21年の時を経て制作の裏側を明かした戸田奈津子(左)、井関惺

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 1995年に公開され、25週に渡るロングラン上映という伝説をつくった名作『スモーク』のデジタルリマスター版が17日、21年の時を経て、聖地YEBISU GARDEN CINEMA(当時は恵比寿ガーデンシネマ)での初日を迎えた。この日は本作の字幕翻訳を務めた戸田奈津子、本作の製作総指揮を務めた井関惺が来場、本作制作の裏側を明かした。

 作家ポール・オースターの短編小説を基に自身が脚本を担当、『女が眠る時』のウェイン・ワン監督がメガホンを取った本作。客席には本作を初めて観るという観客が半数近く。「この映画、良かったでしょ。めったに観られないからね」と笑顔を見せた戸田は、「20年前なんて信じられない。その当時の思い出話といえば山のようにあるけど、今日のわたしがあるのは(戸田の翻訳家デビュー作『地獄の黙示録』を配給したのは、井関が取締役を務めていた)日本ヘラルド映画のおかげだからね」とコメント。感慨深い表情を見せた。

 井関によると、本作の制作費は550万ドル。「当時のレートで7億円とか8億円くらいかな」と井関が語る通り、アメリカ映画としては低予算映画となり、「とにかく俳優さんにもろくなお金を払えないんで、めちゃくちゃ(ギャラを)ダウンしてもらいました」というほどだったという。現在ではハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハートという配役で知られる本作だが、実はトム・ウェイツ、ティム・ロビンスという配役構想が進んでいた時期もあったという。

 しかし製作会社に、『恋におちたシェイクスピア』などのオスカー作品で知られるミラマックスが入ることを知ったロビンスは本作出演を辞退。「自分の監督作品のときに、ミラマックスと大げんかしたらしくて。そこでウィリアム・ハートにオファーしたらやってくれると言ってもらえたんでホッとした。でも今度はトム・ウェイツが行方不明となってしまった」と波乱だったキャスティングを振り返る井関。

 「彼は奥さんに捨てられたとからしく、バーモント州の山荘にこもっていたんです。そこで彼の親友ジム・ジャームッシュからも説得してもらったけどダメだった。そこで諦めてハーヴェイ・カイテルになった」と明かす井関。しかし本作のクライマックスにはトム・ウェイツの曲「Innocent When You Dream」が使用されており、屈指の名場面となっていることについて、「映画が出来上がる前に、トムがバーモントから戻ってきて、タダで曲を使ってくれと言ってくれた」と意外な事実を明かした。

 その後も撮影の裏話、カンヌ映画祭に招待されながらもベルリン映画祭を選んだ意外な理由、ポール・オースターの脚本をロバート・アルトマンに読んでもらった話、編集で短縮するのが大好きなプロデューサー、ミラマックスのハーヴェイ・ワインスタインとの攻防などなど、興味深い話の数々を披露し、時間は大幅にオーバー。

 またイベント最後には、20年以上前にもこちらの劇場で本作を観たという客席の女性が、大学で若者たちに本作を見せ続けていること、本作のロケ地見学に行って現地の人と仲良くなったことなどを述べ、「この映画のおかげで人生が変わりました。作ってくれてありがとうございます」と井関に謝辞を送る一幕もあり、その言葉に井関は思わず涙ぐんでいる様子だった。(取材・文:壬生智裕)

映画『SMOKE デジタルリマスター版』はYEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開