2015年9月、人民軍の軍事パレードに姿を見せた習近平・中国国家主席(Kevin Frayer/Getty Images)

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 10月27日に閉幕した中国共産党第18回中央委員会第6回全体会議(6中全会)で、習近平国家主席は「核心」の指導者と位置付けられた。それから半月も経たずして、習政権は「監察委員会」(以下、監察委)を設立し、北京、山西省、浙江省をモデル地域に指定して国家監察体制の重大政治改革を打ち出した。

 「監察委員会」とは、行政と検察にある監察部門と党内の紀律検査部門(中紀委)を統合して、公的権力を行使する全ての公務員の汚職を一元的に監督する国家管理機構であり、王岐山・中紀委書記がそのトップ責任者に任命された。

 監察委の設立は、実は習政権の「一石多鳥」の政治戦略であり、その狙いと真意について、大紀元系列の週刊誌「新紀元」は分析する。

1.中紀委の権限を党外まで拡大し、国家レベルの監察権を確立する

 時事評論家の倫国智氏は、今回の監察体制の改革で、現状では党や政府の複数の機関が担っている反腐敗監督業務を 、中紀委の管轄する監察委に統合することにより、実質的に中紀委の権限が拡大されることになると論じた。監察委は人民代表大会(国会に相当)の承認を経て設立されているため、体制内部においても合法的な権力を有することになり、建前上は共産党の内部機関にすぎない中紀委に比べて、その正当性が裏付けられることになる。

 倫氏はさらに、今のところモデル地域は3か所にすぎないが、その後全国展開される見通しとなっており、2017年に開催予定の中国共産党第19回全国代表大会(19大)までに、全国で本格的に実施されることは間違いないと分析している。

 つまり、今回の改革の大筋は、監察権を統合して、中紀委の権限を党外まで広げ、モデル地域で監察委を試運転し、さらにそれを全国レベルで実施するというものであり、その最終的な狙いは正式な国家監察体制を確立するところにあると推測される。

2.王岐山を19大以降も政権の中枢に留任させる布石

 時事評論家の石実氏は、習政権が来たる19大の前に王岐山を監察委の責任者に任命し、モデル地域に対する監察体制改革を実施しようとする目的を、次のように分析する。

 まず、現行の煩雑な反腐敗部門を統合し、管理系統を分かりやすく簡略化することが挙げられる。次に、監察体制の統合によりその権力が強化されることで、江派の腐敗官僚の一掃に拍車をかけることも見据えている。そして重要なことは、19大以降も王岐山を政権の中枢に留任させるため、しかるべき重要なポストを与える必要があることだ。

 ワシントンの中国問題専門家、石蔵山氏もまた、習主席は国家監察制度を全国規模まで速やかに拡大させると共に、19大までに「国家監察法」を制定し、王岐山を責任者とする国家監察委員会を設立させて反腐敗運動を引き続き推進させるだろうと予測している。

 

 だがそのためには、まず「七上八下」という不文律の問題をクリアしなければならない。「七上八下」とは、68歳を迎えた政治局常委は次期常委にはならないという決まり。これは、かつて江沢民と曽慶紅が、影響力あるが非江派の常委を政治局から追い出すために作り出した不文律である。

 来年の19大には、張徳江、劉雲山、張高麗、兪正声、王岐山の5人はいずれも68歳を超えることになり、政治局の「七上八下」の不文律に従えば、5人全員は常委を辞職することになる。

 現在の中南海情勢に詳しい人物によると、習主席は「七上八下」の不文律を利用して、政治局にある江派常委「二張一劉」を追い払おうと同時に、特例をもって王岐山を指導者層に留任させる布石もしている。

 習主席は監察委を設立させ、そのトップという重要な役職を王岐山に与えることで、「反腐敗運動に対する貢献度の高さを考えると、監察委の責任者は王以外に考えられない」という理由で、十九大で「特事特弁(特殊事情につき特別に処遇する)」の手続きを踏まえて、王を政治の中枢に留任させることができる。

 以上のことから、倫氏は習主席が監察委を設立させる理由を、明らかに王岐山を十九大以降も政治局常委に留任させるための準備だと論じている。

3.大統領制への移行を見据えた「監察権」の樹立

 国家監察体制が本格的に実施された場合、中央政府には人民代表大会(立法)、政府(行政)、司法部門(裁判所と検察院)、そして監察委で「四権分立」が存在することになる。

 西側諸国では、司法、立法、行政による三権分立の民主主義体制が敷かれており、三権は互いに独立し監督し合うことができるから、単独した監察権は存在しない。一方、民主主義国家では、言論の自由や報道の自由が認められているため、マスコミがある程度政府を監督する役割を担っている。そのため、西側諸国ではジャーナリストが「無冠の帝王」として、分立した三権に次ぐ第四番目の権力を行使している。

 倫氏は、習主席が手中に収めている権力は、中国共産党の専制政治に立脚したものであるため、現時点では、習主席は現体制下で許されていることしかできないと説明している。党の政策方針は、憲法よりも上位にあるためである。また共産党の一党独裁政権においては、全てのメディアは党の代弁者にすぎないので、第四権などというものはそもそも存在しない。

 今回、習主席が政治改革を実施するにあたり監察権を成立させ、「習近平を核心とする党中央」という旗印のもとに、四権分立の骨子を作ろうとしているのは、将来的に共産党中央政治局常委という政治管理制度を廃止し、共産党を捨て去り、党機関を解体したとしても、できる限りスムーズに立憲政治へと移行できるよう、現行体制に代わるしかるべき国のシステムを構築、準備することを目的としており、大統領制への移行をも視野に入れていると考えられる。

(つづく)

(翻訳編集・島津彰浩)