芝居や演劇を生業にしている人なら、「イヴァナ・チャバック」という名を耳にしたことがある人も多いはず。彼女はハリウッドで有名な演技コーチで、ブラッド・ピットやビヨンセ、シャーリーズ・セロンなど、名だたる俳優たちを一流に育てあげたカリスマ的存在! そんなイヴァナの来日を受けて、コスモポリタン編集部が取材を敢行。彼女が語る、成功へのヒントとは?

―演技指導者への道を志したきっかけは?

演じることよりも教えることに情熱が持てた

はじめは俳優を目指していたし、私がやりたいことは演技だと思っていたわ。ラッキーなことに早くから活動の場も与えられていたしね! でも演技をしながら、ユニバーサルスタジオでコメディ作品の脚本を書いたり、監修にも携わることもあって。それを知った俳優仲間から演技について意見を求められるようになって、演技指導をするようになったのよ。

当初は「私は教えるよりも、演技がしたい!」と思っていたんだけど、ある日"演じている時よりも、演技を教えている時の方が時間が過ぎるのが早い"ってことに気がついて…。それでやっと分かったの。私の場合は、演じるよりも教える方が情熱を持って向き合えるんだってことをね。それからは、映画の出演オファーを断ってまで、演技を教える方を選ぶようになったのよ(笑)。あのまま「教えるのは好きじゃない」と思い込んで挑戦していなかったら、今はないわね。何事も一度はやってみないとわからないものよ。

―著書『イヴァナ・チャバックの演技術』のメソッドはかなり具体的。どのように構築したの?

すべて実体験よ(笑)。経験することで、身体的な変化や感情の動きをキャッチできたわ

あの本は、私が10代だった頃に経験したものや、大人になってから経験したことが基になっているんだけど、私が育った60年代は、今に比べるとかなりクレイジーな時代だったのよ(笑)。でも、すべて経験に基づいているからこそ、詳細に説明できているんだと思うわ。

例えば出産のメソッド。私が出産の時に感じたことを元にすると、「私と父親となる男性は、小さな自分を自分の子どもの中に見ている。だから、子どものことを『可愛いね』と褒められたら、それがまるで自分に向けられた言葉かのように、『ありがとう!』と答える」と、感情の動きまで説明がつくのよ。

今まで経験したことは、どんな小さなことでもすくい上げて、ひとつひとつ丁寧に具体化したわ。だから何度も何度も書き直して、結局製作に4年もかかったの。まさに私のベビーね(笑)。

―ブラッド・ピットやジム・キャリー、リブ・タイラーなど、そうそうたるセレブたちの演技指導をしているけど、印象に残っているのは誰?

ひとりに絞れないことが、私の仕事の幸せなこと

それは非常に難しい質問ね。誰かひとりに絞るなんてできないわ、本当に。それが私の仕事の素晴らしいところなのよ。ただひとつ言えるのは、私と出会う時点では、たいていみんな"セレブ"と呼ばれる前なのよ(笑)。

例えば、映画『モンスター』でアカデミー主演女優賞を獲得したシャーリーズ・セロンは、出会った頃はまだ売れていなくて、お金もなかったから6人の俳優仲間と同居していたぐらい。それに、当時の彼女はまったく自分に自信を持っていなかったのよ。そんな彼女に私がはじめて行った指導は、「自分自身を信じる」ということ。

彼女が作品で演じたキャラクターは、レイプされ、虐待され、その経験から殺人へと誘われてしまったという役どころ。シャーリーズ・セロンが自分自身の自信を回復することで、並行してその強烈なキャラクターを演じきることができると思ったの。たとえ映画だとしても、俳優たちが現実性を持って力を取り戻すところを映し出せれば、歴史を振り返っても常に力を奪われてきた"女性"に力を与えることができるんじゃないか、とも考えたわ。

―ビヨンセにも演技指導をしたそうだけど、彼女はどう変化があった?

映画の成功だけじゃなく、世界中の女性にとって絶対的な存在になったわ

ビヨンセだって、今ほどに世界中の人に影響を与える存在じゃなかった時に出会ったわ。映画『ドリームガールズ』で初めて彼女と一緒に仕事をした時、彼女はまだ「デスティニーズ・チャイルド」のひとりで、"ポッププリンセス"というだけの印象だったの。

彼女が与えられた役柄を演じ切れるように、私はまず"エンパワーメント"の話をしたわ。自発的に行動することで自信やパワーを取り戻し、集団全体に影響を与えるというのが定義なんだけど、結果的に、黒人の女性たちが抑圧されることや、男性やマジョリティよりも低い地位に据えられることを断固として許容しない、という態度にリアリティが生まれたの。映画の成功はもちろんだけど、あの作品を通してビヨンセはさらなる高みに上り、絶対的な存在になったと言えるわね。

ある日、ビヨンセから連絡をもらったのよ。「シングル・レディース」という曲の発表前にね。「あれは、あなたと私たちが話したエンパワーメントに影響されて作った曲だから、あなたに聴いてほしいの」って。みんなご存知かもしれないけど、実際に素晴らしい曲だったわ。

-シャーリーズ・セロンやビヨンセのように、ひとりの女性として成功するにはなにから始めればいい?

恐れずに、忍耐づよくチャレンジし続けること

周りの人たちに、「あなたはこれをやるべきだ」とか「これをやってはいけない」なんて言われても真に受けちゃダメ。信じるべきは自分の気持ちであり、情熱。そしてそう思えるものには全力で挑戦しつづけることが大切よ。たとえ失敗に終わっても、ほとんどの場合は死んでしまうわけではないでしょ。その失敗から新たな情熱が生まれるかもしれない。だから恐れずに挑み続けてほしいの。

でも、もし恐れを抱くことがあったら、その気持ちを反転させてみて。今、成功を掴んでいる人たちだって、最初から逆境がなかったわけじゃない。むしろ逆よ。逆境に打ち勝った人の方が多いわ。直感で何か悪いことを感じ取った時、やってみたら違う結果が生まれることだってあるし、直感通りのことだってある。その答えに辿りつくまでに時間がかかるかもしれないけど、成功には忍耐が不可欠なのよ。

―自分の人生を成功に導くために、必要なことは?

ハードワークをこなし、リスクを取ること

たとえば18歳の自分と今の自分を比べてみると、ファッションセンスだけじゃなくて考え方など様々なことが変わってるはず。人っていうのは、ずっと同じところに留まっていることなんてなくて、実は常に変化しているのよ。それを成長と呼ぶの。そのためには、安全策を取っていてはダメ。よく学び、よく働き、そしてリスクを恐れずにチャレンジすることよ。リスクなくして成功はないの。そして、有名になることを理想にするのではなくて、偉大であることを目指してほしいわ。

演技指導本なのに、人生を変えるヒントが詰まってる!?

『イヴァナ・チャバックの演技術 俳優力で勝つための12段階式メソッド』(白水社刊)

世界14ヵ国で発行され、多くの俳優の演技力向上に貢献した本書は、演技に関する具体的な指導以外にも、背中を押して行動へ導く言葉がたくさん。海外では、演技に携わってない人にも多く読まれたそう。今抱えている不安や悩みを解決するヒントが見つかるかも!