ホンダのワンメイクが6年間続いた後の2012年、シボレーはインディカーシリーズに復帰し、以来マニュファクチャラー・タイトルを獲得し続けている。

 2016年も、シボレーは16戦14勝と圧倒的な強さを誇った。その立役者は創立50周年のチーム・ペンスキーだ。シモン・パジェノーが5勝を挙げてキャリア初めてのタイトルに輝いたのをはじめ、ウィル・パワーがランキング2位で、エリオ・カストロネベスも3位と、トップ3を独占。4台体制で、実に16戦中10勝を挙げたのだ(パジェノーの他は、パワー4勝、ファン・パブロ・モントーヤ1勝)。

 同じシボレー陣営でペンスキーの宿敵、チップ・ガナッシ・レーシングは、エースのスコット・ディクソンが2勝をマークした。その他のレースでは、セバスチャン・ブルデー(KVSHレーシング)、ジョセフ・ニューガーデン(エド・カーペンター・レーシング)が1勝ずつを挙げ、ここまではシボレーユーザーだ。一方のホンダ勢では、アレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート、グレアム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)がそれぞれ1勝ずつを記録した。

 シボレーは2015年に始まったマニファクチャラー間の空力競争で優位に立ち、2016年はライバルであるホンダとの差をさらに広げてみせた。シリーズの2強チーム(ペンスキーとチップ・ガナッシ)をユーザーに抱えている点も大きなアドバンテージになっていた。

 しかし2017年、この勢力図に大きな変化が訪れる。チップ・ガナッシ・レーシングは使用マシンをホンダに変更。 ディクソン(タイトル4回、インディ500優勝1回)とトニー・カナーン(タイトル1回、インディ500優勝1回)を2トップに据える4台体制のガナッシは、「ペンスキーを打ち負かすには、彼らとは違う道具を使うしかない!」と決断を下したのだ。

 これにより2強チームが揃ってシボレーという不健全な状況は解消される。復帰するガナッシからホンダには有益かつ豊富なデータがもたらされ、他のホンダユーザーたちにもそれらはプラスに働くはずだ。

 ガナッシ以外にもホンダには朗報がある。4年連続チャンピオンの実績を持つブルデーもシボレーを離れ、ホンダドライバーになるのだ。彼はKVSHレーシングからエンジニアを引き連れてデイル・コイン・レーシングに移籍する。

 これまでホンダのエースチームとして奮闘してきたアンドレッティ・オートスポートも、エンジニア部門を強化し、4人目のドライバーにセッティング能力の高さで定評のある佐藤琢磨を起用してチームのレベルの底上げを図る。

 もともとホンダはシリーズ最大のイベントであるインディ500での勝利を第一目標に掲げて、エンジンと空力の開発を行なってきた。そして彼らはこの5年間でシボレーより1回多い3勝を挙げている。とりあえずの目標は達成しているのだ。

 2017年のインディカーでは、エアロの開発が2016年と同じものに凍結される。しかし2018年には全チームが同じものを使う新エアロキットが導入される。したがって、2017年もシボレーの優位は変わりそうもない。しかし、それでもガナッシはホンダへスイッチする。

「高速オーバルで速いホンダのエアロを使えば、一番勝ちたいレース=インディ500での打倒ペンスキーが可能」と考えたのも事実だろうし、「自分たちの実力をもってすれば、他のコースでの戦闘力もアップさせられるはず」と踏んだとも思われる。

 もちろん、ペンスキーは2017年も強い。ドライバーも2016年のランキング4位のニューガーデンまで獲得(シートを失ったファン・パブロ・モントーヤはインディ500のみに出場)して強化してきた。しかし、シボレー陣営にしてみると、頼れるチームはペンスキーだけ。ニューガーデンを引き抜かれたエド・カーペンター・レーシングは、彼を担当していたエンジニアも他チームにヘッドハントされて戦力ダウン必至だし、KVSHレーシングに至っては存続すら危ぶまれている。

 ガナッシと入れ替わりでシボレー陣営入りするAJ・フォイト・レーシングも、カルロス・ムニョスとコナー・デイリーという若手ドライバーの登用は魅力的だが、2人ともシボレーのマシンで走った経験がなく、トップエンジニアのチーム離脱によってあまり好結果は期待できない体制になっている。

 ペンスキー以外、シボレー軍団が何やら下り坂なのに対し、ホンダユーザーの各チームは戦闘力アップを目指した体制立て直しを行なっており、2017年は2016年以上の勝ち星を手に入れることができそうだ。その勢いで一気にマニュファクチャラー・タイトル奪還までいくとまでは考えにくいが、それでもホンダに戻ってきたガナッシ、エースの座を保つべく奮戦しているアンドレッティ、着実に実力をつけているレイホールやシュミット・ピーターソン・モータースポーツ、今やコンスタントに優勝争いに絡んでくるデイル・コインと、どのチームも高いパフォーマンスを発揮しそうだ。

 来季は開幕戦から「誰が勝つかがわからない」スリリングな戦いが見られるだろう。

天野雅彦●文 text by Masahiko Jack Amano