世界的なドラマーでもあるビンス・ウィルバーンJr.

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 ジャズ奏者マイルス・デイビスの甥(おい)で、デイビスの“空白の5年間”を描いた劇映画「MILES AHEAD マイルス・デイヴィス 空白の5年間」のプロデューサーも務めたドラマーのビンス・ウィルバーンJr.が来日し、製作の裏話を映画.comに語った。

 本作は、「ホテル・ルワンダ」や「アベンジャーズ」シリーズのドン・チードルが監督・共同脚本・製作・主演を務め、虚実を織り交ぜてマイルス・デイビスの人間性を掘り下げる実験的な作品。活動休止中のマイルス(チードル)と音楽記者デイヴ(ユアン・マクレガー)が、大切なマスターテープを盗んだプロデューサーを相手取って大立ち回りを繰り広げる“現在”と、ジャズ界で華々しく成功を収めたマイルスの“過去”が、交互に描かれる。

 ウィルバーンJr.は、甥としてはもちろん、ドラマーとしてデイビスのツアーやレコーディングにも参加しており、公私共にデイビスをよく知る人物だ。現在は、マイルス・デイビスの財団の運営者としても手腕を発揮している。本作で描かれるデイビスはレコード会社に銃を持って怒鳴り込む、夜のニューヨークでカーチェイスに興じるなど、一見すると荒唐無稽(こうとうむけい)な要素も持つが「家族の承認はもちろん得ているよ。ドン(・チードル)から財団に相談があり、みんなで話し合ったんだ。ドンには、普通の伝記映画にはしたくない、エンターテインメント性があってアクションもあり、みんなを楽しませる映画にしたいという思いがあったのさ」と力を込める。「ドンは、家族側の気持ちを常に気にかけてくれた。夜中に電話をかけてきて『今はこういうシーンを撮っているんだけど、マイルスならどうすると思う?』と聞いてきたりね。カーチェイスや銃撃戦はもちろんフィクションだが(笑)」。

 重要なのは、史実に縛られるのではなく、スクリーンからマイルス・デイビス本人を感じ取られるかどうか。そういった思いは、ウィルバーンJr.の「評論家の中には重箱の隅をつついたように史実との違いを言ってくる人もいるが、大事なのはそこじゃない。ドンの監督としての力量と演じている姿を見てほしいね。この映画にはマイルスの魂が乗り移っているんだ」という言葉からも強く伝わる。ウィルバーンJr.は「マイルスと親しかった人たちが、映画を見て『誇りに思うよ。よくやったね』と言ってくれたんだ。彼の遺伝子が受け継がれていると思う。(バンドメンバーである)ハービー・ハンコックも、この映画を見たあと『これはきっとマイルスにとって夢だっただろうね』と声をかけてくれて、すごくうれしかったよ」と仕上がりに自信を見せる。

 ウィルバーンJr.の言葉通り、本作でチードルはデイビス本人がひょう依したようななりきりぶりを見せている。ウィルバーンJr.は「ドンには、マイルスの声を録りためた音源を渡した。彼はそれを模写して、監督として話しているときもマイルス本人が乗り移ったかのような口調になっていたんだ」と演技力に舌を巻く。「2006年にマイルスがロックンロールの殿堂入りを果たし、授賞式に参加した際にマスコミから『もしマイルスを演じるなら誰がいい?』と聞かれたんだよ。そのときに『ドン・チードル』と答えたんだ」と念願のキャスティングだったそうだが、当時はジム仲間でもあるアントワン・フークアを監督に考えていたという。だが、スケジュールの問題でこのタッグは実現せず、映画化は暗礁に乗り上げかけた。その際に監督を買って出たのが、ほかならぬチードルだったという。ウィルバーンJr.は「1つどうしても知ってほしいのは、ドンは本作のために私財をつぎ込んでいるんだ。かなりプレッシャーもきつかっただろうね。だが、監督と主演をここまでこなせる人は見たことがないよ」と畏敬の念を示した。

 「MILES AHEAD マイルス・デイヴィス 空白の5年間」は12月23日から全国公開。