今や日本のサービス業の現場は外国人留学生のアルバイトに支えられている(写真はイメージ)


 数年前、筆者が中国人の友人と共に東京・上野の居酒屋を訪れてカウンターに座ったときのことです。

 カウンターの中で、外国人留学生と思しきアルバイト店員たちが中国語で話しながら仕事をしていました。そこで、筆者たちは酒に酔った勢いもあり、なぜだか「自分たちも中国語で話そう」などと言い出し、2人して中国語で話しながらひとときを過ごしました。ひとしきり食事を済ませた後で会計に向かうと、女性店員からややぎこちない日本語で「中国の方ですか?」と尋ねられたので、筆者はそのまま中国語で「友人は中国人だが、自分は日本人だ」と答えました。すると「すいません、中国語分からない」と思いもよらぬ返答が返ってきました。戸惑いつつも出身を尋ねると「ベトナムです」とのことです。深夜の居酒屋がどれだけインターナショナルな空間なのか、また外国人留学生はみんな夜遅くまでこれだけ働いているのかといろいろ考えさせられる夜となりました。

 筆者のような体験とまではいかずとも、現代日本で居酒屋やコンビニ、ファーストフード店などを訪れれば、外国人留学生らしきアルバイトが数多く見られ、大都市に至っては外国人留学生が全く働いていない店を探す方がもはや難しいのではないかと思うほどです。少子高齢化による労働力不足が叫ばれる中、日本の労働現場、特にサービス産業において外国人留学生の労働力はもはや欠かせない状況となりつつあります

 外国人留学生は、生活費はおろか学費すらも日本で稼ぐために懸命にアルバイトをしています。ただ、働く彼らを取り巻く日本の法制度には依然として大きな矛盾が横たわっており、旧態依然とも言える体勢が続いています。

 筆者は今回、日本に留学中の中国人学生から話を聞き、外国人留学生のアルバイト事情と、彼らを縛る「週28時間ルール」の実態について取材を行いました。

年間20万人の外国人留学生が日本に

 まず、一体なぜこれほど外国人留学生のアルバイトを見る機会が増えたのでしょうか。データにあたってみると、近年、外国人留学生の総数が増え続けていることが分かります(下の図)。

2001〜2015年の外国人留学生総数の推移


(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48678)

 日本学生支援機構(JASSO)のデータによると、2002年までは年間10万人以下だった外国人留学生は2015年には20万人を突破しており、10年余りで2倍にまで拡大していることが分かります。また、これまでのペースからすると今後も増え続ける可能性が高いでしょう。

2015年の国(地域)別留学生数
出典:日本学生支援機構(JASSO)


 国(地域)別人数で見てみると、予想通り中国が9万4111人で2位以下を大きく突き放してトップとなっています(上の表)。2位は筆者個人としてはやや意外でしたが、ベトナムが3万8882人でランクインしており、あの夜の居酒屋は統計状況を反映した空間であったこととなります。留学生というと西欧人を想像しがちかも知れませんが、実際にはアジア出身者が92.7%と大半を占めます。欧州(3.5%)や北米(1.3%)出身者はきわめて少数派と言えるでしょう。

 以上の通り、日本で増加し続けている外国人留学生はアジア諸国出身者が大半を占めています。彼らは故国と日本との賃金物価の格差から、必然的に日本国内で学費や生活費を稼がなくてはならなくなります。私が会ったことのある日本留学経験のある中国人は、ほぼ例外なく、在日中に学業の傍らで長時間のアルバイトを行っていたと言います。

日本のアルバイトはまんざらでもない

 筆者は外国人留学生のアルバイト生活の実態をより詳しく探るため、昨年夏から日本語学校に留学している20代の中国人男子学生に連絡を取り、来日以降のアルバイト生活について話を聞いてみました。

 その学生の来歴を簡単に紹介すると、出身は上海から少し内陸に入った安徽省です。地元の高校を卒業した後、期間労働者として中国各地を転々としながら数年間働くうちに日本に興味を持ち、ある団体の日本留学プログラムに応募。晴れて合格して九州地方にある日本語学校への留学機会を得ました。

 とはいえ、その団体からは留学費用の支援などは一切なく、渡航費から学校の授業料などはすべて自己負担です。そこで、手持ち金が尽きぬうちにと、来日当初からアルバイト探しに取り組むことになりました。

 日本語能力がままならなかった当初、アルバイト探しは留学先の日本語学校に紹介してもらっていました。日本語にある程度習熟した段階になってからは、インターネットを用いて自ら探すようになったそうです。バイト探しは「タウンワークのサイトが便利」だと言います。登録して申し込むだけで求人先から連絡が来るのだそうで、筆者も知らなかった現代日本のアルバイトシステム事情を説明してくれました。

 日本来てからこれまで経験したアルバイト先は、弁当や生鮮品の工場、印刷会社、コンビニなどと多岐に渡り、大半の期間を2軒以上の掛け持ちで働いていたそうです。現在は日本語能力検定や大学入学試験などを控え、体力的負担の少ないコンビニ店に絞っています。月収は約9万円で、将来の日本での大学進学に向けて貯蓄しながら暮らしているとのことです。

 日本のアルバイト環境についてどうかと尋ねたところ、「日本のアルバイトは給与も比較的高いし、遅刻しても謝ればそれで済むので、悪くない」との答えが返ってきました。かつて安徽省で働いていた頃は、1カ月の出勤日が28日間に及びながら収入はたったの1000元(約1万6670円)程度で、おまけに遅刻する度にそこから給与が差し引かれていたのだそうです。それに比べると、体力を消耗して学業に負担が出やすい工場勤務などを除けば特に不満はないと、まんざらでもない様子でした。

有名無実化している「週28時間ルール」

 ひとしきり尋ねた上で、日本でのアルバイト生活について何か懸念する点はないかと尋ねてみました。すると彼は、「この前導入されたマイナンバー制度に合わせ、“週28時間ルール”が厳密に適用されるようになるのではないか」という不安を吐露しました。

「週28時間ルール」は、一般日本人には耳慣れない言葉だと思います。これは、入管法第19条に規定されている留学生のアルバイト勤務時間規制の通称です。この規定によると、留学ビザで日本に入国した外国人留学生は、夏休みなど長期休暇期間中を除き、週28時間以上アルバイトをしてはならないこととなっています。

 仮に時給を1000円として計算すると、週28時間働いた場合の報酬額は2万8000円です。4週間を1カ月とした場合の月収は11万2000円程度となります。この程度の収入では、生活するだけならまだしも、大学の学費まで賄うのはほぼ不可能だと思われます。よほど時給のいいアルバイトでも見つけない限り、実家の支援や奨学金なしに外国人留学生が日本で生活し学費を捻出することはできないでしょう。

 では、現在日本にいる外国人留学生たちはどうやって生活費や学費を賄っているのでしょうか。

 結論から言えば、アルバイトをするほとんどの留学生がこの週28時間ルールを守っていないのです。

 今回、日本に留学経験のある中国人の知人たちにも、このルールについて聞いてみました。すると、異口同音に「周囲の外国人留学生を含めて誰も守っていなかった」と言います。さらには、厳格に守っていたら日本で学び続けることは不可能だったと話していました。

 もし入管に発覚すれば、最悪の場合、国外退去もあり得ます。とはいえ、当事者である外国人留学生はおろか、彼らを雇用するアルバイト先も、このルールを完全に無視していたというのです。おそらく現状も変わりはなく有名無実なルールとして扱われていることと思われます。

 今回取材した中国人留学生は、週28時間ルールに関する厳格な摘発は今後もないだろうと信じています。ただし、「最近導入されたマイナンバー制度によって、個人の勤務時間が雇用先を通じて当局に把握されてしまい、28時間の超過がばれて摘発されてしまうのではないかと仲間内で話題になっている」のだそうです。そして、もしもアルバイト時間を週28時間以内に収めなければならないとすれば、その時点で学費を得る道は絶たれ、大学進学の道も断たれるだろうと話していました。

留学生頼みになっているサービス業の現場

 このように「週28時間ルール」が有名無実化している状況を、どうやって改善していけばいいのでしょうか。

 結論を述べれば、筆者は「週28時間ルールは撤廃すべきである」という立場を取ります。

 働きながらでも日本で学ぼうとする外国人留学生たちへの単純な同情心があることも理由ですが、何よりもルール自体が日本の労働現場で明らかに有名無実化していることに加え、冒頭で述べた通り、もはや外国人留学生の労働力なしに日本のサービス業は成り立たないほど低賃金労働力が不足しつつあると考えられるからです。

 既に日本のサービス業は、介護業界などを筆頭に労働力が圧倒的に不足しています。ところが移民受け入れなどの議論は盛り上がりません。そんな中で増え続けている外国人留学生は、実質的に「労働移民」に近い存在になっていると言っても過言ではありません。

 実際に労働現場からも、そのような現状を示唆する声が出てきています。琉球新報が11月に報じた「沖縄観光もろさ露呈 7割『サービスに遅れ』 現場は留学生頼み」という記事では、外国人留学生の労働力に大きく依存する沖縄のホテル業の現状、並びに今後の受け入れ拡大を要望する声が報じられています。

 また、企業の中でも、外国人留学生を労働力として取り込もうとする動きが見られます。コンビニチェーン大手のファミリーマートは2010年から、大学入試支援サービスを行う企業などと提携して外国人留学生の総合支援スキームを組むなど、外国人留学生のアルバイト受け入れを積極的に展開しています。

 外国人留学生のアルバイト時間を規制するのではなく、むしろ、働きながらでも日本で学ぼうとする外国人留学に門戸を広げ、同時に、労働移民としての彼らの労働力をより活用する方向へ制度を整えることこそが、日本にとっての利益に適うのではないでしょうか。

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筆者:花園 祐