「Thinkstock」より

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 健康のために肥満は良くないというのは、恐らく不変の事実です。著者も含めて、そうとはわかっていても太り過ぎで悩む人は多いでしょう。一方で、ダイエット法について万人に対する絶対的な正解というのが、確立されているわけでもありません。

 そのためか、ダイエット法については何年かのスパンでさまざまな方法が浮かんでは消える、というサイクルが続いています。ここ数年のトレンドは、食事制限とトレーニングによって筋肉をつけることで基礎代謝を上げ、結果的に痩せるという考え方です。さらに、テレビCMの影響からか、うまく痩せられた人が周囲にその苦労やノウハウを語るという傾向があるように思います。著者は医学の専門家ではないので、その方法自体の是非はわかりませんが、今回は中年太りに悩む男性の、ビジネスシーンにおけるダイエットの副作用について述べたいと思います。

●自分の見た目が与えてきた印象を自覚しているか

 太っていた人が痩せると健康面で良くなる上に、見た目がカッコいい印象になるということについて、多くの人は異論ないでしょう。見栄えが良くなると自信が芽生えたりすることもあり、相手に好印象を抱かれる可能性も高くなり、ビジネスシーンにおいてマイナスに作用することはほとんどないはずです。

 ただし、若い頃から痩せていた人の場合と、長らく太っていた人が急に痩せた場合とでは、同じような体格をしていても、相手に与える最終的な印象が少し異なってくることがあります。

 業績を向上させたことがほとんどない経営者が、精悍な顔つきや体つき、そして自信を持った話し方をしているために、あまりその点を突っ込まれない例があるように、男性でも外見と印象で得している人もいます。中年太りだった自分が痩せたことによって、「よしよし、自分にもそんなお得な現象が起こるのではないか」と思っていると、期待外れに終わるケースがあります。

 もともと仕事上のパフォーマンスが良くなかったり、人間性がそんなに良くなかったりする場合でも、太っていることで第一印象ではどこか憎めないキャラクターだとして受け止められ、どちらかというと人々にポジティブな印象を残すことがあります。

 年を取ってくると、そのキャラクター設定に慣れているので、やや自虐的な笑いを取るような「鉄板ネタ」を入れつつ、「太った憎めないキャラ」をベースとしたコミュニケーションをうまく取ったりもします。同性から外見による嫉妬はされず、それを自ら話のネタにすることで器量の大きい人間を演出しやすいという利点、中年太りのおじさんには太ったなりの外見で得をするやり方があったのです。

 ところがそうした人がダイエットに成功した場合に、本人としては純粋に嬉しくて悪気もなく成功の秘訣などを話し出すのですが、人によってはそれが「え? この人そんな突っ込みどころのないストレートな自慢をするキャラクターだったっけ?」といったネガティブな印象を相手に与えることがあります。少し攻撃性が増したり、逆に太っている人に愛情が欠けたようなコメントを入れたりするようになり、嫌みな印象を周囲に与えてしまう言動をすることもあります。まさに、脂肪によって、またオブラートによって包まれていた嫌な部分が露呈してしまう状態です。

●見た目が悪いと得をすることもある

 ビジネスシーンにおいて見た目が重要ということは、よくいわれます。一般的には見た目がスマートな人が優秀そうに見える、という意味合いで語られます。ですが、太っていて見た目がスマートでない場合でも、得をすることがあります。

 ヘビースモーカーであったり、常時睡眠不足であったりする場合と同様に、太っていて不健康であったり、猛暑日の逃げ場がないようなとんでもなく暑苦しい状態であると、いわゆるハンディキャップ理論が勝手に作用することがあります。周囲が「あの人はハンディを自ら背負ってもそれを跳ね返すくらいに、がんばってきたんだなあ」という目で見てくれるような効果です。

「この暑いなか、汗だくになって苦しそうなのに、明るくがんばっているなあ」「見た目が良くないのに今のポジション・仕事に就いているなんて、よっぽど仕事ができたり頭が良かったりするんだろうな」といったように、ポジティブな印象を勝手に抱いてくれることがあるのです。

 ところが痩せてしまうと、そうしたメリットはなくなってしまいます。それに合わせて言動を変えなければならないのですが、うまくいかなければ、周囲に違和感を抱かれます。

 特に、取引先など新しい人との接点ができたときに、今までは「なんかこの人(太っていてルーズな印象があるから)大丈夫かなあ?」と、ハードルの低いところから始まっていたので、普通の結果を出しても「ちゃんとした人だったんだ。良かった」となります。ところが見た目がいいと、「いい感じの人だなあ。期待できる」としたハードルの高いところから始まるので、普通の結果を出しても「あれ? なんか普通。ちょっと見かけ倒しだったのかな」となります。

 ですので、今までポジティブな評価を受けていた感覚で結果を出しても、そうならなくなってしまいます。痩せた本人がすぐそれに気づいて修正していければいいのですが、長年身につけた癖を直していくことは、ダイエットと同じかそれ以上の難しさかもしれません。

 飲食の席などで女性の同僚に対し、冗談の延長でセクハラすれすれの発言をするシーンでも、その現象はよく現れます。太っている中年男性は性的なアピールが薄いように見られがちなので、少々のことを言っても「もー、やめてくださいよ」で終わるようなことがあります。しかし、同じことを痩せてカッコいい中年男性が発言すると、「え? この人ひょっとして、いい歳なのに私のことを何かいやらしい目で見ている? 家族がいるのに、最低」といった具合に、冷ややかにネガティブに受け止められてしまうことがあります(もちろん、太っていようが痩せていようが、「気持ち悪い」と思われることが一般的かもしれませんが……)。

 こうしたメカニズムが働き、ダイエットに成功してハッピーなはずの元「中年太りのおじさん」は、ビジネスシーンでは少し調子が悪くなってしまうというリスクがあります。

●過度なダイエットにはご注意

 もちろん個人差はありますが、中年男性がダイエットをする際には、今まで自分が太っていたことによる恩恵を思い出してみて、必要に応じて言動を変えなくてはなりません。本連載前回記事で事例として挙げた糖質制限など、比較的ゆっくりと時間をかけて痩せていきつつ、周囲の反応を見たりするのもいいのかもしれません。

 仕事のパフォーマンスが期待外れだったり、セクハラの噂が立ったりして中年世代になってから居場所を失うと、会社員生活においては大きな危機をはらむことになります。「過度なダイエットにはご注意ください」という注意書きをよく見かけますが、こうした観点からも同じ注意が当てはまるでしょう。企業経営者も個人も同様に、己の特性を客観視することは重要です。
(文=中沢光昭/経営コンサルタント)