「Thinkstock」より

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 子どもが生まれたあとに待っているのが、乳幼児期の夜泣きの問題。日中、働いている人のなかには「夜中に何度も夜泣きによって起こされては、仕事に支障が出る」という理由で、妻子と寝室を別にする人も多いようだ。

 だが、そうすると妻からは「働いていると言っても、私も一日中、子どもの面倒に忙殺されているから不公平だ」といった不満が出ることも。実際に筆者も昨年の12月に娘が生まれたばかりで、妻と娘とは別の寝室で寝ていたら、「夜泣きから逃げている!」と妻に糾弾された経験を持つ。

 そこで、娘の夜泣きの解消方法を探っていたところ、欧米諸国では「Cry it out(クライ・イット・アウト)」を主とした行動療法による解決方法が主流で、こちらの方法を使うと1週間前後で夜泣きがなくなるというのだ。

 この方法は、次のようなものだ。

(1)子ども部屋に赤ちゃんを1人で寝かせる。
(2)赤ちゃんが夜泣きで起きても、部屋には入らない。
(3)長時間泣き続けるようならば、部屋に入り、子どもの様子を確認しつつ保護者がいることを伝えて安心させる。このとき、赤ちゃんがねだってきても決して抱いたりしてはいけない。
(4)赤ちゃんは夜泣きで起きても保護者は反応してくれないが、そばにいるということを理解し、1人で眠れるようになる。

 日本では乳幼児期の子どもは親と同室で寝るのが一般的だが、欧米諸国では子ども用の部屋を生まれる前からつくり、生まれて2〜3カ月したらその部屋に1人で寝かせるというのが一般的なのだそうだ。

 だが、乳幼児を1人で寝かせるというのは、乳幼児突然死症候群(SIDS)やうつぶせ寝で窒息してしまったりというリスクもある。「Cry it out」を行うことで夜泣きがなくなるのは嬉しいが、リスクが高過ぎる気がしなくもない。

 そこで、赤ちゃんの眠りに悩む子育て家庭をサポートする団体「赤ちゃんの眠り研究所」の代表である清水悦子氏に、「Cry it out」の是非を聞いてみた。

●夜泣きは絶対に解消する?

「欧米諸国では『Cry it out』は夜泣きに対応する非常にポピュラーな方法として認知されています。それもそのはず。アメリカやオーストラリアなどには、お子さまの夜泣きに関する相談を行える市民団体のようなものがあって、そこで主に紹介されるのが『Cry it out』なんです。

 この方法に関する論文が細かいものも含め海外では3000以上発表されていて、100%に近い成功率で夜泣きが解消するとされていますが、批判もいくつかあります。

 まずは、論文を作成する過程で『Cry it out』で効果がなかった事例は意図的に除外してしまっているのではないかということ。さらに、乳幼児期の子どもが泣いて親に訴えかけているのに、これを無視してしまうというのは、子どもの心理にのちのち大きな影響を与えてしまうのではと懸念されていることです。

 数年前に、アメリカ小児科学会に掲載された論文で『Cry it out』で夜泣きが解消された子どもをその後、5年間にわたって追跡調査したデータを発表したものがありました。心理的な影響はないとその論文では結論づけているのですが、それだけで反発の声がなくなったわけではありません」

 反発の声があったとしても、そこまでしっかりと効果が確認されているのなら、なぜ日本では一般的にならないのか。

「まず、理由のひとつに住環境があると思います。欧米ほど大きな家に住んでいない方が多い日本では、子ども、しかも赤ちゃん用の部屋を用意するというのはなかなか難しいですよね。それに『Cry it out』をやってみたところで、子どもが夜泣きをしても無視しないといけないわけですから、家々が密着している日本ではかなりご近所の目が気になってしまいます。

 また、日本の親は特に、赤ちゃんの泣き声に対して非常に弱いという印象を持っています。何かをしてあげなきゃという気持ちになってしまうし、泣かせっぱなしにすることに対しての罪悪感も強く持ってしまうのです。

 そもそも、日本の夜泣きがひどい子どもの場合、子どもにしっかりとした眠気がつくられていないのに寝かされていたり、一日の活動と休養のバランスといった生活リズムがつくられていないことが理由であることが多いと感じています。

 欧米諸国の場合、親と子どもの生活時間は完全に別のものと考えられていて、『20時には子どもは寝かせて、その後は大人の時間』といったように、生活のリズムが子どもに適切な時間帯で整えられている場合がほとんどです。

 日本の家庭では、添い寝の習慣もあり、大人と子どもの生活時間の区別がつきにくく、特に赤ちゃん時期は大人に引きずられ、赤ちゃんらしい生活が送れていない場合も多くあります。その場合は『Cry it out』を試すより先に生活リズムを整えてあげる必要があるでしょう。生活リズムが整うと睡眠が安定し、夜泣きが自然と解消する場合も多くあります。ですから、私たちの団体としても夜泣き解消の第一選択として『Cry it out』をオススメしてはいません」

●乳幼児突然死症候群を防ぐ

「Cry it out」には、同室で子どもの様子を見ないという点でSIDSやうつぶせ寝による窒息のリスクもあると思われるが、この点は海外ではどのように捉えられているのだろうか。

「日本では保護者が添い寝をしたり、ベビーベッドを使ったとしても子どもを目の届く範囲に置くことで、SIDSやうつぶせ寝による窒息のリスクに対応していますが、欧米では違った捉え方をしています。

 欧米では、母乳を与えるのは最初期のみで、その後はミルクだけという母親も多いです。そうすると比較的早い時期から父母ともにお酒を飲み、酔っぱらって子どもに覆いかぶさってしまったり、お酒は飲んでいなくても大人のベッドの間に子どもが挟まれて窒息してしまうなど、事故リスクのほうが高いと考えられています。

 また、SIDSの大きな要因は柔らかい寝具の使用であるとされていて、固いベビーベッドに1人で寝かせるのが、むしろ安全だと考えています。

 もちろん、欧米の母親でも『Cry it out』をするのが心配という方もいます。その場合、ベビーモニターを使用したり、泣かせっぱなしにするのではなく、もう少し母親への心理的負担が少ない方法で夜泣きを解消したりしています」

●睡眠のリズムを理解する

 では、その「心理的負担が少ない方法」とは、どのようなものであろうか。

「一番最初は子どもが寝ているベビーベッドのすぐそばに椅子を用意して、子どもを寝かしつけるまでそこにいるようにします。そして、椅子とベビーベッドの距離を毎日、少しずつ離していき、最終的には1人で眠れるようにするといった具合に、少しずつ1人で寝られるようにサポートしていくような方法が取られることもあります。

 私たち団体がオススメしているのは、まず子どもの睡眠の仕組みを知ることです。乳幼児期の子どもは大人よりもレム睡眠とノンレム睡眠の間隔が短いということが知られています。子どもは夜中、基本的には1時間おきに起きられるような仕組みを持っているんです。大人は眠りが浅いと寝言を言ったりするわけですが、赤ちゃんの場合は言葉は話せませんので夜泣きになるわけです。

 そういった生理的な仕組みで起こる夜泣きの場合、少し経ったらまた次の睡眠サイクルに入っていくことがほとんどですから、抱っこして揺らしてあげたりといった方法をする必要はなく、むしろ、その刺激によって完全に起きてしまったり、それがないと安心して眠れないと子どもが学習してしまい、夜泣きを助長してしまうのです。

 寝言泣きになるべく反応しないことが夜泣き予防や改善につながりますが、何もしないでいることに罪悪感を感じてしまう場合は、保護者の方が横になりながらできる、例えばお子さまのおなかや頭に手を添えてあげる程度の刺激の少ない方法をオススメしています。

 この方法に慣れてくれば、お子さまも夜泣きしてもすぐに寝てくれるようになりますが、最初のうちは大泣きしたり、長時間泣くこともしばしば。さらに、ママの判断だけで突然始めてしまうと、パパから『おっぱいで泣きやむのに何でおっぱいあげないの?』と咎められることもあるので、子どもの睡眠を安定させるために夫婦できちんと方法を確認したり、話し合うのがいいでしょう」

 夜泣きの原因が、子どもの睡眠リズムに関係していることを知らない保護者は日本でもきっと多いだろう。

「このように子どもの睡眠について学ぶということが、ひとつの突破口になります。NPO法人赤ちゃんの眠り研究所では、赤ちゃんは夜起きるのが当然と知った上で、さまざまな方法があると学んでもらうようにしています。今回お伝えした夜間の対応だけではなく、子どもらしい早寝早起きの生活リズムに整えてあげることで、眠りが改善することも多くあります。夫婦のどちらかが我慢するという解決策以外の方法もきっとあるはずですから、色々と実践してみると良いでしょうね」

 実際に、清水氏が紹介する方法を数日間、筆者の娘で試してみたら、抱っこしたりミルクを与えなくても、そのまますぐに眠れるようになり、妻からも喜びの声が上がった。

 子どもの睡眠について学び、それを夫婦で共有すれば、夜泣きに悩まされる日々を終わらせることは意外と簡単なのかもしれない。
(文=牛嶋健/A4studio)