ベネズエラの混乱を報じる「El Pais」紙

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 原油の埋蔵量では世界一とされるベネズエラは軍人ウーゴ・チャベスが1999年にクーデターを起こして政権に就いて社会主義革命(ボリバル革命)を行った。政府の方針に背く企業は政府が介入して国営化させ、多くの企業家が経営の放棄や廃業した。その為に国内に物資は不足し、輸入に頼らねばならなくなっていた。政府の歳入の80%は原油の輸出によるもので、原油価格が高い期間は国家財政は潤った。輸入の為の資金も充分にあった。しかし、最近の原油価格の大幅な下落はベネズエラ経済を一挙に後退させ、財政危機に陥っている。

 革命が始まってから16年経過した今、チャベスの後継者マドゥロ大統領の政権下で国の経済は完全に退廃し、ハイパーインフレが続いている。<2008年から現在までの累積インフレ率は2358%>という驚異的な記録を更新しつつある。(参照:「El Confidencial」)

 さらに言えば、今年だけで<インフレ率は700%>となっている(参照:「El Pais」)

 その為、現在流通している通貨2、5、10、20、50、100ボリバルでは通貨でありなが商品の価格が高額であることから少額通貨では物が買えなくなって使用されなくなっている。そして、主に流通しているのは100ボリバル紙幣が大半という状況になっている。買い物をするにも、支払いで100ボリバル紙幣が何十枚も必要となっているのだ。価格の高騰から、一部の市場では紙幣を数えて行くのは時間がかかるということで、何十枚、何百枚と束に重ねて目方を計って用意された紙幣の総額がいくらになるか判断するという現象も起きている。

◆麻薬組織対策で旧札無効化も

 そこで、政府は新しく高額紙幣を発行することを決定し、12月15日から市場に導入させた。それは500、1000、2000、5000、10000、20000ボリバルの6種類の紙幣とコインは10、50、100ボリバルの3種類である。新しい紙幣を発行するのに、製造するコストが割高にならないように紙幣の色は従来のものを使い、デザインも既存の紙幣のデザインを尊重して、金額の単位だけが異なるという形で紙幣を印刷することにしたという。

 その一方で、政府は新しい通貨を導入する72時間前に100ボリバル紙幣の流通を一時的に中断させたという。それが麻薬組織の手に入るのを防ぐためであった。彼らは隣国の<コロンビアとブラジルに100ボリバル紙幣で凡そ3000億ボリバル(35兆円)を隠し持っている>とマドゥロ大統領は推定しているからだという。この策で、彼らが保有している100ボリバル紙幣を一挙に無効にしよという狙いである。(参照:「HispanTV」)。

 物資の不足を補うべく、隣国のコロンビアとブラジルの国境を越えて買い物に出かけるベネズエラ人は後を絶たないそうだが、そんな中、政府はコロンビアとブラジルとの国境も封鎖した。この影響で、それまで隣国に買い出しに行っていたベネズエラ市民も足止めされることになった。

◆新札届かず旧札も無効化で大混乱

 さらに加えて、今度はスウェーデンで発行している新札の発送が遅れ、新しい高額紙幣が約束された15日までに支給されていないという状態に陥った。なんと、ベネズエラ中央銀行でさえ新札は届いていないのである。その結果、住民の不満が爆発し、第2都市のマラカイボでは市民が不満から店に入って商品を略奪するという出来事も発生した。(参照:「El Corabobeno」)

 マドゥロ大統領も慌てて100ボリバルとの交換を<1月2日まで延期する>と18日に発表……と同時に、新札が予定通り届かないというのは反政府派の仕業だとした。彼自身の否は認めず、常に他人のせいにするのがマドゥロ大統領の政治である。(参照:「El Pais」)

 その様な事態の中で、両替で長蛇の列を作っている市民を相手に<コーヒー、ジュース、パンなどを売る新しいビジネスも誕生した>という。勿論、<価格は全て100ボリバル均一価格>だ。その一方で、無効となった100ボリバル紙幣を売買で受け取ることも拒否する場合が多く、市民はお金は持っていても何も買えないという状態になっているという。(参照:「BBC」)

<文/白石和幸 photo by Garry Knight via flickr(CC BY 2.0)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。