『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』多田文明(著)プレジデント社刊

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■ワルは「検索する人々」を罠にはめる

甘い蜜の周りには、蜂や蝶たちが群がる。詐欺や悪質商法を行う者らもまた、多くの人に蜜の香りを放ち、人を引き寄せようとする。

今、横行しているのが、「キーワード検索」を利用した手立てだ。

困りごとがあると、ネットで調べる人は多いことだろう。たとえば、以前、アダルトサイトに誘導しての身に覚えのない請求をする業者の実態について書いた。

アダルトサイトなど見てもいないのに「登録料が◯万円」「延滞金が◯万円」との請求がメールで寄せられ、そうした知らせをスルーしていると「法的な手段に出る」「身辺調査をする」といった脅しをかけてくる。

こうした悪質な架空請求に遭ったときは「無視を貫く」のが効果的だが、中にはまんまと術中にはまって先方に電話をかけてしまう人もいる。また、何とか解決しなければと慌ててネット検索をする人は多い。ワルたちは、そこを狙って、罠をしかけるのだ。

「架空請求・相談」で検索をすると、画面には「消費者相談センター」など、公的機関を装ったような業者の広告もたくさん出てくる。詐欺被害を解決すると謳う業者を見ていくと、実態は探偵業者ということも多く、中には電話番号のみの記載のところもある。本来、返金などの交渉ごとは弁護士など資格を持った人しか行えず、もし、それ以外の人たちが行うと弁護士法違反となるケースがある。

■検索上位の「無料相談」に電話したらどうなるか?

私が監修したあるテレビ番組で、出演していたお笑い芸人さんに、検索の上位に挙がっていた無料相談を受けつけるサイトに電話をかけてもらったことがある。

芸人さんが「有料サイトの料金請求メールが来ている」と相談すると、電話の主は「それは、心配で大変でしょう」と丁寧な対応をしながら、次のように話した。

「当社では、特殊なコンピュータ技術を持っていて、架空請求のメールを来させないようにすることができる」

その解決金額を尋ねると、5万円ほどになるという。

「どうやって解決するのか」と芸人さんが聞くと、「当社では、トラブルの解決を何千件もしてきたノウハウがあるので、大丈夫だ」というばかりで、具体的なことは話さない。

そこで、私が電話に出ることにした。

「どのようにしてメールを来させないようにするのですか!」
「それは言えません」
「5万円払って、どうするのか、教えなさいよ」

しつこく尋ねても、男は「企業秘密です」「ある特殊な技術がある」を繰り返すばかり。

「何もしないで、お金だけを取るつもりだから、言えないのでしょう!」

5万円とは、時給1000円で10時間も働いた金額×5日分である。それをわけのわからないところに払えるはずもない。こんな詐欺行為はやめなさいという思いを込めて、「きちんとした説明をできないところは、信頼に足るところではありません。お金など払えるはずもないでしょう」と怒鳴るように言って、ガチャンと切った。   

ワルたちはネット利用者たちが、トラブルをネットで調べて自己解決しようとするという行動パターンを熟知しており、キーワード検索で先のような業者のリンク先に、アクセスさせるように仕向けている。

実際に、全国の消費者センターには、ネット検索で出てきた、相談窓口に電話をしてトラブルに遭う報告が多く寄せられており、年々増加している。相談には「消費者センター」に依頼したつもりが、相手が探偵業者だったというものや、調査しかしないのに、「契約すれば請求が止まる」「返金される」と誤解させてくるケース、また、キャンセルをしたら高額な解約手数料を請求されたというケースまである。

■DeNA「WELQ(ウェルク)」問題と、ワルの“類似点”

ネット検索で出てきた広告や上位にあがる情報は、安心なサイト情報と思っているかもしれない。そこには、「たくさんの人が見ているから」という思いがあるからかもしれない。だが、検索の上位に出てきた情報だから、正確で安心なものというわけではない。

これに関しては先日発覚した、DeNAの「WELQ(ウェルク)」の問題がいい教材となる。WELQは医療・健康情報のサイトでありながら、「肩こりは霊によって起こされる」といった、とんでもない情報を載せたり、勝手に別の医療関連のサイトからコピーした健康法や病気への対処法を載せたりしていた。ご存知のように、このサイトの記事はすべて配信停止に追い込まれた。

この一件でわかるのは、「入口と出口の関係性」だろう。

私は、しばしば詐欺と思しきサイトを訪れているが、得てして、そうした業者は、入口に人々を引き付けるような甘い文句を散りばめて、訪れさせようとする。実際にサイトを覗いてみると、意外とページの作りはすばらしい。

しかし、その中身がひどい。

ある詐欺サイトでは、どこかのサイトの情報を盗み、許可も得ないまま第三者に著作権のある写真や資料を貼り付けている。その業者に電話をしてみると、ウソばかりをついて、こちらを騙す行為ばかりを繰り返してくる。サイトからの出口には、ひどい結果が待っている。

こうしたワルの手口では、入口(期待)と出口(満足)がイコールになっていない。はっきり言って、マイナスである。本来、期待してサイトに入った以上の情報内容を訪問者に与えるべきだろう。そうでなければ、人は落胆し、騙されたと思うものだ。

WELQ問題も構造は同じだ。人は健康に関心がある。病気や体調不良となれば、その原因や解決法を知りたいと思う。そうした気持ちにつけこむように、検索されやすいワードを記事などに組み込み、検索上位に来るように“操作”して、人々をサイトに引き寄せていた。しかし、その情報内容たるや、ひどいものであった。厳しい言い方だが、WELQのやり方は詐欺商法が使う手口に近しい行為だと言わざるを得ない。

■いいビジネスパーソンは「いいね」の数が多い

それではビジネスにおける出口とは何であろうか。それは、アフターケアに他ならない。

以前、ある結婚相談所に入会したことがある。その時、相談所の担当者は「必ず、将来の伴侶を私が責任をもってお世話します」と言い切った。

その言葉を信じて、高い金額の入会金を払ったが、その担当者からの連絡はその後、一切なし。勝手にネットで伴侶を見つけろ、という対応であった。それを理由に、中途退会を申し出た。入会させてお金をとってしまえばよい。そんな考えでは、「悪質・悪徳」と思われても仕方がないことだろう。

つまり、ビジネスにおいては、入口における顧客の期待度と、出口における顧客の幸せ度をイコールにする、いやそれ以上にすることが大切だ。数式で表せば、「入口≦出口」ということになる。

一般のビジネスにおける「顧客の満足度」は、ネットで言えば、「サイト利用者からの共感」ということになるかもしれない。フェイスブックの「いいね!」ボタンに見られるように、「なるほど」という納得や「へえ、そうだったのか」という驚きによる共感が得られているかが、大事になる。

それなのに、ただ多くの人にアクセスさせることばかりを考えて、そこを出た時に共感が得られないものばかりでは、トラブルになるのも必然だ。

検索サイトを利用した誘導商法は今後も増えていくに違いない。利用者の側も入口と出口の関係性をしっかり見極めて、サイトを利用するようにしたいものだ。

(ルポライター 多田文明=文)