「社会的手抜き」を回避するチームワーク

写真拡大

■違いを生かしてチャンスを生む

「自分がいちばん賢いと感じたら、それは居場所を間違っている」

世の中には、自分より優れた人間というのは数多くいるものだ。そんな人たちの中で学ぶほうが、自分を磨きあげることができるはず。

周りの人をそんな視点で見渡して、地位、肩書、人脈、資金繰りなどではない“長所”を見つけ出し、少しずつプロジェクトなどに引き込み生かすといった考え方をしてみよう。すると、まったく違った角度からの意見が得られ、今までにない科学反応をも生み出せるかもしれない。そこから新たなビジネスチャンスが生まれることだってあるはずだ。

フォーブスなどでコラムニストを務めるカレン・アンダーソンは、コラムを書くときにできるだけ多くの分野の人にふれる経験から、こんな風に語っている。

「チャンスを生む人たちは、自分と人が“違うこと”を怖がらず、むしろそこに魅力を見出して人脈を広げます。共通の興味や行動で周りとつながると、その前で起こる素敵なことをどんどん見つけられるようになるものです」

いつもとは少し異なる世界に足を踏み入れて、違う分野の人と共通の関心事を見つけたら、互いのいいところをつなぎ合わせることを模索して、相互のステップアップにつなげていく。それはたとえば、営業とエンジニアのコラボレーション、酒蔵メーカーと化粧品会社が組んで新しい商品を生み出す……など、日常使っている言葉も違うような分野がタッグを組むということ。今までにはない人間や組織が組み合わさり、新しい発想を生み出していく例だろう。

では、こうして共同作業をしていくときに大切なこと、また盲点になりえるのはどんなことだろう。

■共同作業の落とし穴「誰かがやるだろう」

理屈で考えれば、一般的には共同作業のほうが効率はいい。複数人が一緒にアイデアを出し合うことで、いろいろな視点が得られ、さまざまな穴も埋められる。それによって、すぐれた発想が生まれ、解決策も見つかり、互いに間違いの指摘もしやすくなる。ただ人数分のアイデアの足し算ではなく、混ざり合うことで新しい発想が生まれ、相乗効果につながりそうだ。

ところが複数の人が同じ作業をするときには、簡単な作業では効率が上がるものの、難しい作業ではかえって効率が下がるとされている。特に、アイデアを複数で出し合うと、たくさんの考えは出てくるものの、各人が深く掘り下げる思考の精度が下がってしまいがちだ。さらに、手作業などは大勢で作業をすると、人数が増えるにつれて一人当たりの作業量や質が低下してしまうことがある。

これが「社会的手抜き」と呼ばれるものだ。特に、みんなの仕事をあわせて結果となる合算的な課題のときに起こりやすい。簡単に言えば「今日中に何枚つくろう」といった作業のときだ。たとえばこれを綱引きでみれば、綱を引く力を1人のとき100%なら、2人のときに1人あたりの力は93%、3人なら85%、8人では49%にまで減少するといったもの。それから、サッカーなどで相手チームのほうが退場者を出しているのに、全員残っているチームのほうが精彩を欠くようなときも、これが要因のこともある。

こうして精度が落ちたり、手抜きが起きたりする背景には次のような原因があげられる。

A.内輪だけで過信:自分たちだけで慣れきって、外とのずれに気づかない。
複数人で何かを決定する作業をしているうちに、自分たちのしていることを過信して、判断力が鈍ってしまう。結果、外からの意見や情報には否定的な反応を示すようになり、間違った結論に至ることもある。

B.多数派に流れる:意見を問われて、つい多数派にまわる。
協調や同調のプレッシャーが生まれ、仕事の質よりもチームなどの関係性に重きを置くようになる。すると、たとえ自分は違うと思いながらも、多数派の意見に賛成しやすい傾向が出てしまう。

C.他人まかせの意識:たとえば、前に出てプレゼンをしている人に作業のほとんどをまかせてしまうなど。
他にも参加している人がいる状況では、他人を当てにしやすくなり、「誰かがやるだろう」とみんなの責任感が薄れる。結果として、できるだけ自分の労力を少なくしようとして怠慢を生む。

みんなで作業することで責任が拡散したり、お互いの調整がうまくできなかったり、といったロスなども挙げられるだろう。そして、何もしていなくても単純に自分が生産的であると錯覚をしがちになる危険性をはらむというわけだ。

では、共同でより生産的になるためにはどうしたらいいのだろうか。

■社会的怠惰や同調プレッシャーを取り除く

共同で作業をするときに効率や生産性をあげる対策を考えていくと、次のように責任の境界をはっきりすることが挙げられる。そこで大切になるのは、自分と違う視点や立場の人の考えに耳を貸すことだ。

1.自分と違う分野・新しい視点の人をチームに入れ、弱点を補う
多角的な視点・発想が得られ、偏りがなくなる。

2.それぞれの役割をはっきりさせる。
責任を持つ分野・貢献すべき内容が明確なら、責任感から怠け心がなくなる。

3.自身の能力や貢献度を評価する機会を与える。
自分の力をいかしやすくなる。

4.個々人の成績や能力を、確認できるようにする。
自身の活躍を認めてもらえる。

5.課題を魅力のあるものにする。
モチベーションを高め、やる気につなげる。

複数人での共同作業になったとき、まず発想はひとりひとりでするほうが効率的だとされる。前述したように、ひとりが考えを掘り下げていくほうが深く考えられるからだ。さらに、大勢で考えると各人で発想する数が減ってしまうというデータも見られるため、会議はアイデア出しの場ではなく、アイデアを持ち寄ってそれについて意見を交換する場とする。各人の考えをもとに、みんなでそれを磨き上げるほうが生産性は高い。

作業は、各人の責任の範囲を曖昧にせずにはっきりと自分がやらないと終わらない状況に分担して、最後に合わせることにする。こうした意識をもつだけで、共同作業でただの足し算以上の相乗効果が期待できるようになる。

そして、最初に立ち返って“違い”を恐れることなく取り入れて、異なる分野の人とコミュニケーションをとっていくこと。たとえ釣りでも、飲み屋でも、同郷でも……ひとつの共通のとっかかりを見つけたら、互いの長所を生かしながらつながれば新しい考えが自分に吹き込まれる。それを続けるうちに、共通の達成したい目的が見えてくるかもしれない。

[脚注・参考資料]
Karen Anderson, Be an opportunity maker, TED Sep. 2014
NHK「大心理学実験」関連情報、 日本社会心理学会広報委員会サイト

(上野陽子=文)