「我々は全員がベルリンっ子だ」

 12人が死亡し48人が重軽傷を負ったドイツ・ベルリンでのクリスマス市へのトラック突入テロを受けて、フランスのブルノ・ルルー内相は12月19日、ベルリンの犠牲者への連帯をこう表明した。

 国民に向けて「年の瀬を迎えて全警官隊が動員されている」と安全を保障するとともに、「用心」することも呼びかけた。

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人手の多い場所を避けるパリ市民

 ルルー内相は同日、フランス東部ストラスブールで開かれるフランスで最も古いクリスマス市を視察した。

 フランスではクリスマスの季節、パリの中心街シャンゼリゼ大通りをはじめ、各地でクリスマス市が開かれ、大勢の地元民や観光客でにぎわう。シャンゼリゼ大通りのクリスマス市には毎年、約130万人が訪れる。

 今年は7月14日の南仏ニースでのトラック突入テロ(死者86人、重軽傷者400人以上)の教訓から、人出の多いクリスマス市は重点的に厳戒態勢が敷かれた。シャンゼリゼ大通りでは、周辺の道路に重さ1.5トンのコンクリ―ト製の台座60個を設置してトラックの突入を防ぐと同時に、軍隊や警官約1000人が常時パトロールしていた。

 フランソワ・オランド大統領は12月21日、内相、国防相などと国防諮問委員会を開き、フランスでテロの脅威が高いことを警告した。同時に、警戒計画の水準は「極めて高い」と述べ、万全の警戒態勢をアピールした。

 ベルリンでのトラックを使ったテロは、フランス国民にニースでのテロの悪夢を蘇らせている。

「家族全員でクリスマス市に行こうと思っていたが、行くのが怖くなった」「クリスマスイブには必ず教会のミサに行っていたが、今年は中止して家で過ごす」など、パリ市民からは人出の多い場所を避ける声が聞かれる。

 来春のフランス大統領選を半年後に控え、「治安」が失業と同様に争点の1つになることは間違いない。

即座に反応した極右政党の党首

 ベルリンの犯人は当初「パキスタンからの難民」と報じられた。それに即座に反応したのが、大統領選に出馬している極右政党「国民戦線」(FN)のマリーヌ・ルペン党首だ。

 ルペン氏は早速「国境線を今すぐ再構築せよ」と主張し、従来から提案している「シェンゲン協定」(加盟国の間でヒトやモノの往来を自由にする協定。EUの大半の加盟国とスイスなどが加盟している)の廃止や、EUからの離脱を訴えた。そして、メルケル独首相の大量の難民受け入れ政策も暗に批判した 。

 ベルリンの犯人が実はパキスタンからの難民ではなく、ニース・テロの犯人と同様にチュニジア人である可能性が高いことも、移民排斥を唱えるFNを勢いづかしている。

 こうしたFNの反応には、「死体を食い物にして生きるハゲタカ」(映像作家ラファエル・グリュックスマンのツイート)など非難が殺到している。

 だが、テロリストが大量の難民とともに欧州に潜入していることは事実だ。また、EUの決定は欧州委員会や欧州議会の承認などが必要なため、遅れ気味なことも否めない。

 7月のニースのテロは単独犯による犯行とみられていたが、その後の捜査で共犯がいたことが判明している。12月16日に拳銃などを供給したとの共犯容疑でアラブ系の移民3人(31、24、36歳)が収監され、本格的な取り調べが開始された。

 3人のほかに、すでに6人が共犯容疑で本格的取り調べを受けており、「IS」のテロ組織の網の目がフランス中に張り巡らされていることが確認された。この中には若いアルバニア人夫婦やフランスとチュニジアの二重国籍者などが含まれている。捜査筋によると、「いずれも、イスラム教に急激に感化されると同時に、超暴力的な行為であるテロに魅了された」のだという。

 実行犯のチュニジア人の携帯電話には、4月4日にイラク、シリア周辺から発信された「トラックを用意し、2000トンの鉄を積み、ブレーキ装置を切断して突っ込め。見ているぞ」というISからの指令も記録されていた。

厳戒態勢の中で迎える年末年始

「ドイツ、ベルギー、フランスは、テロが発生する可能性が高い三大国だ」(ストラスブールの政治研究所のテロ専門家ジャン=シャルル・ブリサール氏)と指摘されている。

 シリアに渡ったドイツ人は今年だけで約800人に上る。そして、その中の何人かはテロ実施のためにヨーロッパに戻ってきている。2013年以来、ドイツでは17件のテロ未遂事件が発生している。

 12月15日には、2015年11月のパリ同時多発テロの犯人の1人で、パリ郊外の競技場スタド・ド・フランスで自爆したテロリスト(20歳)の母親がラジオに登場した。その母親が語ったところによると、ブリュッセルで学生生活を送っていた移民2世の息子は、2014年2月のある日、シリアに出発し、再会したのはパリの死体置き場での身元確認だったという。

 クリスマスはキリスト教の最も大切な行事の日であり、テロリストにとっては「攻撃するのに最も効果的な標的」(同)となる。クリスマスから年末年始にかけての時期を、欧州の人々は厳戒態勢の中で迎えている。

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筆者:山口 昌子