大人になっても少女性を失わず、かわいいものや服を愛する女性-そんな大人女子に向けたファッション&カルチャー雑誌『ETERNITA』(宝島社)が話題になりました。表紙はアリスの衣装をまとった神田沙也加さん。20代〜30代をターゲットとしながらさまざまなジャンルのロリータファッションを取り上げ、“大人になっても自分らしく”を追求する1冊となっています。

そこで、『ETERNITA』の企画・編集を手掛けた鈴木真理子さんへインタビュー。同誌に込めた想いをうかがいました。

鈴木真理子さん

男性だけでなく、女性も「少女の心」を持っててもいい

――『ETERNITA』を発行された経緯をお聞かせください。

鈴木真理子さん(以下、鈴木):企画立ち上げにはもう一人のパートナーがいて、私も彼女も原宿のストリート系やロリータ系雑誌の編集を長くやっていたんです。ロリータ系の読者モデルとの付き合いが長くなるなかで、読者モデルも年を重ねていき、「いつまでこの服を着ていられるだろう」という話題も出てくるようになったんです。そんな彼女たちが読めるような雑誌を作りたいと、宝島社さんに企画を持ち込みました。

宝島社さんでは以前、ロリータ服を着た神田沙也加さんや、ロリータ系読者モデルの深澤翠さんのスタイルブックを発売していて、それが予想以上の売れ行きだったと聞いています。需要は多くあるとわかっていたため『ETERNITA』の企画もスムーズに進んだようです。

――表紙のコピー「大人になったアリスは何を着る?」が印象的でした。タイトルの『ETERNITA』や、本誌のキーワードである「オトナアリス」にはどんな意味を込められたのですか?

鈴木:読者にどういったワードなら強く訴えられるかと考えたときに、思い浮かんだのが「アリス」でした。まず「少女」を想起させる言葉ではありますけれど、聞く人によっては、英国やヨーロッパの香り、少女の冒険、ちょっとストレンジなもの、ヴィクトリアン、現代に通じるファッションの始まる時代…そういったイメージを連想させる言葉ですよね。

『ETERNITA』はイタリア語で「永遠」という意味です。正確にはETERNITÀと綴りますが、日本人には馴染みにくいので、アクセント記号を外してETERNITAにしました。“少女らしいものが好きならずっと身につけてもいいんじゃないか”、“好きなものを手放す必要はない”という想いを込めました。

MODEL/深澤翠、PHOTOGRAPHER/小野寺廣信(BLUE)

――鈴木さんにとってロリータファッションは「永遠」なのでしょうか?

鈴木:本年発売された漫画雑誌『月刊flowers』7月号(小学館刊)に掲載されていた漫画家の萩尾望都さんと山岸涼子さんの対談記事のなかで、望都先生が仰っていた言葉がとても印象的でした。それはこのようなものでした。

「少女まんがが存在してよかったなと思うのは、「少女はいる」っていうことに皆が気づいたことです。男の人が「いつまでも少年の心を持って」といわれるのに対して、少女はいつかお母さんにならなきゃいけない。昔はそのことに誰も気がついてくれなかった。だけど、女の人の中にもずっと少女は存在するんです」*月刊flowers 2016年7月号(小学館)

ロリータファッションも同じなんです。少女の心や趣味をずっと持ち続けていたい人もいる。そんな人たちのためにもロリータ服や、レースやフリルの服が存在しているんです。

大人のロリータ服や、リボン・フリルは痛い?

――手放す必要はないけれど、“じゃあ、大人はどう着こなすのか”が本誌のテーマの一つですよね。

鈴木:そうですね。表紙の「大人になったアリスは何を着る?」というキャッチの通りです。今まで立ち会ったことのないテーマだったので、洋服のブランド選びはとても悩みました。現ロリータと元ロリータたちに会って話を聞き、彼女たちが現在何を着ているのかしっかりとリサーチしました。

結局、みんな「オトナな格好をしなきゃダメだよね」と言いつつも、やっぱりかわいい服を買っているんですよ(笑)。年齢によって変化を加えるのであれば好きなブランドを100%変える必要はなくて、好きなブランドのなかで大人っぽい服を選ぶことでも変化できるんです。

――ロリータファッションに限らず、リボンやフリルなどの服を大人の女性が着ていると、「痛い」と言われる風潮がありますがどう思われますか?

鈴木:「痛い」という表現はすごく失礼だと思うし、発言した人の意識の低さを感じるので、その言葉に呑まれる必要はないと思います。でも「普通と違う」と感じられるのは仕方ないですよね。だって間違いなく、多数派のファッションではないから。私も父に一度「そんな子供っぽい格好をするな」と言われてたことがありますよ。

私のスタンスとしては、雑誌を通して「ファッションはこうあるべき」「服はこう着るべき」という言い方はしないようにしていますし、批判もしません。

ヨーロッパ宮廷文化では大人の女性のものだった

MODEL/深澤翠、PHOTOGRAPHER/小野寺廣信(BLUE)

鈴木:それにそもそも、レースやフリルって、大人だって着ていたんですよ。わかりやすく言うと、18世紀マリー・アントワネットの時代の、ヨーロッパ宮廷文化を振り返って欲しいのですが、当時は大人の女性のみならず、男性までもが贅沢ができる身分の象徴として、着用しています。

時代が移り、ロリータ服の誕生でアントワネットの生きたロココ時代の服の一部がよみがえり、またモードの世界では19世紀ヴィクトリア時代の服のリバイバルなどもあって、レースやフリル、リボンが大人の遊びのための服として、時代に合わせて洗練されて、素敵に生まれ変わり続けているんです。

現代だって、ここ10年を振り返ってみても、時代は急激に変わってきているので、洋服自体も変わってきているというのは、洋服屋さんに行く人なら気がついているんじゃないかしら。

リボンがついているからといって「子供っぽい」とは言い切れない時代になっています。洋服自体が、着たい人と、作りたい人達の心のもとに、進化を遂げているんです。レースとリボン、フリルは子供のものという考え自体が、今の時代にはそぐわないと思います。

>>次回は、鈴木さんにフリルやリボンなどスイートな服の着こなし方を教えていただきます。

紙面提供:宝島社

(新庄圭)