12月24日の全日本フィギュアスケート選手権男子フリー。最終滑走者として演技を終えた宇野昌磨は、その瞬間に流れ出した涙のわけをこう説明した。

「グランプリ(GP)ファイナルのあと、コンビネーションジャンプの練習をかなりしてきたのに、今回のショートでコンビネーションにしようと思ったジャンプをすべて失敗していたので......。それで昨日からすごく落ち込んでいましたし、今日のフリーも後半のトリプルアクセルと4回転トーループに(コンビネーションを)つけられなかった。でも、次の3回転ルッツに2回転トーループをつけて、トリプルアクセル+1回転ループ+3回転フリップも跳べました。ただ、次の3回転サルコウにトーループをつける練習はファイナルが終わってから毎日やっていましたけど、それを試合でやるとは思っていなかった。でもサルコウを跳んだ瞬間、樋口先生に『行け!』といわれたのでとっさに3回転トーループを跳んだら、それがいいジャンプになりました」

 今回の全日本は、GPファイナルのあと、フリープログラムのジャンプのすべてをコンビネーションジャンプにする練習を積んで強化に取り組んできた。

「3回転サルコウを跳ぶ瞬間はコンビネーションにするスピードまでにはなっていないと思い、単発にするつもりでした。だから、あそこで樋口先生の声に反応せず3回転サルコウだけで終わっていたら、その後の涙はなかったと思います。頑張ってきたことが無駄じゃなかったというか、努力したことや頑張りが報われたということが、すごくうれしかった」と話した。

 前日のショートプログラム(SP)で、宇野は最初の4回転フリップで着氷を乱し、3回転トーループをつけることができず、次の4回転トーループでは転倒して88・05点の悔しい2位。トップはノーミスの演技をした無良崇人だった。

 SP首位の無良は、「ショートが終わった時点で昌磨が2点差で追いかけてくる状況だったので、優勝を考えるよりも自分がどれだけまとめあげて対抗できるかと考えていた」と、冷静だった。その無良のフリーの演技は、最初の4回転トーループと次の4回転トーループ+2回転トーループ、トリプルアクセルを確実に決める順調な滑り出し。

 だが、4回転を回避して3回転にしたサルコウを跳んだあと、後半に入ってすぐのトリプルアクセルが2回転半になってから狂いが生じた。次の3回転ループをトリプルアクセルに変更したが着氷が乱れてセカンドをつけられず、その後の3連続ジャンプも最初の3回転フリップがダウングレードになり、最後のジャンプのルッツは2回転とミスを連発してしまった。

 無良は、羽生結弦が欠場したなか「自分たちがトップとして戦い、自分たちが全日本選手権を作り上げていかなければいけない」と考えていた。SPの得点差を考えれば、宇野に逆転される可能性が高いと思いつつ、その戦いをより熾烈なものにしなければいけないという気持ちが強すぎたのだろう。

 そんな状況で、宇野が最終滑走者として登場。普通に滑れば優勝は確実。だが宇野は、自分の調子がいいという確信がありながらも、気持ちをうまくコントロールできなかったSPの失敗を引きずっていたという。

「朝の公式練習まではひどく落ち込んで、引きずっていましたけど、悔しいとか、つらいと思い過ぎて疲れてしまったので、もうどうでもよくなってきて。とりあえず楽しもうという気持ちに至りました。それで、氷の上に立って、笑顔を作ろうと思ったけど、何か笑顔なのか鬼気迫っているのかわからないような顔になってしまった」と笑う。

 その演技から滲み出ていたのは、強い気持ちだった。動きにメリハリがあり、力強さを感じさせる滑り。最初の4回転フリップと4回転トーループは回り過ぎた状態でステップアウトをしたが、動揺する気配を見せずに乗り切ると、ステップはキレのある滑りでGOE加点を稼いだ。

 後半に入ってからの4回転トーループは両足着氷になってセカンドをつけられなかったが、そこからのジャンプをコンビネーションにしてカバー。192・36点を獲得して合計280・41点で全日本初優勝を決めた。

 宇野本人は意識していなかったと言うが、今回は勝つことを義務づけられた戦いだったといえる。「やるぞ! という気持ちは出せたんじゃないかと思う」と言うように、まさに気持ちで乗り切った演技だった。

「自分ではプレッシャーを感じていないと思っていましたけど、ショートが終わったあと、周りからスピードが出ていなかったといわれたので、フリーでは最初からスピードを出すことを意識しました。全日本初優勝を果たしましたが、それで自信がついたというよりも、自信をなくした方が強いというか、今回は自分のメンタルの弱さを気づかせてもらえた。あまりいい演技ではなかったですが、タイトルを獲れたことはすごくうれしいです。課題としてきたことをこの大舞台でひとつできたこともすごくうれしかった」

 こう言う宇野は、「すごく体調がいいときに気持ちをマッチさせるのは難しいと思いました。ジュニアの時は勢いだけでやっていけるけど、シニアになったときはそこが一番苦労する点だと思いますし、今回それを痛感しました。トップの選手はその調整がすごくうまいので本当に尊敬していますし、僕も早くそれができるようにしたいと思います」とこの大会を振り返った。

 彼にとって、誰もが「宇野が勝って当然と」と見ている状況でキッチリ勝ちきった経験は大きいはずだ。大きなプレッシャーを乗り越えられることができなければ、世界のトップに挑戦する権利を手にできないからだ。

 たしかに、羽生結弦の欠場という点は残念な大会ではあったが、19歳の宇野の成長という面で大きな意味のある全日本選手権だった。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi