ポルシェ「パナメーラ」のために新設された『ライプツィヒ工場』潜入レポート:島下泰久

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 7月にドイツ ベルリンにて発表された2世代目となる新型ポルシェ パナメーラは、それを生産するライプツィヒ工場にとっても、新たな歴史を刻む1台となる。先代では、そのボディはVWハノーバー工場で製造され、ライプツィヒに運び込まれて様々なパーツを組み込んでいた。それが新型からは、いよいよライプツィヒ工場内に、まさにパナメーラのために新設されたボディ工場にて製造、そして塗装がされることとなったのだ。

 今回は、その最新鋭のボディ工場、アッセンブリーライン、そしてクオリティチェックの現場を見学することができた。5万6千平方メートルの広さを誇るこのボディ工場、さすが最新の施設だけに、そこには驚きが沢山用意されていたのだった。

 まず感心させられたのは徹底したデジタル化である。工場のデジタル化? そう言ってもピンと来ないかもしれないが、たとえば1枚1枚のボディパネルは、サプライヤーから納品される。その際、フェンダーならフェンダーを一度に何枚かプレスしてストックしておくのではなく、必要になって初めて必要な数だけ生産され、必要な時に納入されている。こうすればコストに直結する在庫を抱える必要はなくなり、場所も取らないからだ。もちろん、これはサプライヤーとの密接な関係無しには成り立たない話である。

 しかも、すべてのパーツはラベリングされている。それこそフェンダーの1枚1枚にまでだ。各工程でコンピューターの指示によって正しいパーツが取り出され、組み付けられていく。これらのデータは、すべてクラウドに保存され、後から追跡することができる。言うまでもなく、品質管理を徹底するためである。

【ギャラリー】Porsche Panamera (53枚)


 パネルの組み付けには、多彩な方法が使われている。新型パナメーラのボディでは実は溶接されている箇所は少ない。スポット溶接の数は、全部で約2500箇所。いや、それだって相当多いのだが、しかしマカンのボディが約5500箇所と聞くと、その半分以下かと驚くことになる。

 無論、それには理由がある。そう、新しいアーキテクチャーであるMSBを採用した新型パナメーラのボディは、多彩なアルミ素材、スチールが組み合わされて使われているからだ。溶融点の異なる素材同士を溶接するのは難しい。

 代わりに多用されているのは、パンチリベット、熱したボルトを高速でセルフタッピングさせるFDS(フロードリルスクリュー)、更に1台当たり総延長200メートルを超えるボンディング、つまり接着である。パーツ同士の接合が正確なアライメントにて行なわれるよう、すべてカメラで位置決めがされている。
 最新の工場には、「柔軟性の高さ」、「セットアップタイム無しに極限までバラエティを持つこと」、更には「データの透明化」などの要素が求められる。様々な車型に対応し、多様な車体を作り分けられ、それらの情報がすべてトラッキング可能ということである。

 そのためにボディ工場には475基ものロボットが導入されている。しかしながらフィニッシングライン、つまり仕上げ工程を受け持つのは、熟練の職人たちである。アルミボディの表面処理には、人間の掌の感性がどうしても求められる。わずかな凹みすら見逃さない"神の指"が、美しいソリッドブラックで塗った時にも尚、美しいボディを生み出すことに繋がっているのだ。

 こうして430の部品からなるボディが完成する。平均製造台数は1時間当たり13台分である。これらのボディはそのまま、こちらも新設されたペイントショップに流され、塗装が行われる。下地処理から乾燥、そして塗装チェックまでの6工程をクリアするのに、およそ15時間。ようやくボディが完成する。

 塗装が終了したボディは、いよいよアッセンブリーラインへと流され、ここで予めプリアセンブルされたパワートレイン、サスペンションなどのメカニズム系、インテリア、内外装などが取り付けられていく。ちなみに新型パナメーラの場合、ここで組み付けられるパーツは約5千点にも上る。

 しかも、実はこのラインは、全車種混合。つまり新型パナメーラ、マカン、カイエンの3モデルがランダムに流れている。もちろん、すべての車種がオーダーに応じて作られているから、同じ仕様が続くなどということは、まずあり得ない。それを知った上で見れば尚のこと、実に壮観な光景である。
 従業員は朝、午後、夜の3シフト制で働いている。面白いのは皆、毎日異なる工程を担当するということ。またエルゴノミクスにも配慮されており、たとえば長い時間、屈んだ姿勢を強いられるとか、ずっと上を向きっぱなしとか、そういうことにはらないようになっている。それもすべて質の高いクルマを生み出すため。そのためには従業員にも気持ち良く仕事をしてもらわなければならないのだ。

 このアッセンブリーラインにはオートメーション化された部分は少なく、多くの工程が手作業で行なわれている。エンジン、トランスミッション、駆動系にサスペンションなどのドライブトレインは一体になって流れてきて、これがボディと接続されるのを"マリッジ(=結婚)"とよく称するが、ここライプツィヒでも、やはり同じ言葉が使われていた。

 すべてのパーツが組み付けられた車両には、起動プログラムが読み込まれ、いよいよ"クルマ"になる。エンジンに火が入れられ、各種動作テストと調整が実施されると、更にすべてのクルマはテストコースに出て簡単な走行チェックまで行なわれる。異常が無ければシーリングテストを行ない、ボディが洗浄され、もう一度チェックを受けて、ようやく出荷ということになる。

 ポルシェにとってクオリティは最重要事項。新型パナメーラのために新たにクオリティセンターと呼ばれる品質チェック機関も開設されている。実は生産の前段階に始まり、生産開始後も定期的に品質テストを敢行。ラインから生産車両を抜き取り、例えばボディパネル同士の隙間は設計通りに収まっているか、などのチェックを行なっている。ここでもすべてはデータ化され、サプライヤーとも共有される。つまり確実で、迅速なアップデートが可能になるわけだ。

 こうして徹底的なクオリティ管理の下に完成した車両は、このライプツィヒ工場の場合、実に70%の車両が鉄道で出荷されるという。もちろん、日本向けの車両もそう。エムデン港から船に載せられ、世界中の首を長くして待っているオーナーの元へと旅立っていくのだ。日本への上陸も、もうすぐのはずである。

Photo: Porsche AG / Marco Prosch



■ポルシェジャパン 公式サイト
http://www.porsche.com/japan/jp/

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■島下泰久著
2017年度版「間違いだらけのクルマ選び」12月17日発売!
======================================= 私ひとりで書いたものとしては2冊めの「間違いだらけのクルマ選び」が、今年も発売となりました。
 今や、新車の評価だけならAutoblogなどのwebでも読めますが、それらに横串を通して見たり俯瞰で眺めたり別の角度から検証したり・・・・・・という場面では、書籍にはまだまだ力がある。書いていて、改めてそう実感した今回でした。
 そのクルマの良し悪しに留まらず、世の中での存在意義や、誰にとってベストチョイスとなり得るのかという話。あるいは明日のあのクルマはどうなるのか、未来のクルマ社会はどうなるのか、といったことまで含めて「クルマを語る」ことにも、これまで以上に力を入れています。
 良いクルマを買いたい人、これからのクルマがどうなるかを知りたい人、冬休みが暇な人・・・・・・、皆さんに、手にとっていただければ嬉しいです。よろしくお願いします。

モータージャーナリスト 島下泰久

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