「ハル」こと立川理道(たてかわ・はるみち)――。今秋、強豪ウェールズに善戦するなど2019年のワールドカップ自国開催に向けて新たなスタートを切ったラグビー日本代表において、ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)により、堀江翔太とともに共同キャプテンに任命された。間違いなく、日本ラグビーの未来を担っている選手のひとりだ。

 立川は天理大を卒業した直後の2013年春に日本代表入りし、前指揮官であったエディー・ジョーンズ体制下でもCTB(センター)の「12番」をつけて中軸として活躍。2015年のワールドカップではMVP級の活躍を見せて、南アフリカ打倒にも大きく貢献した。

 現在27歳。所属するクボタスピアーズでもキャプテンを務め、キャップ数(国際試合出場数)は50を誇る。そんな立川に、ジョーンズHCとジョセフHCの考え方や人柄の違い、「エディー・ジャパン」と「ジェイミー・ジャパン」の目指すラグビーの差違などについて感じていることを聞いた。

 まず、現在イングランド代表の指揮官を務めるジョーンズHCについて、立川は「怖かったですね。怒られ慣れたくらいでしたから(苦笑)」と振り返る。ただ、ジョーンズHCは誰に対しても態度を変えることがなかったという。一方で11月、寝食をともにしたジョセフHCに対して、どんな印象を受けたのか。

「(身長173cmの)エディー(・ジョーンズ)さんと違って、ジェイミー(・ジョセフ)は(身長が196cmあって)見上げないといけないので威圧感はあります(笑)。最初は穏やかで優しいイメージでしたが、選手みんなの前で話すとき、リーダー陣と話すとき、そして1対1のときといろんな顔がありました。メディアの前でも違っていましたね。リーダー陣と話すときは厳しいときもありましたが、いろんなジェイミーを見た1ヵ月でした」

 時折、怖さや厳しさもあったものの、ジョセフHCは接する相手によってコミュニケーションの方法や態度を使い分けていた、というわけだ。

 そんなふたりのキャラクターは、指導方法にも反映されている。エディー・ジャパン時代は、基本的にはジョーンズHCのほうから「こういったことを100%でやってほしいと課題が出て、それを選手たちが真摯に取り組むスタイルだった」ため、立川は「やりやすい部分はありました」と語る。

 もちろん、ジョセフHCも「こうしたラグビーをしたい」という狙いや意図は提示するものの、練習や試合運びに関しては、「どうしたらいいと思う?」とリーダー陣に意見を求めるという。「ジェイミーは言い過ぎないし、答えもあまり言わないので、僕たちを引き上げてくれる感じ。でも、リーダー陣で目標を設定して、高いスタンダードを保っていかないといけない分、エディーさんのときよりも見えにくいものはあります」

「エディー・ジャパン」はジョーンズHC自体が強烈なり−ダーシップの持ち主として確立していた一方、「ジェイミー・ジャパン」のジョセフHCは対話を好み、積極的にコミュニケーションを図り、リーダー陣と一緒にチームを作り上げていくというスタイルを好む。その分、リーダー陣の責任は大きくなるため、共同キャプテン制を採用した意図にもつながる。

 また、ジョーンズHCは2012年春、練習初日に「2015年のワールドカップで世界のトップ10に入る」と、選手の前で明確な目標を定めた。対するジョセフHCは、就任から11月の国際試合まで時間がなかったこともあるが、とにかく戦術の構築に努めた。「2019年のワールドカップに向けてリーダーを育成したいということは話していましたが、明確に目標とかは言わず、この1ヵ月でどんなラグビーができるかということにフォーカスして、シンプルにポジション別に役割を理解させ、選手はそれを実行していました」

 もちろん、オーストラリア人のジョーンズHCとニュージーランド人のジョセフHCでは、目指すラグビーにも明らかな違いがある。

 ジョーンズHC時代は、「ジャパンウェイ」と掲げられたランとパス主体のラグビーであり、「シェイプ」と呼ばれるユニットを重層的に配置しつつ、パスとランでボールをキープし続けて相手ディフェンスの隙を狙い、トライを取るラグビーだった。ただ、キックは自陣の奧深くから蹴ることはあっても、その数自体が少なかった。

 立川もこう振り返る。「最初はほとんど蹴らなくて、だんだんとキックを蹴るようになりましたが、キックとパスの比率は1対10くらいでした。たくさん蹴ったのは、ワールドカップくらいでしたね。また、(タッチラインに蹴るのではなく、自分たちからスペースに蹴るハイパントやショートパントといった)コンテストキックはほとんどなかったですね」

 一方のジョセフHCは、2015年にスーパーラグビーでハイランダーズを初優勝に導いたときに培(つちか)った「ポッド」と呼ばれる戦術を日本代表に導入している。右腕となるBKコーチにはハイランダーズ時代からの盟友トニー・ブラウンを呼び寄せ、その方向性は当初から予想されていたことだった。「まんまハイランダーズですね!」と立川が言うように、FWとBKが一体となった4つのユニットでボールを広く動かしながら、スペースがあれば、どんどんキックで攻めていく。

「ジェイミーのラグビーは、キックとパスの比率は1対3くらいです。最初は抵抗というか、慣れていない部分はありましたが、やっていくうちに慣れてきましたね。キックのスキルが必要になってきますし、スペースを見つける能力も伸ばしていかないといけない。ただ、BKはCTBティモシー・ラファエレのような新しい力も出てきましたが、エディーさん時代の財産もかなり残っていますね」

 また、ゲームのタクトを握るポジションも少々異なる。「エディーさんのときは、10番(SO/スタンドオフ)と12番(インサイドCTB)がゲームをコントロールしていましたが、ジェイミーのラグビーでは9番(SH/スクラフハーフ)と10番が担当します。(自身が12番なので)僕がボールを持つ回数が少し減ったことは寂しいですが、新しいチャレンジです。CTBも12番と13番の役割に大きな違いはなく、(ミッドフィールドの)左右に立って内側にいる選手をサポートします。キックを蹴ったとしても、ほとんどスペースを突いた短いキックですね」(立川)

 11月のジェイミー・ジャパンは、4試合ともすべて格上のチームと対戦。アルゼンチン戦は大敗したものの、ジョージアには28−22で逆転勝ちし、ウェールズとは30−33と善戦したが、結局フィジーにも敗れて1勝3敗と負け越した。そんななかで、「一番、ジェイミー・ジャパンらしいトライは?」と聞くと、立川は「ジョージア戦のレメキ(ロマノ ラヴァ)の2本目のトライと、(福岡)堅樹のトライです。今、一番やろうとしている形が出ていました」と胸を張った。

 WTB(ウィング)レメキの2本目のトライは、ボールを広く動かすなかで、CTB立川が右タッチラン際の裏のスペースにキックし、それをレメキがキャッチしてインゴールを陥(おとしい)れた。WTB福岡のトライもボールを広く動かした末に生まれたが、その前に自陣からSH田中史朗が蹴ったハイパントキックをWTB福岡が見事にキャッチしたことが起点となった。いずれにせよ、キックを使い、立体的にボールを運んでトライに結びつけたものだ。

 エディー・ジャパンでは、ボールを継続しながらトライを狙うためにコンタクトの回数は多く、身体的な負担、疲労度も大きかった。その分、フィジカルを徹底的に鍛えることも欠かせなかった。一方のジェイミー・ジャパンでは、キックをうまく使うことで手数をかけずにトライを狙う。その結果、肉体的な疲労度がさほど大きくならないので、最後までしっかりと戦うことができるというわけだ。これが、ハイランダーズ時代の3年間、ジェイミーHCに薫陶を受けたSH田中がいう「スマートなラグビー」なのだろう。

 ウェールズ戦ではほぼ互角に戦えたことで、最終戦のフィジー戦でも同じ戦い方で挑んだ。しかし、25―38で敗戦してしまう。立川は「ウェールズとのビッグゲームの後で、自信も掴めていましたが、モチベーションとしては難しかった。ジェイミーからリーダー陣に、そういう難しい状況をコントロールしてくれと言われていましたが、僕自身もキャプテンのひとりとしてコントロールできなかった」と言う。11月の4連戦は収穫があったものの、課題も残る結果だった。

 2017年、日本代表は6月にホームでアイルランドと2試合を戦い、11月にはオーストラリアとも激突する。エディー・ジャパン時代は長期合宿をすることで強化を図ったが、昨年から強化のベースはスーパーラグビーに参戦するサンウルブズとなった。現在発表されている来年のサンウルブズのメンバーは、40人中23人が11月の日本代表メンバーと重なり、今年以上に連携が図られることになるだろう。もちろん、立川もその中心として名を連ねている。

「11月は2019年のワールドカップに向けて、いいスタートが切れました。コーチ陣も重なっていて、サンウルブズと日本代表とでやることのギャップがなくなっていけば、もっと強化につながる。日本ラグビー協会もサンウルブズも同じ考えを持っているので、絶対にいい方向にいくはず。来年も日本代表にとって大きな試合が控えていますが、うまくコミュニケーションを取りながらやっていきたい」

 順風満帆に見えるなかで、ひとつ不安があるとしたら、前任者のジョーンズHCがコーチとしてワールドカップに3度出場しているのに対し、ジョセフHCはコーチの立場としてワールドカップを経験していない点だろう。

 ただ、立川をはじめとして選手には経験がある。「エディーさんのときはワールドカップの年になって、うまく形になりました。エディーさんはピークを持っていくのがうまかったが、ジェイミーはどうなのかわからないので、自分たちがそのあたりをしっかりやっていきたい。11月を振り返って、点数をつけるとしたら50点くらいです。2019年に100点にできればいい」

 最後に2017年の抱負を聞くと、立川は「今年はサンウルブズ、クボタ、日本代表でリーダーをやったので、その経験を活かして成長を止めないようにやっていきたい」と意気込んだ。2019年のラグビーワールドカップまでもう3年を切っている。残された時間はさほど多くないなかで、「ハル」の経験とリーダーシップがラグビー日本代表をより高みへと導く。

斉藤健仁●取材・文 text by Saito Kenji