大手企業からスタートアップまで。農業はIoT活用の最前線

 「農業」といえば、天候に左右される、経験値が必要、利益が上がりにくいなど、重労働というイメージを抱いている人が多いのではないだろうか。事実、日本の農業は高齢化の進行と担い手の減少による労働力不足、生産性の低さが大きな問題となっている。

 農林水産省では農業が抱える問題に対し、農作業の省力・軽労化、新規就農者への技術の継承などを重要な課題とし、2013年11月よりスマート農業の実現に向けた研究会を設置。ロボット技術やICT活用に係る公的研究機関、民間企業との連携を図り、問題解決に向けた取り組みを行っている。

 国によるスマート農業への動きもあり、近年の農業はIoT・ICT活用の最前線として、パナソニックやNEC、富士通などの大手からスタートアップまで、さまざまな企業が参入を開始した。

 温室内環境遠隔モニタリングシステム「みどりクラウド」の開発・製造・販売を行っている株式会社セラクは、まだIoTという言葉が一般的に認知されていなかったころから、IoTの研究開発を進めてきたという。今回はみどりクラウドの開発責任者に、農業におけるIoTの役割や自社の取り組みについて話を聞いてきた。

 「わが社はもともと、IT企業としてITインフラの構築や、システム開発、WEBサイト制作を中心に行っていました。2007年くらいから、自社のプロダクトを持とうという動きがあり、アプリ開発なども行いましたが、ゲーム業界の多くがアプリに進出してきたので我々は独自の線で行こうと、今でいうIoT分野に移行していきました」

 当初は洗面台にAndroidを組み込んだスマート洗面台などをつくっていたが、社内に環境問題や地方が抱える課題に関心の高い人間が多く、それをITの力で解決することはできないかという思いから、みどりクラウドのプロジェクトが始まったのだとか。

農業がITに求めたのは環境データ

 セラクはこれまで農業とはまったく無縁のIT企業だったため、開始直後は農業がITに何を求めているのかもわからなかったし、どうやって農家とつながればいいかもわからなかったという。

 「困っていたときに、私の母校の先生が大阪府立大学に在籍していたご縁で、大阪府立大学と、農業系の環境計測装置などをつくられているエスペックミック株式会社の3社で農業向け環境モニタリング装置の研究開発を行うことになりました。

 大学とエスペックミックさんが間に入ってくださったおかげで、農家とつながることができ、現場では温度と湿度などの情報を求めているということが見えてきました。そこからさらに、必要とされている情報をITでどう表現にすれば良いのか、現場の要望を叶えるため、プロトタイプを作っては農家の方からフィードバックをもらうという作業を繰り返し続け、2015年にみどりクラウドが完成しました」

農業とITの間にある高齢化の壁

 平均年齢が65歳以上といわれている農業従事者。異なる分野のITを導入することに対して、年齢が高ければ高いほど抵抗を持つ人も多いという。

 「我々から農家の方にアプローチするのは難しい部分があり、年齢が高くなるほど導入される方は本当にまれです。ですが、導入しているうちの何件かは、60代以上のベテラン農家の方もいらっしゃいます。

 一定の収穫量を得ているし、技術も確立しているという方たちです。だったらもう必要ないんじゃないの? と思われそうですが、実際にみどりクラウド使ってみたら今まで見えなかったギャップが見つかり、そこを改善したことで今年の収穫量は例年に比べて120%に上げることができたそうです。

 高齢の方はもちろん、まだITを活用されていない方には、実際の事例を紹介させていただき、みどりクラウドの良さをご理解いただければと思います。以前、とあるベテラン農家の方が、『自分たちが若いころにトラクターが登場したおかげで、親世代の頃と比べ収穫量は格段に増えた。次の世代に向けて登場したのがIT。ITを使うか、使わないかで収穫量の差は大きくなるだろう』と、お話ししてくださいました 」

TPPが農業に及ぼす影響とは

 零細農家が多い日本の場合、TPPが締結されれば海外から輸入された安価な農産物によって、大きな影響が及ぶという不安の声もある。農業に関わる企業として、TPPにおける影響についての意見を開発責任者に聞いてみた。

 「内向きに考えると確かに安い農作物が入ってきて脅かされるという不安もあります。しかし海外での輸出も促進されるので、日本の農産物を海外に持っていく絶好のチャンスだと思います。

 日本の農産物は世界と比べて生産技術が高く、品質の良いものが多いんですよ。日本で作られているような生食で美味しいトマトは海外にはあまりありませんし、リンゴなどは日本産のものが1つのブランドとして世界へ流通しています。輸出が増えれば他の作物にも同じような動きがあるのではないでしょうか。これを機にスマート農業の幅も広がっていくのではないかと思います」

みどりクラウドでわかること

 実際にみどりクラウドではどういったことがわかるのだろうか――?

 「みどりクラウドは、ハウス内の環境を計測するセンサーを搭載したみどりボックスをハウスの中に置くだけで、離れた所からスマートフォンやタブレットで中の状態を確認できるようになります。

 気象庁による気象予報データを取得し、圃場に近い予報ポイントの気温・雲量・雨量・風向・風速を表示。これらの予報データによって、圃場内の環境変化を予測することが可能になります。クラウドは無料でも利用できますし、ボックスの設定は1分で完了するので、低価格、簡単という2点も人気のポイントです」

 みどりクラウドは発売から1年。すでに4回の大きなアップデートを行い、40種類もの機能が追加されてきた。「みなさんの声を活発に取り入れているので、ご要望があれば可能な限り機能を追加していきたい」と開発責任者は語る。今後については機械学習などを入れて、生育予測や市場予測、病理予測を実現して農家の方にフィードバックすることや、無線化を考えられているのだそう

 これまで交わることのない分野だった農業とITの世界。

 政府と企業の取り組みにより、最先端テクノロジーが投入された農業は、今後もIoTを活用した進展が期待できる注目の分野となっている。

株式会社セラク
http://www.seraku.co.jp/

みどりクラウド 
https://midori-cloud.net/

筆者:Sayaka Shimizu