金正恩氏

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北朝鮮では毎年水害による被害が起きているが、今年8月末に北朝鮮北東部を襲った台風10号(ライオンロック)は、例年以上に甚大な水害被害をもたらした。

北朝鮮当局は「解放後初の大災難(建国以来の災害)」としながら、被災者数を「6万8900人」と公式にアナウンス。しかし、その後の韓国の民間シンクタンクや国際赤十字が把握した情報から、実際にはその4倍以上、30万人にも上ることが判明。さらに、被害拡大の裏には犯罪的ともいえる「人災」が隠されており、当局はそれを隠蔽しようとしていたことが明らかになる。

500人死亡の地獄絵図

もともと北朝鮮は、大事故や災害が起こった際、国の体面を守るため、そして安全対策の不備を国内外から非難されないよう被害規模を隠蔽する悪弊がある。過去にも、橋梁の建設現場で500人が一度に死亡する地獄絵図のような大惨事が起きたにもかかわらず、事故の詳細は一切明らかにされなかった。

(参考記事:北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

しかし、デイリーNKや米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の内部情報筋によると、水害だけでなく復旧現場でも安全対策を無視した作業による事故が多発し多くの命が奪われた。山崩れや土砂に流されるなどの事故で、9月12日から29日までの間に100人以上が死亡したという。その後も被害が増えている可能性が高い。そもそも水害被害を拡大させたのは北朝鮮当局の「ある指示」によるものだという指摘もある。

水害が起きて間もない頃、デイリーNKの内部情報筋が伝えてきた情報によると、中央の指示によって西頭水(ソドゥス)発電所に流す水を貯めている両江道(リャンガンド)大紅湍(テホンダン)郡の円峰(ウォンボン)貯水池と、咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)郡を流れる城川水(ソンチョンス)の上流にある馬養(マヤン)貯水池の水門が予告もせずに開かれたという。

放流された理由は、発電設備の崩壊を避けるためだった。これにより、茂山、会寧(フェリョン)、穏城(オンソン)など流域の町が次々に濁流に飲み込まれた。

「60あまりの村が跡形もなく消え去り、国境警備隊の哨所(監視塔)、兵舎、軍官(将校)用の住宅もあらかた押し流された」(情報筋)。北朝鮮当局は人命より既存設備を守ることを優先したのだ。こうした人命軽視の姿勢に対して一部の住民からは怨嗟の声が出ているが、当然のことだろう。

それでも「北部地域被害復旧戦闘」は進み、11月はじめには会寧市に1800戸、茂山郡には1500戸、延社(ヨンサ)郡には500戸の住宅が建てられたが、ここでも新たな問題が起きる。北朝鮮当局は出身成分が良い被災者に優先的に住宅を割り当てたのだ。

あり得ないトイレ事情

「出身成分」とは、「親の職業は何であるか」「過去、身内に反体制分子はいなかったか」など、出自や家庭環境をもとに国民を上から「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」の3階層に分け、それをさらに50前後のカテゴリーに細分化したものだ。北朝鮮国民はそのうちのどこに属するかによって居住地、職業、食料の入手、公共サービスにおいて大きな差をつけられてきたが、今回も同様のことが起きた。

核心階層には、好条件の被災住宅が割り当てられる一方、それ以外の被災者、例えば家族に脱北者がいる被災者は後回しにされたうえで、ハーモニカ住宅(1棟に4戸が入る長屋)や、マンションの最上階を割り当てられた。最上階というと聞こえはいいが、実は電力事情の悪い北朝鮮では最も条件が悪い。金正恩氏の肝いりで建てられたマンションにおいても、信じられない方法で「トイレ(汚物)問題」を解決する住民がいるほどだ。

なによりも金正恩党委員長は、「解放後初の大災難」が起きていたにもかかわらず、第5次核実験を強行し中距離弾道ミサイル「ムスダン」の試射を行っていた。災害の裏に隠された人災に加えて、その後の対処不手際による二次災害。さらに、復旧事業における差別的施策など、何から何まで国民の生命と安全を軽視し、人権を無視するのが金正恩体制の本質なのだ。