に行って聞いてみると、「あれ、ブレスレットは?」と店員が聞いてきます。そんなものはもらっていないと答える(もちろん中国語で)と、再び靴脱ぎ場に連れていかれ、店員はそこにいた係員に一体どうしてブレスレットを渡さなかったんだと叱りつけていました。

 そこで改めて、靴箱やロッカーの鍵となるブレスレットを受け取ることができました(ブレスレットは料金精算にも使用します)。

 本来ならば靴脱ぎ場でブレスレットを受け取るはずでしたが、単純に係員が渡すのを忘れていたようです。受付担当は私に不手際を詫び、靴箱を開けるところまでついてきて細かく説明してくれました。

 いきなりトラブルに遭うも、この時の受付担当従業員の態度は比較的丁寧かつ慇懃で、控え目に言っても中国の従業員らしくなく、よく教育が行き届いているなと感じられました。

IC入りブレスレットで靴箱、ロッカー、料金精算を一元管理


シャンプー類は資生堂

 さて、いよいよ浴場です。浴場の構成は小型の浴槽が3つ、中型が2つ、そしてジェットバスと露天風呂が1つずつという内容で、このうち小型の浴槽2つは平日ということもあって湯が張られていませんでした。

 温度は浴槽によって異なっていたものの、39度台から40度台で調整されており、最も高い浴槽でも40.7度で、筆者個人としてはもう少し熱い湯の方が好みなだけにややぬるく感じられました。ただし全体の広さは日本のスーパー銭湯と遜色がなく、足が伸ばせて十分リラックスできました。

 露天風呂も、日本のスーパー銭湯と同様に、ガラスの窓と戸で屋内の浴場と仕切られています。初老の男性がどうやって向こう側へ行くのか分からなかったのか、しきりにガラス窓を触り続けていたので、ドアの場所を教えてあげました。

 この日は生憎の雨で、しかも客の少ない午前中とあって露天風呂に出る客は少なかったのですが、大きな浴槽の露天風呂の脇にはなぜか五右衛門風呂のような一人用の浴槽が設置されており、その浴槽には長々と入浴している客もいました。筆者も入ってみましたが、なんとなく狭いような感じがしてそれほどいいとは思えず、すぐに出ることにしました。

 髪や体を洗うコーナーも基本的には日本のスーパー銭湯と同じで、小さく仕切られたコーナーごとに風呂桶、椅子、シャワーなどが揃っています。シャンプー類は中国でも販売されている資生堂の製品が使われていました。

食堂には課題あり

 入浴を終えて無料で貸し出される浴衣に着替えた後、昼時ということもあって2階の食堂へと向かいました。食堂には比較的広いスペースが取られていましたが、平日にもかかわらず席はほぼ埋まっており、休日などは混雑でごった返すのではないかという懸念がよぎります。

和食系の店舗で占められる食堂


 店舗のメニューは定食、焼き鳥、日式ラーメン、鉄板焼きなどオール和食系で占められていました。

 今回、筆者はカツカレー定食を食べることにしました。注文から待つこと十数分、渡されたお盆には注文したカツカレーではなく、から揚げカレーが載せられていました。もうどっちでもいいやと思って、これについては何も言わなかったのですが、お盆にスプーンが載せられてないことはさすがに店員に伝えました。すると、「この店にはない」と予想通りというかあっさり断られ、しょうがないので箸を使ってカレーを食べました。

 浴場などにはこれといった問題点は見つからないものの、食堂に関してはまだまだ改善の余地が多い気がします。

定食系メニューの値段は比較的リーズナブル


所狭しと置かれるくまモン

 館内には、「寺子屋(子供の遊戯コーナー)」「貸本屋(漫画コーナー)」「休息室(視聴覚コーナー)」「視聴覚コーナー」など様々なコーナーがあります。それらの施設をひとしきり眺めたあと、帰り際に入り口手前でひときわ異彩を放つくまモン一色の売店へ寄ったところ、従業員に話を聞くことができました。

売店内はほぼくまモン一色


 まず売れ行きに関しては「挺好(非常にいい)」と即答されました。くまモングッズはネット上でもよく販売されているけれども偽物が多く、ここはちゃんと本物を扱っている実店舗だから来場客も信頼して買ってくれていると話してくれました。

 売れている商品について尋ねると、くまモンの携帯電話も入る筆箱と、大サイズのぬいぐるみだといいます。ぬいぐるみはソファなどに置いて抱きついたり寄りかかったりするのにいいと説明してくれました。施設内のあちこちには、大サイズのくまモンのぬいぐるみが所狭しと設置されており、抱きついて写真を撮る来場者も多く見られました。

商標使用権問題は従業員も把握

 売店の従業員と話が弾んできたので取材に来たことを伝えたところ、向こうから商標使用権で揉めていることについて言及してきました。

 その従業員によると、オープン前に中国側の従業員12人が東京へ研修に赴いており、また東京からも日本人が従業員の指導に上海に来ていたといいます。「提携について双方の現場は把握していたが、幹部層が知らなかっただけではないのか?」という見解を述べていました。

 一通り話を聞き終えたあと、受付へ向かい、精算します。入場料の168元(約2800円)と昼食代、119元(約2000円)で買った小サイズのくまモンぬいぐるみ代を支払い、施設を後にしました。

 施設全体について筆者の感想を述べると、入浴施設は日本のスーパー銭湯とほとんど同じで特に問題はなく、食堂にはやや課題を感じるものの、全体としては休憩コーナーが豊富であるためリラックスできる施設であるように思えます。

 また従業員もよく教育されており、上記の入場料168元も納得できる水準です。同じ業態で上海にも展開されている「極楽湯」が連日盛況ということなので、仮に商標権の問題がクリアとなればこの施設も十分にヒットするのではないかと思われます。

「問題なのはグッズ販売ではなく内装」

 帰宅後、筆者は日本の熊本県庁くまもと商標推進課へ、上海の大江戸温泉物語でくまモングッズが販売されている件について電話取材を行いました。

 最初に尋ねたのは、当該施設の売店内に展示されていた、日本語で書かれたくまモングッズの商品販売委託契約書についてでした。その契約書中には、熊本県庁から販売が許諾されているという日本の業者名が書かれてありました。その日本の業者に対して熊本県庁は実際にグッズの取り扱いを許諾しているのかを確かめたところ、その点については事実で間違いないという回答が得られました。

 ただし、その担当者は、「(県庁が)問題視しているのはグッズ販売ではなく、当該施設の内装にくまモンのデザインを使用している点です」と述べました。中国側の業者に対して許諾は出しておらず、現在も抗議を行っているとのことでした。

 では、グッズ販売に関しては問題がないのかと再度尋ねたところ、「グッズ販売に関しては抗議は行っていない。とはいえ、偽物の販売を一切行っていないのかを実際に確かめていないため、完全にシロだとは言い切れない」と述べ、依然と注意を払っている点を強調していました。

内装に使われているくまモン


研修受け入れについて歯切れの悪い回答

 引き続き、筆者は商標使用権問題の当事者である日本の大江戸温泉物語に電話取材を行いました。

 同社は既に12月22日付で「いかなる海外企業との資本・業務提携を行っていない」という発表を行っています。そこで筆者は、従業員との話に出てきた、中国側従業員の研修を受け入れたという話が事実かどうかについて尋ねてみました。すると同社からは「22日の発表の通りです」という回答しか得られず、否定も肯定もはっきりとは行われませんでした。

 重ねて3回同じ質問をした上で、「日本側から中国側へ従業員を派遣したのか」についても尋ねてみました。しかし、やはり同じく「22日の発表の通り」の一点張りです。「否定はされないのですか?」という問いに対しても全く同様でした。

 筆者の企業取材の経験から述べると、何かしらあったのではないかと疑わせるような対応と言わざるを得ず、案外、話を聞いた従業員の言っていた通りなのではないかという可能性も否定できません。この件については双方の対応をもっとじっくり見続ける必要があるのではないかというのが筆者個人の見解です。

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筆者:花園 祐