米国内では激しい抗議デモも発生している Reuters/AFLO

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 ドナルド・トランプ政権でアメリカの外交政策が大きく方針転換すれば、日本もそれに対応しなければならなくなる。大前研一氏が「新たなアメリカ」との向き合い方を指摘する。

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 今後もトランプ氏の外交スタンスが変わらなければ、まさにアメリカの政治学者イアン・ブレマー氏が言うところの「Gゼロ」(G7を構成する主要先進国が指導力を失い、G20も機能しなくなった国際社会)時代が本格的に到来し、世界秩序は激変するだろう。そうなったら日本も安全保障政策を、建前ではなく本音で、根本的に考え直さなければならない。

 少なくともロシアとの間では、12月のプーチン大統領来日時にアメリカが機能しなくなった世界を前提に話し合うべきだし、場合によっては中国との間で万一の事態が起きないようにガイドラインを作ったり、「日中“疑似”安保条約」のようなものを締結したりする必要があるかもしれない。今のように安倍晋三首相がアメリカを後ろ盾にしながら、中国にちょこちょことジャブを出すという状況は危険極まりないと思う。

 あるいはTPP(環太平洋経済連携協定)ならぬ、「TPSP(Trans-Pacific Security Partnership=環太平洋安全保障連携協定)」を、オーストラリアやニュージーランド、東南アジア諸国と結ぶことも必要になってくるだろう。さらにアメリカ、中国、ロシアとの等距離外交まで視野に入れておくべきだと思う。

 これまでアメリカは多額の軍事費を使い、「世界の警察官」としてふるまってきた。しかし、すでにバラク・オバマ大統領は世界の警察官をやめると宣言した。トランプ外交はそれを加速すると思われるので、世界はいっそう混迷を深めるだろう。

 そもそもアメリカは軍事費の約7割を中東に使ってきたが、その結果は失敗ばかりで、むしろ状況は悪化している。

 たとえば2003年のイラク戦争でサダム・フセイン政権を倒してアメリカが大好きな“民主的選挙”を行ったところ、イスラム教シーア派の政権が誕生した。国民のマジョリティがシーア派だから当たり前だが、イスラム教スンニ派の盟主である隣国のサウジアラビアにとっては(シーア派の盟主イランが隣国まで攻め込んできたような)憂慮すべき状況になった。

 このためサウジアラビアは過激スンニ派によるIS(イスラム国)を養成・支援し、イラクとシリアにバラ撒いた。アフガニスタンにソ連軍が進駐した時にアルカイダを支援して増殖させたのと同じ背景だ。要するにアメリカは目的の定まらないイラク戦争をやり、中途半端な撤収をすることによって現在のISによるイラクとシリアの大混乱を招いた、という構図なのだ。

 そのISがトランプ政権に対してどのような動きをするかと言えば、目に見えている。家族にユダヤ教徒(長女イヴァンカ氏とその夫ジャレッド・クシュナー氏)を持つトランプ氏は、露骨にイスラム教徒を嫌っている。

 しかしアメリカ国内にはすでに700万〜800万人のイスラム教徒がいるとみられているので、トランプ氏が公約通りに「イスラム教徒の全面入国禁止」を実行すれば、アメリカ国内にいるISのホームグロウン・テロリストが一斉に動き出し、テロが頻発するおそれがある。そしてアメリカの影響力が弱まる中東は、今よりもはるかに不安定化するだろう。

※SAPIO2017年1月号