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直近の2015年度決算では国内LCC3社が経常黒字を達成した。いよいよ日本に本格的にLCCが根付き、輸送シェアを上げていくことへの期待が高まってきたと言えよう。しかし、今後日本におけるLCCシェアが現在の10%から欧米並みの30%台に、そしてアジア平均の50%に向かうかと言えば、そこには大きなハードルがある。また、LCC各社の戦略にもそれぞれの事情からの差異があり、今後の課題も各社それぞれに異なるようだ。黎明期から本格的な競争期に入った日本のLCCの現状と課題を整理してみたい。

○中国で想定される価格競争

ピーチ・アビエーションは11月18日に新型機A320neoを10機購入する契約を締結、2020年までに35機体制にすると言明した。これに先駆けて11月1〜2日には関空/羽田=上海線を就航させ、2017年2月19日には沖縄=バンコク線を開設することを発表している。まさに"一人勝ちLCC"として破竹の勢いであるが、ピーチの今後にどのようなハードルが横たわっているのだろうか。

ひとつは、当然ながら新規開設の国際線事業の成否である。これまでの香港、台湾、韓国という西側国とは異なり、相手は中国である。競争の厳しい上海線は低価格ニーズのインバウンド旅客を切り取ってこられれば採算を取れるだけのボリュームがある一方、相手は価格競争を厭わない中国エアラインだ。

自国のインフラ事情から、中国エアラインの座席キロあたりコストは東南アジアより高めとされているが、まずは観光旅客の奪い合いとなろう。中国東方航空や中国南方航空以外に、春秋航空、吉祥航空などのLCCと上海マーケットの競合プレイヤーは多く、往復2万円台(2017年1月上旬搭乗分価格)のせめぎ合いになることが考えられる。

中国国際航空は過去、中部=北京線でエティハド航空と法人・団体客をめぐってしのぎを削った時にも、「相手がどれだけの価格を提示しようが、それより数千円安くする」と断言。相手に価格競争が無為であると思わせるまで、採算度外視で法人値引きを続けたこともあるのだ。本気で中国エアラインが相手を排除しにかかると大変だ。

ピーチが中国で成功するためには個人インバウンド旅客の取り込みが不可欠だが、中国人の航空券購入パターンではまだ旅行代理店依存度が高いため、すぐにネットだけで座席を売り切るのは難しいかもしれない。現地での自社販売体制の確立にはまだ時間を要することから、当面は中国で知名度を上げつつ、低価格志向の日本人旅客をJAL/ANAから取り込むことが主体になるのではないか。

○バンコク=沖縄線の課題

また、バンコク=沖縄線は現在、直行便を運航する会社はなく、沖縄県の民力(それだけ日本発タイ行き需要を生み出せるか)や、タイ人のビーチリゾート嗜好(温暖地から温暖地への観光需要があるか)には不透明さが拭えない。そのため、この2地点間の需要で路線を成り立たせるには不安が残る。

現時点のダイヤを見ると、バンコクから日本国内への乗り継ぎは成田行き/関西帰りという片側便しか接続できない。沖縄での宿泊を伴う日本観光ツアーといった商品が、どれだけタイ人観光客に浸透するかが成功のカギとなるだろう。ピーチの上海/バンコク新路線は、従来のビジネスモデルと比べると営業面のハードルが高いと言えよう。

とは言え、低価格・高稼働に生きるLCCとして成長を続けるためには、ピーチは既存路線での収益性がほぼピークに達していることから、今後も事業規模の拡大を続けることが宿命である。とりわけ、ピーチ経営陣は機関投資家である香港のファーストイースタン・インベストメントグループ(FE)と、産業革新機構のエグジットを成就しなくてはならず、今後の株式公開を見据えてどのような経営戦略が取られるのかは非常に興味深い。

企業価値の安定・高揚を視野にANAがピーチを連結決算に組み入れるとの見方もあり、「ANAに縛られない自由な経営」をDNAとしてきたピーチが、今後どのように変わっていくのか見守りたい。

次回は、100%ANA資本のバニラエアについてである。

○筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。

(武藤康史)