上武大学が9度目の箱根駅伝に挑む。目標は10位以内に与えられる次年度大会のシード権の獲得だ。過去8大会もそこにチャレンジし続けてきたが、ことごとく跳ね返されてきた。しかし、近藤重勝監督は「力を出し切れば十分に可能だと考えています」と自信を見せる。

 この春、花田勝彦前監督(現GMOアスリーツ監督)からその職を引き継いだ。それまでもコーチとしてチームを指導していたため、「近藤新体制」へはスムーズに移行したが、前年度の箱根は最下位。今季の戦力についても周囲の評価は決して高くなく、10月の箱根予選会も通過を危ぶむ声があった。

 しかし、その下馬評を見事に覆し、今大会の出場権を獲得。現役時代にオリンピックに2度出場した花田氏に比べると、キャリアの華やかさでは負けるかもしれないが、選手の力を引き出す手腕が確かなものであることを証明してみせた。

「今年度は箱根経験者も多く残り、能力の高い選手がいたので、練習さえしっかりできれば予選会を通過できると考えていました。周囲の評価が低いことは理解していましたが、選手がプレッシャーを感じることなく走れたので、いい方向に作用したと思います」

 今季のスローガンは「伝統と革新」。前監督時代に作り上げた良さを引き継ぎながらも、新監督らしく、新たな強化の機軸を打ち出してきた。最も大きな変化は、ペースの速い練習の頻度を減らし、しっかり走り込む時間を増やした点だ。

「ペースの速い練習が多いと、そこについていくのがやっとになってしまい、試合前に選手が疲弊してしまいます。それでは大切なレースで力を発揮できませんし、何より故障のリスクも高くなる。

 中には速いペースの練習をメインにして力を伸ばす選手もいますが、私たちの大学はじっくりやったほうが合っている選手が多いと考え、ベースとなる練習を積み上げ、その合間にペースの速いトレーニングで刺激を入れていくことにしました。単純に練習での走行距離を増やそうというものではなく、練習の割合を変えたということです」

 さらに、試合で力を発揮するための取り組みとして、メンタルトレーニングをチームとして取り入れた。ラグビー日本代表へのサポートで実績のある、メンタルトレーニングコンサルタントの荒木香織氏を招いて、定期的に講習会を実施している。

「うちは高校時代に実績を残している選手が少なく、成功体験の乏しい者が大半です。そのため、練習がしっかりできても、試合でなかなかそれを発揮できない。その弱さを改善するためのトレーニングが必要だと考えました。具体的には、スタートラインに立った時に迷いがなくなるように、どのように準備していくかを提案していただいたり、自分で考えられるように刺激をしていただいたりしています」

 どの大学も、フィジカルトレーニングについては外部の専門家を招くなど体系的に行なっているが、メンタル面の強化をチーム単位で行なっている例はまだ少なかった。心技体の心の部分に目をつけた近藤監督のアプローチは、まさに革新的といえる。

 そして、近藤監督の指導の特徴は調整力の高さだ。10月の箱根予選会は6位で通過。それ自体も見事だが、チーム上位10名はほぼ近藤監督の想定通りのタイムで走り、大きく崩れる者がいなかったことは大いに評価すべき点だ。

「試合に向けた調整はオーソドックスで、特別な対策はしていません。ただ、日頃から選手には『今、何をすべきか』を伝えるだけでなく、『どのような流れで、試合まで調子の波を上げていくか』を伝えています。そのイメージを選手と共有することで、選手自身の意識も高くなり、全体練習以外での取り組みも変わってきました。逆の言い方をすれば、それを考えて実行できる選手が、今の主力となっています」

 コーチ時代から選手と共に寮生活を送る近藤監督は、選手にとって身近な存在であり、兄貴分に近い存在だと上武大関係者は言う。だが、選手起用に関しては選手の可能性や潜在能力に期待するのではなく、あくまで練習での達成度を重視して決める。いつも柔和な笑みを絶やさない近藤監督だが、選手を見る目は厳しい。

 その近藤監督が、悲願のシード権獲得のために今年の箱根路に向けて思い描く戦略は、いったいどのようなものなのか。

(後編に続く)

加藤康博●文 text by Kato Yasuhiro