大会5連覇を目指していた羽生結弦が、直前になって体調不良(インフルエンザ)のために欠場した全日本フィギュアスケート選手権。誰が優勝しても初優勝になる男子で注目されたのは、今季は4回転フリップを武器にして、グランプリ(GP)ファイナルで3位になっていた宇野昌磨だった。

「ファイナルが終わってから、全日本まですごくいい練習ができて調子が上がってきています。あとは試合でメンタルの強さを見せたい」と話していた宇野は、前日の公式練習では、4回転ループや4回転サルコウにも挑戦。

「ファイナルを終えてからは調子が悪くなかったので、サルコウや、久しぶりにループもやり始めました。サルコウは本当に調子がいい時でないと跳べないですけど、ループは最近少しずつ跳べてきています。今回それをやるということはないですけど、近いうちに試合でやりたいと思っています」と話すなど、精神的にも余裕を持っていた。

 さらに「ファイナルで女子のメドベデワ選手がすべてのジャンプにコンビネーションを付けて跳ぶ練習をしていたので、僕も練習でやってみました。その中でもフリップ+トーが効率的には一番いいと思うので、試合でそれを入れようと思っています」という意欲も口にしていた。

 だが12月23日のショートプログラム(SP)では、最初の4回転フリップの着氷がステップアウト。次の4回転トーループは昼の公式練習では、なかなかきれいに決まらなくて何度も挑戦していたジャンプだ。その不安定さがそのまま出てしまい、転倒という結果になってしまった。

「今日はコンディションも悪くなかったし、気持ちの状態も悪くなかったです。4回転フリップに3回転トーループをつけられなかったことで動揺したというより、次にトーループをつけなければいけないという気持ちになってしまったのが、4回転トーループへの集中を少し邪魔したのかなと感じました。4回転トーループは練習と同じようなミスがそのまま試合で出てしまったなという感じです。気持ちのコントロールは悪くない方向に向いていたと思うし、体も動いていたのでノーミスでもおかしくない感じでしたが、4回転フリップは、単発では跳べたかもしれないですが、フリップ+トーになるとまだ自分のものになっていなかったのかなと思います」

 こう話す宇野の動きには、力みや硬さのようなものも見えた。それについては「自分はいつも力むところはありますね......。それでジャンプを回り過ぎることもありますし、その限度をうまく調整できないところもあります。でも力を抜いて演技をして『もっと力を入れればよかった』と思うのが本当に嫌なので、いつも100%の力を出します。それが間違ってはいないと思います」と話す。

 フリップ+トーをやろうと思ったのも、これまで4回転フリップを跳んでもGOE加点が付かなかったのを見て、「それだったらフリップ+トーを跳びにいかなければいけない」という考えに至ったからだという。攻めの気持ちだった。

 そんな気持ちで挑戦していたからこそ、その後はミスを引きずることなくスピンはしっかりレベル4でGOE加点をもらう出来にし、「絶対跳ぶぞ」という気持ちで跳んだというトリプルアクセルをキッチリ決めて88・05点を獲得できたのだろう。

 そんな宇野に対し「ユヅがいない試合の中で、どれだけ自分の存在感を強くアピールできて終われるかというところだという気持ちになれた」という無良崇人も、その意地を見せつける演技をした。

「ジャンプの状態もいい調子を維持できていて、ある意味『落ち着いてやるだけかな』という気持ちでいたので、プログラムのことをすごく頭に置いて滑ることができた」

 こう話す無良は、最初の4回転トーループでは「転倒するという感覚は全然なく着氷することができましたが、あれがギリギリ立っていられる限界かなと思うジャンプだった」と言うように、セカンドの3回転トーループをつけることができなかった。それでもこの日の無良は落ち着きを失わなかった。その後のトリプルアクセルをきれいに決めると、フライングシットスピンのあとの3回転ルッツにキッチリと3回転トーループをつけてカバー。

 また、ステップは「フランス杯では4回転トーループで転倒したことで、ステップの動きが小さくなってしまった。だから、振り付けを手直しして、コースの取り方も変えて動きも足して練習を積んできた。お客さんが盛り上がってくれてよかった」という納得の出来で90・34点を獲得。宇野に2・29点差を付けてトップに立った。

 それでも無良は演技後にこう話した。

「最初の4回転トーループだけではなく、スピンももうちょっと伸ばすことができると思うので、ギリギリ90点ではなく90点台中盤に乗せていきたい。試合とはこういうものかもしれないですが、昌磨は転倒があった中での88点だったのに対し、僕はほぼノーミスで90点なので、まだ全然及ばないなという感じはあります。その辺りを今後どれだけ伸ばしていけるかですが、これまでの嫌なイメージを払拭するような形で全日本をスタートさせられたので、フリーが勝負と思っています」

 2018年2月の平昌五輪出場を果たすためには、もっともっと力を引き上げていかなければならないと思うからこその向上心であり、一気に力を伸ばしてきた宇野の後塵を拝しているわけにはいかないという先輩の意地が口にさせた言葉でもある。

 羽生不在の全日本選手権男子。フリーで無良がどんな演技を見せるのか。そして宇野がどう立ち向かうのか。ふたりのフリーの競り合いは、日本男子フィギュアの平昌五輪での戦いを占ううえでも注目すべき戦いになる。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi