福島第一原発(ロイター/アフロ)

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 世耕弘成経済産業大臣によれば、東京電力福島第一原子力発電所事故が起きた今でも、「原発のコストは安い」のだそうだ。誰かに吹き込まれてそう言っているのだとしたら、世耕大臣は騙されているのであり、事情をすべて知った上で言っているのだとしたら、ウソつきのデマゴーグ(人を煽動する政治家)だといえる。

 経済産業省自身が12月9日、福島第一原発の廃炉にかかる費用や賠償費用の総額(=原発のコスト)が21兆5000億円に上りそうだとする推計結果を公表している。3年前の2013年の時点では総額11兆円とされていたので、いきなり2倍に増えたわけだ。

 事故コストの新推計では、従来は2兆円だった廃炉費用と汚染水対策費用の合計が、8兆円へと4倍増。賠償費用は5兆4000億円から7兆9000億円へと約1.5倍に。2兆5000億円とされていた除染費用にしても、1.6倍の4兆円に膨れ上がった。

 旧推計の11兆円でさえ、東京電力ではとても賄えない金額だったため、廃炉や賠償の費用は現在、国が一時的に立て替えている。決して東電が身銭を切っているわけではない。福島原発事故後に国が設立した認可法人「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」(11年9月の発足時は、用途を損害賠償と除染費用に限った「原子力損害賠償支援機構」だった。14年8月に現機構へと改組)が9兆円の融資枠の中で貸し付けてきたのだが、新推計に伴い、融資枠も13兆5000億円、もしくは14兆円程度にまで拡大させるのだという。驚くべきことに、この融資は無利子で実行され、原資は国費、すなわち血税である。

 設立当初、支援機構の融資枠は5兆円でスタートしていた。それが9兆円へと引き上げられ、今度は14兆円である。

 最初は控えめな見積もり額を公表しておいて、世間のほとぼりが冷めた頃を見計らって、徐々に金額を釣り上げていく。実質上、上限額の歯止めもないため、“青天井の東電救済策”としての正体が早晩バレる――。

 そうなることは、融資した金の使い道を損害賠償費用か除染費用に限定していた原子力損害賠償支援機構を、廃炉資金の援助までできる原子力損害賠償・廃炉等支援機構へと変身させようとする目論見が発覚した13年12月の段階で、容易に予想できた。国民に受け入れられやすそうな「被害者への賠償費用を手当てするため」とのお題目を掲げて支援機構を設立させた原子力ムラの本音は、損害賠償費用よりもはるかに高額な「廃炉費用の捻出」だったのだ。

 その真意を見抜いた筆者は3年前の14年1月、「週刊プレイボーイ」(集英社)誌上で、「賠償や除染だけじゃなく、廃炉費用まで国民負担にする気か! 無尽蔵に国費を東京電力に注ぎ込む『東電“免罪”法案』を絶対許すな!!」と題する5ページの特集記事を書いた。以下にその主要部分を加筆・修正の上、抜粋して再録する。以下、時制や肩書などの内容は14年1月時点のものである。

 東電が被災者に対して行なっている損害賠償には、すでに3兆円もの巨額の税金が注ぎ込まれている。原子力損害賠償支援機構(以下、支援機構)法と、それによって設立された支援機構は、「賠償のツケを国民に回すためのシステム」といっても過言ではない。

 東電は支援機構から借金して賠償に充てている。そのため、賠償ではほとんど自腹を切らずに済んでいる。しかもそのカネは、支援機構が銀行に国債を買ってもらってつくったカネをそのまま貸し付けたものだ。

 東電は、その借金をなぜか「特別利益」として計上している。タネ明かしをすれば、すでに借りている3兆円以上のカネを借金扱いにすると、その瞬間に莫大な債務超過状態に陥り、倒産してしまうからだ。だから会計上は絶対に「借金」とは言わず、「資金交付金」と呼んで誤魔化している。国債の利息分さえ払っていない。資本主義社会下の日本の株式会社でこうした裏技が公的に認められているのは、東電をおいてほかにない。

 返済の原資は、国民の払う電気料金だ。大半の国民は選択の余地もないまま、「膨れ上がる国債の利息」と「値上げされる電気代」のかたちで搾り取られているのである。しかし、東電はこれでも満足せず、社員1000人のクビを差し出すのと引き換えに、国に対して「国費での支援拡大」をと、さらなるカネの無心をしている。なぜか。

 端的にいってしまえば、3兆円ももらったのにカネが尽きたからだ。汚染水対策の「遮水凍土壁」などの費用470億円を国から出してもらったくらいでは全然足りない。損害賠償、事故収束、廃炉、そして除染にかかる費用をすべて足せば、その合計金額は天文学的な数字となるのは間違いない。そしてそれが、福島原発事故の「総コスト」なのである。

 支援機構を使った“錬金術”にしても、東電が今や真っ当な方法ではカネを借りられなくなってしまったからこそ、苦肉の策として編み出されたものだ。会計上「借金」にすることが禁じ手なのだから、新規の枠でカネを貸せる銀行もそうそうない【注1】。

●青天井で国費を注ぎ込む「東電免罪法案」浮上

「これまでの日本ではさまざまな公害事件が起きましたが、その解決のために国がお金を出したことは一度もないんです。水俣病の際に企業にお金を貸したことはありましたが、あげたことは一度もありません。あげたらいけないんです。電力会社の間で『放射能汚染の公害事件であれば、国が全部面倒を見てくれる』とモラルハザードが起きて、次の原発事故を誘発しかねないからです」

 こう語るのは、東電の経営に詳しい立命館大学の大島堅一教授だ。そんな警告を無視するかのように、支援機構に廃炉費用まで面倒を見させようとする計画が浮上する。特定秘密保護法案をめぐる混乱で日本中が揺れる最中の、13年12月4日のことだった。

 その計画は、電力会社や原子炉メーカーでつくる国際廃炉研究開発機構(略称・IRID)を支援機構と統合し、支援機構が廃炉資金も援助できるようにする――というものだ。13年8月に設立されたIRIDの理事長には、原発推進派の急先鋒である山名元・京都大学原子炉実験所教授が就任していた。

 現在、支援機構が支援できるのは、賠償や除染の費用に限られているが、その限定を解除しようというのだ。こんなものが実現してしまえば、東電にはそれこそ青天井で国費が注入されるようになる【注2】。

 これが、東電が願う「国費での支援拡大」の正体だった。一体いくらかかるかわからないものを、すべて国費で負担することになる。原資はすべて国債の発行なので、ただでさえ1000兆円を超える借金に苦しむ我が国が、さらに傾きかねない話だ。

 こんな話を財務省がそのまま許すとはとても思えないのだが、13年12月4日付日本経済新聞電子版によれば、安倍政権は14年の通常国会で支援機構法を改正し、名実ともに「東電支援機構」とすることを目指していた。単なる法改正ではなく、その実態は、福島原発事故にからむ東電の支出を一切免除してしまう東電救済法であり、東電免罪法でもある。

 この法改正を歓迎するのは、何も東電ばかりではない。福島原発事故で失墜したいわゆる「原子力ムラ」もまた、青天井となった資金とともに“再稼働”を果たすのだ。

 ここで問題となるのは、カネの工面や廃炉を彼らの自由にさせたところで、事故収束を確実に達成できる確証が何もない――ということである。実際、事故発生からすでに3年が経とうとしている今、原子力ムラの学者や技術者たちからは、廃炉や事故収束に関する有効な手立てが何も提案されていない。万策尽きて、汚染水対策や廃炉に関するアイデアを世界中から募集している有様だ。ちなみに、そのアイデアの受付窓口は、支援機構と統合させるというIRIDである。

 東電は、私たち日本国民を破綻の道連れにするつもりだ。そこで、前出・大島教授とともに、賠償や事故収束に名を借りた「東電救済策」に潜む問題点を炙り出してみることにした。

●銀行は東電をすでに「実質破綻先」だと考えている

――東電救済策の問題点はなんでしょうか。

大島 東電1社が起こした原発事故のために、2013年10月現在ですでに7兆4280億円もの資金が投入されています。そもそも原子力損害賠償法というものがあったのですが、福島原発事故ではなんの役にも立ちませんでした。この法律で用意されていたお金が1200億円しかなかったからです。それで支援機構法なるものをつくりましたが、その仕組みには非常に無理がある。

――潰れそうな会社に銀行がカネを貸し続けるという、通常では考えられないことも起きています。

大島 やっぱり資本主義の原点に立ち返り、東電にきちんと支払わせるのと同時に、(銀行や株主など)ほかの関係者の責任もきちっと明らかにして、その責任に応じて損害賠償なり事故収束費用なりを分担する必要があります。たとえば、借金を棒引きにさせるなどです。

 原子力事業は本来、リスクが高い事業なのです。にもかかわらず、まるでリスクがないかのように振る舞ってきた。貸し手も責任を問われるのは当然です。

――13年にはやったテレビドラマに『半沢直樹』(TBS系)というのがありましたが、ドラマでは、120億円の損失を出した伊勢島ホテルが「実質破綻先」(実破)に分類されそうになり、半沢の勤める東京中央銀行が1500億円もの引当金を準備するよう金融庁から迫られました。同様のことは、東電と銀行の間でも起きないんでしょうか? つまり、金融庁から東電が「実破」に分類されないかということです。

大島 させたらいいと思います。実は今、陰でひどいことが進行しているんです。返済期限が来たお金を東電がいったん銀行に返し、また借りているんですが、改めて貸す時に銀行が「電力債」という名の私募債【注3】に切り替えさせているんですね。

 電力債に切り替えておくと、東電が倒産した際、原発事故の損害賠償に回るお金よりも回収が優先されるんです。これは電気事業法で決まっていることで、貸し倒れの危険が大変少なくなる。銀行はそれをわかった上で、電力債に切り替え始めている。つまり、「死んでも骨までしゃぶるぞ」というわけです。それは非常に反社会的な行動です。やめさせないといけない。

――銀行がこうした行為に走るのは、東電はもはや「実破」であると銀行自身が考えている証拠ですね。

 まさに「汚いカネ貸し」(『半沢直樹』に登場する国税局査察部統括官・黒崎の台詞)を地で行く話だ。そこで金融庁に、

(1)東電は「実質破綻先」に分類されないのか?
(2)金融庁は、東電の倒産に備え、銀行に引当金を積むよう命令しないのか?
 
と訊ねてみたところ、同庁の広報担当者は『半沢直樹』を見ていたのか、笑いながら、「個別の事案についてはお答えできません」と答えた。

 福島原発事故収束のために費やされた血税の総額は、すでに7兆円を超えている。赤ちゃんまで含めた国民1人につき約6万円の負担だ。4人家族なら、すでに25万円ほど払っている計算になる。支援機構を「東電支援機構」へと変身させる東電の野望が現実の話となれば、無論これどころでは済まない。

【注1】東電に対する金融機関の融資枠の上限は、全77社の合計で4兆5000億円(13年12月末時点)。13年12月末に実施予定の追加融資3000億円で、この上限に達するとされていた(13年12月16日付朝日新聞による)。

【注2】政府の原子力災害対策本部(本部長・安倍晋三首相)は13年12月20日、福島原発事故からの復興を加速するための新指針を決めた。これによると、東電の資金繰り支援策として次年度予算を使い、支援機構による交付国債枠を当初の5兆円から9兆円に拡大するとしていた。

【注3】少数特定の投資家に発行する債券のこと。

●「資本主義」を捨てたインチキ日本

 再録は以上である。ここまで原子力ムラの手の内を明かしても歯止めとはならず、原子力損害賠償支援機構は14年5月の支援機構法改正を経て、同年8月に原子力損害賠償・廃炉等支援機構へと改組され、今日に至っている。東電の株主や債権者はまったく損をせず、原発事故の責任を免れている。そればかりか、本来であれば東電が負うべき責任を、国民が肩代わりさせられている。

 資本主義国ではとてもまかり通るはずのない、ルール無視のトンデモ話である。こうしたやり方は、公害を発生させた企業が環境汚染の収束や公害防止のためにかかる費用を全額負担しなければならないとした「汚染者負担の原則」(PPPの原則)にも反している。このPPPの原則は、経済協力開発機構(OECD)加盟国においてはいわば常識であり、もちろん日本もこのOECDに加盟している。

 嘆かわしいのは、日本の経済官庁である経済産業省がこうしたトンデモ政策を主導していることだ。さらに嘆かわしいことに今の国会も、経産省の横暴をなんらチェックすることができずに素通りさせる“ザル議会”と化している。

 経産省は、「国民が事故対応費を負担しないまま、安い電気を使ってきた」との屁理屈をこね、未払い分の事故対応費を過去にさかのぼって国民が負担すべきと主張している。ならば、東電や原発から膨大な利潤を享受してきたステークホルダー(利益関係者)である、銀行や東電の大株主や原子力産業やゼネコンはどうなるのだ。彼らこそ、これまでの利潤を吐き出し、過去にさかのぼって事故対応費を捻出すべき存在ではないのか。どうせ資本主義のルールを無視するのなら、そこまで徹底しなければ筋が通らない。

 経産省が繰り出す屁理屈は、これにとどまらない。東電が支援機構から借金して払っている原発事故の賠償金は、原発を持っていない沖縄電力を除くほかの大手電力会社も負担している。そこで経産省は、電力自由化で生まれた新電力各社に対し、「原発事故を起こしていない電力会社まで賠償金を負担しているのだから、新電力も賠償金を負担すべき」と言い出した。新電力と契約して賠償金負担から逃れようとする不届きな国民の“逃げ得”は許さない――ということなのだろう。
 
 ならば、「日本の原発は決して大事故を起こさない」とウソをつきながら、日本中を原発だらけにしてきた経産官僚自身はどうなるのだ。新電力や国民に手本を示すべく、率先して給与等で賠償金を人一倍負担してみせるのが日本人としての美徳であり、気概の見せどころでもあり、本来あるべき姿だろう。だが、経産官僚個人の責任は棚上げにされている。自分は責任を取らないまま、国民にだけ責任を押しつける方便を編み出してなんら恥じることがない経産官僚たち。ずる賢いことこの上ない。

 そして、経産大臣が「原発のコストは安い」と、現実を無視して強弁する。日本の国民はとことん舐められ、バカにされている。

 だが、屁理屈であろうと「政策」として決まってしまえば、沖縄県以外の日本国内に居を構えている限り、どんな新電力会社と契約しようと、電気料金を通じた賠償金負担から逃れることができなくなる。

 筆者は、是が非でも賠償金負担から逃れたいと主張しているのではない。実際、筆者は今も東電に電気料金を払い続けている。問題なのは、原発事故を引き起こした張本人や、これまで原発でさんざん金儲けをしてきたステークホルダーの“逃げ得”のほうは、経産省が大目に見ている――ということだ。つまり、経産省が唱える「政策」はまったく公平でなく、モラルもなく、ただひたすらに東電と原子力ムラを温存するための悪巧みにしか見えない。

 日本は、原発の大事故ひとつで資本主義を捨て、お上の屁理屈が国民に強要される全体主義の国になったかのようだ。かつて「経済大国」とまで呼ばれた日本は、たかだか電気しか生み出せない原発ごときと心中するつもりなのか。
(文=明石昇二郎/ジャーナリスト)