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●嘔吐や言語障害など、さまざまな初期症状
多くは良性のタイプが多いものの、膠芽腫(こうがしゅ)に代表される、余命の少ない悪性タイプの症例もある脳腫瘍。自分の命を守るのはもとより、家族や友人などの親しい人を失わないためにも、「もしもの場合」に備えて脳腫瘍の初期症状や原因について理解を深めておくことは大切だ。

本稿では高島平中央総合病院脳神経外科部長の福島崇夫医師の解説をもとに、脳腫瘍の初期症状や原因を紹介する。

○主だった初期症状

脳腫瘍は細かなものも含めれば数十種類以上あるが、「神経膠腫(しんけいこうしゅ)」「髄膜腫(ずいまくしゅ)」「下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)」「神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)」の4つで発生頻度の大半を占める。種類が豊富なだけに疾病の初期段階に現れる症状も多岐にわたるが、主だったものをまとめたので参考にしてほしい。

■慢性的な頭痛

脳腫瘍は成人が発症する場合がほとんどだが、中には神経膠腫のように小児が罹患(りかん)するものもある。子どもがなる悪性腫瘍の代表例に「髄芽腫(ずいがしゅ)」があり、その初期症状の一つが頭痛だ。髄芽腫の症状が悪化してくるとけいれんを起こす場合も。治療は腫瘍を取り除いた後、放射線治療や化学療法を行う。悪性ではあるが、近年は治療成績が上がってきている。

■視神経の異常

眉間の奥あたりにある下垂体に腫瘍ができる下垂体腺腫では、視神経が圧迫されて物が見えづらくなったり、視野が狭くなったりすることがある。

■言語障害

言語領域の神経が圧迫され、相手の話している内容が理解できない「感覚性失語」のような失語に陥ることもみられる。この失語のせいで、精神科医を経由して脳腫瘍が発見された事例も少なくないと福島医師は話す。

「言葉数が減ってきてふさぎがちなため、ストレスなどでうつになったのかもしれないと精神科を受診され、薬を処方したとします。それでも症状がどんどん悪化していき、さらに話していることもつじつまが合わなくなってくるとなったら、ますます精神疾患を疑われるかもしれませんが、よく調べてみると脳腫瘍による感覚性失語が原因だったというケースはあります」。

■聴力低下

神経鞘腫の一種である前庭神経鞘腫では「最近、電話で相手の声が聞き取りにくくなった」などの聴力低下や耳鳴りといった初期症状が確認されている。

■原因不明の嘔吐

頭痛同様、髄芽腫の初期症状の一つとして嘔吐が特徴的。嘔吐は一般的には急性腸炎などの消化器疾患で認められることが多く、特に小児では感染性胃腸炎などで嘔吐を生じやすい。

ところが腫瘍によって脳が圧迫されると、水頭症を併発し頭蓋内圧が上昇することで嘔吐が生じる。また小児によっては頭痛をうまく言葉で説明できず、そのまま放置しておいたら嘔吐を繰り返し病状が進行してしまうケースも少なくないという。

○ポイントは「症状の進行」

以上のように脳腫瘍はさまざまな部位で初期症状が起こりうる可能性がある。単なる視力低下や頭痛などの症状と、脳腫瘍起因によるものとの違いを見分けるポイントとして、福島医師は「症状の進行性」を挙げる。

「頭痛といえば、よく知られている病気として片頭痛があります。片頭痛ではその前兆として視野異常が出現することがありますが、この場合は一時的なものなので時間が経つとよくなります。それに対して下垂体腺腫などの脳腫瘍の場合、視野が徐々に欠けていくので発症当初は気づきにくいことがありますが、いったん症状を自覚するとよくなることはなく、徐々に視界が狭くなるのが特徴です。脳腫瘍に伴う頭痛では、いったん痛みが出てから次に頭痛が起きるまでの間隔が短くなりその頻度が増えてくるとか、当初効いていた鎮痛剤を内服してもよくならない痛みになるとかがそうですね」。

このように症状が進行性で悪化していくのが脳腫瘍の特徴。ただし、片頭痛の患者でも似たような症状を訴えるケースもあるため、迷ったら専門医に相談するとよい。

●脳腫瘍の直接の原因は不明だが……
初期段階の兆候も重要だが、一方で脳腫瘍の原因もきちんと理解しておく必要がある。例えば、脳出血は塩分やアルコールがリスクファクターとなるため、塩辛い食品やお酒を控えれば自ずと罹患リスクを低減できる。

翻って脳腫瘍はどうかというと、福島医師は「脳腫瘍に特異的な原因はなく、『これをすれば脳腫瘍になりづらい』といった行動はありません」と話す。特殊な遺伝子を持っている一部の人たちの間では脳腫瘍が遺伝するケースもあるそうだが、その原因の多くはなぞのままとなっている。

ただ、一般的に腫瘍の成長を促すとされている「NG項目」は、脳腫瘍にも共通する。日常生活における注意すべきものとしては、「過度のストレス」「脂肪分の多い食品」「喫煙」などがある。該当する人はライフスタイルを変えるなどして、気をつけた方がよい。

○認識を改める必要性

がんになった際によく語られる「5年生存率」を脳腫瘍に置き換えることは難しい。タイプが数十種類もあるし、それぞれでグレードも異なるためだ。例えば、良性の髄膜腫ならばその確率はI〜IIIのいずれのグレードでも約9割だが、平均余命が1年の膠芽腫(神経膠腫のグレードIV)の場合は、そもそも5年間の生存を確認することすら難しい。

だが、どの腫瘍であれ「早期発見の重要性」は揺るぎない。福島医師は「脳腫瘍は本当に症状から決めつけないほうがいい」と、取材中に何度も強調して話してくれた。頭の痛みや視力・聴力の低下……。脳腫瘍の兆候はどこに現れているかわからないからだ。

頻繁に頭痛に悩まされていれば、「どうせいつもの頭痛だろう」と私たちは自己判断しがちだ。特に年齢を重ねるほどそれらの症状に慣れが生じ、経験則で「大したことはない」と決めつけてしまうだろう。

どんなささいな症状であれ、心身に不調があるときは大きな病につながりかねないという危機感を、私たちは今一度認識する必要があるのかもしれない。

○記事監修: 福島崇夫(ふくしま たかお)

日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。

(栗田智久)