「保育園不足」を解消するには1人当たり税額いくら必要か

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■新潟市や京都市は「待機児童」解消済み

待機児童問題はなぜ解消しないのか。それは絶対的に予算が足りないからだ。

保育所の定員は増えている。政府は2013年から「待機児童解消加速化プラン」を進めており、17年度末までに累計50万人増を謳う。しかし恐らくそれでは足りない。筆者の試算によると、「待機児童ゼロ」には312万人分の定員確保が必要だ。15年4月現在の保育所定員247万人を基準とすると、65万人分の定員が不足している。このギャップを埋めるためには保育所の新設や年間経費の増加で約1.5兆円が必要だ。

現在、0〜5歳の未就学児は624万人。全員分の保育所を用意すれば待機児童は発生しようがないが、幼稚園や家庭内保育を選ぶ人もいる。筆者が必要な定員と考える312万人分はこの5割に相当する。

これは新潟市が2006年から達成している「待機児童ゼロ」を基準にしている。新潟市は国が少子化対策に本腰を入れる以前から取り組み、5割の保育所定員を整備した。休日保育などメニューも増やしている。ほかにも政令指定都市では熊本市や京都市が5割に近い4割台に達しており、待機児童は事実上ゼロといえる状況にあるようだ。

1.5兆円という予算は、プレジデント編集部の求めに応じて、やや強引に推計したものだ。5割に達する定員65万人増のためには、100人規模の保育所に換算して6500カ所新設する必要がある。これは土地代を除いて1カ所につき約2億円とした。事業費ベースでは1兆3000億円となるが、一部を運営事業者が負担するため、国からの補助金は8700億円程度となる。

年間経費は主に保育士の雇用に充てるものだ。これは定員1人当たり100万円と考えた。65万人分では年間6500億円になるが、これは保育士の配置基準でかなり変わる。

国の配置基準は、4〜5歳児では概ね30人に保育士1人、3歳児では20人に1人、1〜2歳児では6人に1人、0歳児では3人に1人だ。

1人当たり100万円という保育経費は、0歳児保育が全体で10万人以下であることを前提にしている。毎年の新生児は約100万人なので、0歳児保育を受けられるのは10人に1人となる。0歳児にも希望者全員に保育所定員を設けるかどうかは慎重な議論が必要だろう。

日本の15〜59歳の現役世代は約7000万人。1.5兆円を均等割すれば1人当たり約2万1700円となる。消費税に置き換えれば約1%の負担になる。負担は少なくない。

予算を絞る方法はある。ひとつは「応能負担」の強化だ。多くの自治体では年収にかかわらず保育料を軽減している。国は3歳未満児の保育料基準を月約10万円としているが、実際には月6万円程度の自治体が多い。高年収の世帯には、しっかり負担を求めるべきだろう。

ただし保育料には第2子では半額、第3子では1割または無料になる措置がある。少子化対策を考えれば、この措置は維持したほうがいいだろう。

また複雑な点数制度の影響で、フルタイム共働き世帯の負担が軽減され、求職中のシングルマザーは保育所に子供を預けられないという事態も起きている。

少子化は社会全体で向き合うべき課題だ。「待機児童ゼロ」の実現可能性を高めるには、保育所を利用した分だけの「応益負担」ではなく、支払える能力に応じた「応能負担」を強めていくべきだろう。

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和泉徹彦(いずみ・てつひこ)
嘉悦大学経営経済学部准教授。1973年生まれ。2004年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得。11年より現職。専門は、社会保障論、福祉の経済学、財政政策。
 

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(嘉悦大学経営経済学部准教授 和泉徹彦 構成=呉 承鎬)