【恋する歌舞伎】第17回:執念の一筆。二人三脚の夫婦が起こした奇跡とは

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日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう、わかりづらそう…なんて思ってない? 実は歌舞伎は恋愛要素も豊富。だから女子が観たらドキドキするような内容もたくさん。そんな歌舞伎の世界に触れてもらおうと、歌舞伎演目を恋愛の観点でみるこの連載。古典ながら現代にも通じるラブストーリーということをわかりやすく伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

今回は、若手花形俳優が大活躍する「新春浅草歌舞伎」で上演予定の『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』に注目します!

◆【1】絵から抜け出た虎を、今度は筆でかき消す!?


ここは京都の少し寂しい場所にある土佐将監(とさのしょうげん)の家。
将監は宮廷絵師だったが、訳あって妻と弟子の修理之助(しゅりのすけ)とわび住まいをしている。
そんな所へある日、大勢の百姓たちが押し寄せてくる。なんでも山に“虎”が出て、この竹薮に追い込んだというのだ。
修理之助は「日本に虎などいるものか」と訝しがるが、茂みから本当に虎が現れる。
騒ぎを聞きつけて出できた将監は「この虎はある有名な画家が描いたもので、その出来があまりにも素晴らしいため絵から抜け出てきたのだ。
その証拠に、近くに虎の足跡がないだろう」という。
その話を聞いた修理之助は、ならば自分の絵の力でその虎を封じ込めてみせますと宣言し、見事虎をかき消すことに成功したのだった。
「絵の道の悟りを開いたな」と、将監は修理之助を認め、「土佐」の苗字と、立派な筆を授けるのだった。

◆【2】弟弟子にあっさり抜かされ呆然自失の主人公・又平


ここで登場するのがこのお話の主人公、又平(またへい)・おとく夫婦。
又平は腕の立つ絵師なのだが、生まれつき吃音(きつおん)で、うまく喋ることができない。
それをしゃべりの得意な妻のおとくがフォローしながら、今は大津絵(※)を売り貧しいながら夫婦二人三脚で暮らしている。
そんな夫婦は今日も師匠に挨拶にやってきたのだが、将監の妻から「弟弟子の修理之助が功績を上げ、土佐の苗字を許された」と聞かされる。
呆然とする夫婦。
夫婦は又平にも土佐の苗字を許してもらえるよう頼むが、「絵の道で手柄を立てねば無理だ」と一蹴されてしまう。
又平は、自分のどもりが出世の足かせになっていると己の運命を呪うのだった。
そこへ突然、手負いの武士がやってくる。
なんでも将監の主人筋の姫君が誘拐されたというのだ。
使者を送って助け出さねばというところへ、名乗りを上げたのが又平だった。

※東海道の宿場町で、旅人が買い求めるお土産用の絵

◆【3】手柄を立てたい想いも虚しく絶望の淵へ


又平はいつも、おとくを自分の声代わりとして頼ってきたが、今このチャンスを逃してなるものかと、どもりながらも、必死で「自分が助けに行く」と将監に伝える。
しかし勇気を振り絞った結果も虚しく、出過ぎたことをと聞き入れてもらえない。
「ここまで拒絶されてしまっては、もう自分は死ぬしかない」とあきらめる又平。
一部始終をみていたおとくは、夫の気持ちを汲んで、それなら今生最後にと、自画像を残して自害するようすすめる。

◆【4】最後の力を振り絞り、夫婦で成し得た最高の奇跡


又平は死を覚悟し、石塔代わりにと、庭の手水鉢に自画像を描くその筆に魂を込める。
するとその一念が通じたのか、摩訶不思議な現象が起こる。
なんと裏側に描いた自画像が、手水鉢を通り抜け表側にくっきりと現れたのだ!
それを見た将監は、奇跡を起こす又平の筆の力を認め、姫を救出する任務を与えるとともに、土佐の名字も許したのだった。
最後に「姫を助けに行った際、敵方からの問答に答えられるか」と確認する将監に、又平はそれなら安心をと、謡を披露する。
つまり舞の調子にのるとスラスラと言葉が出るというのである。
一同を安心させ、おとくを伴い姫を救うべく、意気揚々と出発する又平夫婦なのだった。

◆『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』

近松門左衛門作。人形浄瑠璃にて宝永二年八月竹本座で初演。歌舞伎では宝暦十三年大阪三枡座初演。江戸時代の初期に活躍した岩佐又兵衛という浮世絵師の伝説などを劇化した作品。今回紹介した「土佐将監閑居の場(とさのしょうげんかんきょのば)」の上演頻度が高い。

監修・文/関亜弓 イラスト/カマタミワ

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