11月1日、最新の経済・物価情勢の展望を公表した日銀・黒田総裁。「’17年度中」としてきた2%のインフレ目標の達成時期を「’18年度頃」とさらに先送り

写真拡大

◆そもそもマイナス金利は”まやかし”でしかない!

 日銀は、トランプ効果にホッと胸をなでおろしていることでしょう。なにせ、’16年は日銀にとって試練の年でした。1月にマイナス金利をサプライズ導入しましたが、ご存じのとおり黒田日銀総裁の思惑通り円安・株高とはならず、むしろ急激に円高・株安を引き起こしてしまいました。

 そもそもマイナス金利は“まやかし”でした。日銀当座預金残高はマイナス金利が導入された時点で260兆円。そのうち210兆円に従来通りプラス0.1%の金利が付与され、40兆円がゼロ、残り10兆円にマイナス0.1%というのが真相だったのです。年間80兆円の国債買い取りを継続するので、当座預金残高も80兆円増える見込みですが、1年たってもマイナス金利が適用されるのは10〜30兆円。“誇大発表”の化けの皮がすぐにはがれて、円高・株安を招いたのです。

 日銀は勘違いをしているのですが、マイナス金利そのものは強烈なデフレ政策です。金利がマイナスになるということは、「現金の価値を最も高めること」に繋がるからです。当然、円高政策でもある。9月の「総括検証」では10年までの国債利回りをすべて0%程度に釘付けさせるよう、長期国債の買い入れを行うとしました。しかし、金利をマイナスないしゼロに釘づけにすることは前述したようにデフレ政策。これでは、日銀が目標とする2%のインフレ率の達成は遠のくばかりです。ブレーキ(=デフレ)とアクセル(=インフレ)を同時に踏み込む支離滅裂な政策なのだから、まったく意味がありません。

 ただ、評価できる点もありました。それは、事実上の“緩和縮小”に動いたことです。9月30日以降、日銀は残存年数5年以上の国債買い入れ額を月間で合計2兆2000億円も減らしています。「国債買い入れを減らしますよ」と言ってしまうと、市場が混乱するのは間違いないので、長期金利の誘導目標を設定して「長期金利が跳ね上がらないように国債の買い入れを行う」とすり替えて、こっそりと緩和縮小を実現したのです。

◆“悪いインフレ”が消費者を直撃する?

 今までのペースで国債の買い入れを続けていたら、消費税が10%に引き上げられる予定の’19年には日銀の国債保有額は650兆円に達し、総発行残高の6割以上に達する見込みでした。それをファイナンスするための日銀当座預金は550兆円。これはさすがに持続不能と考えたのでしょう。

 こうした支離滅裂な政策と事実上の緩和縮小で、市場では徐々に円高・株安圧力が強まっていきました。そのなかで、トランプ旋風が神風のように吹いたのです。アメリカの長期金利の上昇に伴い、日本の10年債利回りも上昇しましたが、たまたま9月に導入した「指値オペ」で日銀は金利上昇を抑制することができました。この結果、日米金利差拡大から、さらにドル買いが進み、円安効果で日本の株高も進んだ格好です。これは長期的な視点に立てば、日本の国民にとっては不幸な出来事です。円安・株高が日銀の金融政策の追い風となり、デフレ政策であるマイナス金利の問題点を見えにくくしてしまったからです。

 トランプの経済政策は完全に“アメリカ優先”であるため、今後、日本経済が受ける恩恵は決して大きくないと考えます。トランプ効果と日銀の金利抑え込みで円安トレンドが続くでしょうが、景気は浮揚せずに輸入物価が上昇する“悪い円安”が進み、消費者が割を食うことになる可能性があります。経済活動のインセンティブを生み出し、経済成長率を引き上げるためには適正な金利が不可欠なのです。

【闇株新聞】
’10年に創刊。大手証券でトレーディングや私募ファイナンスの斡旋、企業再生などに携わった後、独立。証券マン時代の経験を生かして記事を執筆し、金融関係者などのプロから注目を集めることに。現在、新著を執筆中